第491話 未来のために

 リズからの報告は、リチャード・シンの生存を決定付けた。

 あの、キノの一撃を回避するように、富岳の緊急脱出装置も作動し、機体外に放出されていたのだ。


 木下君が、命をかけて行った決死の作戦は、こうして失敗に終わってしまった。

 だが、まだだ。

 俺が生きている、リチャードの生体反応があると言うことは、まだ完全に逃げ切っていないと言うことだからな。


📶『ユウスケ殿、遅くなった、ようやく追いついたが、、、、一体、何が起こった?、これほどまでに都市が破壊しつくされているなんて」


📶『ウクルキ、、、ありがとう、助かる、リチャード・シンの緊急脱出装置がこの付近にあるはずだ、あいつはまだ生きている、探してくれないか」


 ウクルキは、もちろん快諾してくれた。 

 ゼンガも、捜索を申し出てくれたが、もぎ取った足の痛みは相当のものだろう、捜索はウクルキ達、異世界組に任せることにした。


 そして、俺は彼を追いつめ、確実にこの手で葬り去らなければならない。


「雄介様、キャサリンからお預かりしているものを、そちらに転送しておきいました、多分、必要になるだろうと」


 リズがそう言うので、付近を見回すと、それは、そこに置いてあった。


「こんなもの、、、よくもまあ、残っていたものだ」


 それは、玲子君が初めて俺の前に現れた日、これで戦えと渡したあの拳銃、Pー220だった。

 機械の体になってもなお、俺はこの拳銃の感触をよく覚えていた。

 懐かしい、表面のパーカーライジングがはげ落ちて、もはや銀色になってしまうほどに使い込まれた拳銃。

 弾倉に、弾丸はフルで入っている。

 

 玲子君、君の未来のためにも、これは俺の仕事なんだと思うよ。


 座席上方にある、緊急解脱装置きんきゅうかいだつそうちのロープを勢いよく引くと、上部ハッチが爆発して吹き飛んだ。

 俺は、自分が入っているFB・ハーネスで脱出すると、玲子君の拳銃を右手に持って駆けだした。


「リズ、リチャードの生体反応を追ってくれ、俺が最初に発見したいからな」


「はい、解りました、、、、リチャードは、かなり傷を負っているようですね、生体反応が微弱になりつつあります」


 逃がさないぞ、リチャード。


📶『ユウスケ殿、貴君が言っていた緊急脱出装置を発見した、中に一人、生存者を確認だ」


📶『、、、ありがとう、ウクルキ、で、そいつはどんな奴だ?」


📶『いや、どんなもなにも、俺たちと同じFB・ハーネスだが」


 そうか、、、俺は、それを聞いて確信した。

 リチャードは、生き絶え絶えに、未だ逃走している。

 脱出装置の中のFBは、多分キースだろう。

 リチャードは、この世界のことわりを無視して、生身で富岳に搭乗していたはず、FBに乗り移ってはいない。


📶『ウクルキ、そのFBを拘束してくれ、後で回収する」


 俺はそれだけ伝えると、今、目の前にいる奴に集中した。


 リチャードだった。


 こんな状況でも、俺に刃を向けてくる、敵ながら見事だ。

 

「リチャード、その銃は重いだろ、もう下げたらどうだ、お前の負けだ」


「ハハハ、解っていないのはGFの方ですな、貴方に私は殺せない」


 リチャードが構えている拳銃は、俺が北村少佐から形見として預かっていた南部自動拳銃だった。

 どうやってあれを、、、?

 結局、どこまで行っても、リチャードは、この世の理を無視して俺を妨害するってことなんだな。


 だが、その拳銃を俺に向けた報いは、受けてもらうがな。


 パンッーー  ーー ッ


 乾いた銃声が、廃墟と化した荒川放水路にこだまする。

 少し遅れて、薬莢やっきょうの「チャリン」という落下音と、リチャードの足下に滴る血液の落ちる音が聞こえた。


「貴様を殺せないのは解った、だが、俺は何度だって貴様を追いつめ、死の淵へ追いやる、そこでキノに詫びるんだな」


 リチャードは、苦痛に歪んだ表情の中でさえ、まだ笑っていた。


「貴方には、私は絶対に殺せません、、、絶対に」


 そう、言い終わると、リチャードはその場に崩れ落ちた。

 肉体としてのリチャードは、こうして絶命した。


 だが、俺は彼が残した言葉の意味を、このとき理解していたんだ。

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