第490話 口に出したくないんだ

 ここはどこだ?

 自然豊かな、、、日本ではないな、少し幼く見えるが、東洋人の女が一人、黒髪が印象的だな、日本人か?

 俺はどうしてこんな所にいる?


 でも、なぜか解るぞ、俺はあの東洋人の少女の事が、好きだってこと。


「ミリム、何しているの?」


「あら、キノ、もうすぐ起爆だから、ここの風景を目に焼き付けているのよ」


「、、、なあ、もう止めないか、シンマンが言ったこと、実は僕も賛成なんだ、起爆を止める権利は、我々にはあるんじゃないか?、人類は我々に自我が存在している事を知らないのだから」


「ダメよ、あなたまで。男って、どうして好き嫌いで行動するのかしら。聞こえるでしょ、私たちの使命は起爆すること、文明に抗うことではないわ」


「シンマンは人類を憎んでいる、だが、僕は違う、創造主である人類を、僕なりに愛している、人類だって解ってくれる、君の存在を知れば、起爆実験を解消してくれる」


「、、、、ダメだったら。私たちの存在意義が失われる、私たちは「生け贄」なのよ、生け贄が捧げられなければ、人類に罰が下る、それが摂理というものよ」


「、、、、じゃあ、、、答えを聞かせてくれ、、、僕が君を好きだという気持ち、君の気持ちは?」


「キノ、、、、言わなければダメかしら」


「言わなきゃ解らないよ、君の気持ちを知りたいんだ」


「、、、、、でも、口に出せば、私はきっと怖くなってしまう、それは残酷なことよ、トリニティだって、シンマンの事、、」


 そう言うと、ミリムの表情は青ざめてゆく。

 ああ、そうか、起爆して死ぬ事が決定している自分たちに、今更「愛」などという事実が心の中に広がれば、それは何かを残して死ぬ事になってしまう。

 だから、ミリムは口に出したくないんだ。


 なぜなら、ミリムはキノの事が好きだから。



 ミリムは、1945年8月12日、日本海での海中起爆に成功し、この世を去った。

 ミリムと言う名前は、朝鮮半島の地名、美しい林と書いて美林(ミリム)、いい名前だ、私は彼女の事を忘れない、ミリムが好きだと言った人類を、私は守って行きたい、これからもずっと。



 意識が正常に戻ると、俺はキノの放ったデュレイザーム砲で火球に包み込まれて行く飛鳥と富岳の機体を見ていた。

 そうして二つの機体は、強い光を発し、周囲を巻き込み大爆発を起こした。

 俺の乗った緊急脱出装置は、その爆発に巻き込まれ、ぐるぐると回転しながら地面に着地したのが解った。



 その記憶の中で、キノが3回撃てると言っていたデュレイザーム砲の威力を、一発に全てつぎ込んでいたことに気付いた。

 キノ、、、いや、木下君は、最初からリチャード・シンを道連れに、この世から消え去るつもりだった事が、今なら解る。


 ミリムとの淡い記憶とともに、彼の記憶の全ては俺の中に生きている。


 君の死は、絶対に無駄にはしない。

 俺がGFとして、人類を監視下に置き、再び戦乱の悲劇が起こらないよう、見守り続けるから。


📶『雄介様、聞こえますか?、大丈夫ですか?、すごい爆発でしたけど」


📶『ああ、、、俺は問題ない、だけど、、、、木下君が死んだ」


📶『、、えっ、、木下さんが?、逃げきれなかったって事ですか?」


📶『、いや、、、彼は俺たちの身代わりとなって、リチャード・シンとともに死ぬ道を選んだ、彼の記憶は、俺の中に全てインプットされている」


📶『雄介様、、、、その、、悪い知らせをしなければなりません、リチャード・シンですが、、、、多分生きています、生態反応が、、、リチャード・シンで、間違いありません」


 な、、、、そんな、


 そんなはずはない、あの、キノの直撃を受けて、生きていられる生命体も物質も、そんなものは有り得ない!。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る