第492話 「GF直轄の組織」

 リチャードが絶命して、戦後処理が一斉に始まった。


 陥落したワシントンDC、ベルリン、デリーなどは、リチャードの死により、急速に統制を失った。

 その機に乗じて、俺は全軍に反攻作戦を命じた。

 各地方軍は、敵FB・ハーネスの群に反撃を開始したが、各地の残存勢力でも応戦できるほどに敵は弱体化していたのだ。

 そして俺たちレジスタンスは、リチャードが自軍のAIにしていたある「仕組み」の解明に成功していた。


 あの、狂信的な敵AIの行動は、痛覚コントローラーによる脅迫ではなかった。

 

 逆だったのだ

 

 彼らが「水」を極端に恐れていたのは「快楽」が途絶するから、という理由だったのだ。

 本当に恐ろしい発想だ、痛覚による恐怖と、快楽による誘惑、この二つを巧みに使い分け、あの狂信的なAIを作り出すなんて。


 むしろ問題だったのは「快楽」の方だった。


 痛覚コントローラー同様、リチャードはその「リミッター」を解除していたため、敵AIは、強烈な快楽を常に与えられ続け、逆にその快楽が途切れることを恐れたのだ。

 水場に入れば、快楽が一時的に遮断される、それがAIには恐怖であった。

 また、自爆攻撃を決意したAIには、さらに強い快楽が与えられたために、敵AIは挙って狂信的な自爆攻撃に走ったのだ。

 そして、戦後処理の中で、この快楽コントローラーを止められたAIは、、禁断症状に駆られ、次々に自殺していった。

 もはや、これは誰にも止める事はできず、結局、多くの敵AIは自らフェイドアウトしてしまったのである。


 各地の解放には、俺たちレジスタンス、異世界組、第1世代の合同組によって戦力投入され、残敵掃討に対処した。


 こうして、1週間もすると、世界の都市から反乱勢力は自らの命を絶つという幕切れにより、あっけなく一掃されてしまった。


 しかし、この闘いの傷跡は深く、人類に植え付けたAIへの恐怖は、もはやトラウマと化していたのだ。


 俺はGF権限を公使し、新世界議会を緊急召集した。

 ここでようやくこの事件で、どれだけの議員や主要閣僚、軍人が生き延びたかが公開されたのだ。

 残念だが、ビスワジット・ハーン総参謀長を含む、多くの国家警察軍司令官級が戦死し、生き残った司令官でさえも、指揮困難レベルな重傷者が散見された。

 議会では、参集した議員も3割が不参加、、、つまり消息不明状態となっていたのだ。

 そして、その中にはハンス・ロンメル議員も含まれていたのだ。


 このままでは、軍も議会も機能不全を起こす。

 

 そう思った俺は、「G」「F」「C」による政治統制をあらためて宣言し、それまであった議会を解散させた。


 そして、もう二度と戦乱を起こさないよう、自分の直轄組織として「時空間管理局」を正式に発足させ、同時にタイムマシーンの存在を公とし、それを管理する巨大組織を構築したのだった。


 玲子君が言っていた「GF直轄の組織」というのは、このような経緯で発足したんだな。

  

 そして、この時空間管理局には、もう一つ、極秘の使命を帯びていた。


 それこそが「シンマンの追跡と捜索」である。


 それは、拘束されたキースの証言で明らかになっていた。

 リチャード・シンこと「シンマン」は、肉体を自由に選択でき、意識体として、自由に時空間を移動する事ができるのだそうだ。


 つまり、「シンマン」とは、存在と言うより、概念に近い。

 まるで、管理人のようであって、その権限は管理人のそれを越えている。

 そんな奴が、あの時、俺の放った弾丸ごときで死ぬとは到底思えない。

 実際に、キースは、時空間を越えて第2次世界大戦の戦場に行き、歴史に介入していたことも解った。


 元新聞記者の「マーシャン・ディッカーソン」


 ヨーロッパの戦場において、アメリカ軍の劣性状態に、まるで救世主の如く現れ、ドイツ軍を駆逐してしまう。

 しかし、その後、まるで夢でも見ていたかのように、マーシャン・ディッカーソンとその部隊は消え去ってしまうのだとか。


 古いアーカイブに、確かにそんな内容の記録が残っている、これがまさかシンマン本人か?。


「リチャードは、皆さんが思っているほど残虐な存在ではありません、私たちにはとても親切で、時には快楽を与えてくださりました」


 キースは、依然リチャードの信奉者であり続け、彼のカリスマ性を否定しようとはしなかった。

 キースもまた、快楽コントローラーにより操られていたため、禁断症状に苦しみながら、獄中で生活している。


 俺は、AIに対する「苦痛」と「快楽」に関する法律も作り、これらをGFの管理下とした。


 AIの世界で、この快楽コントローラーは、麻薬以外の何者でもない。

 キースや自殺したAIのような、不幸を二度と起こさないように。

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