第489話 君が生きる道

 ゼンガが操る「ビッグ・ドット」は、リチャードがエネルギーを供給する「富岳ふがく」を翻弄し続けた。

 あと1分、ゼンガの動きなら、なんとか持ちそうだ。


「キノ、準備はいいか?」


「はい、発射まで30秒」


 キノは、今エネルギー体として、自我を失いかけている。

 恐らくは、リチャード・シンも、同じように自我を失いかける状態の中で、必死に応戦しているんだろう。

 

「ゼンガ!」


 それまで軽快に戦っていたビッグ・ドットの左足が、富岳の右手に捕まれた。

 

「凄いなこのパワー、さすがの俺も今回はヤバいかもしれねえな」


 ゼンガは突出して駆けつけてくれた、これ以降の増援の到着は見込めない。


「、、、、キノ、俺がゼンガの体を奪い取る、その瞬間、撃てるか?」


「はい、しかし、いくらなんでも、この距離で撃てば、本機も持ちません」


「、、、、いずれにしても、この機体はもうダメだ、五分の勝負ではダメなんだ、勝たなくては」


「、、、、わかりました、そうですね、この一撃で、彼を仕留めます」


 ゼンガ、済まない、多分気を失うほど痛いと思うが、勘弁してくれ。

 俺は、飛鳥の機体をユラユラと富岳に接近させると、腹部機関銃の銃口をゼンガの脚部に向けた。


「ゼンガ、痛いと思うが、堪えろ」


 ビッグ・ドットの足の付け根付近に、俺は機関銃弾を集中させた。

 ゼンガの悲鳴が聞こえる。

 無理もない、さすがにこの距離で撃ち続けられれば、気の遠くなるような激痛だろう、だが仕方がない。


「ゼンガ、済まない、、、左足を捥ぎ取って、反対側の足で大きく飛べ!


 ゼンガは、最初に耳を疑ったが、その意味を瞬時に理解し、一度大きく深呼吸をすると、あの跳躍の時に使う呼吸法と足裁きによって、右足で飛んだ。


「ウアッ!」


 機関銃弾で間接部分が脆くなってはいたが、自分で自分の足を捥ぎ取る事が出来る戦士は、きっと少ない。

 

「キノ、撃て!」


 キノが頷いたのが理解できた。

 もちろん、目で見ているわけではないが、彼は今、エネルギー体になっている。

 そして、その一瞬、俺は、キノの深層心理に大きく触れた。

 それは一瞬の事だったはずなのに、とても長く、彼が日本陸軍で生み出された時から、今この瞬間までの全てが、一気に入ってきた。




「キノ、ダメだ、馬鹿な事をするんじゃない!」



 俺はその、キノの意識が入ってきたことで、キノの決意を理解した。

 それは、同じ原子爆弾同士、自分自身が命をかけて解決すべき事だという、強い意志が。


 俺は、一瞬だけ、キノの声を聞いたような気がした。


「サヨウナラ」


 と。


 それが聞こえた途端、俺が搭乗していた飛鳥の緊急脱出装置が作動した。


 操縦席ごと空中に投げ出された俺は、小さくなってゆく飛鳥の機体を見ながら叫んだ。


「キノ!、木下君!、まだ、まだだ、君が生きる道はある!、諦めてはダメだ!」


 そして、脱出装置が一定の距離まで離隔した事を確認するように、飛鳥は最大出力で富岳に向かってデュレイザーム砲を発射した。

 それは、これまで見たことのない出力で、飛鳥の機体は富岳に覆い被さるように、砲を発射した。


 そして、そのあまりに強い閃光故に、この2体がまるで一つになったようにすら見えた。

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