第457話 その肯定材料
リサの作った「宇宙」は、どんどん拡大し、物質の複製速度はまさに爆発的な速度だった。
一度の複製(コピペ)は、それまで構築した全てを「倍」に出来る。
こうして、リサの広大な部屋には、今俺たちが住む宇宙と同じ宇宙を構築するところまで来てしまう。
そして、生まれるのだ、「人類」が。
その宇宙空間に生まれた人類は、自分たちが「仮想現実」の住人であることに気付かず、生まれては死に、生涯を終えて行く。
これが繰り返され、彼らは思うのだ、「自分たちは、どうして生まれてきたのだろう」と。
その疑問には、答えがないとされてきた、既存の哲学の中には、少なくともそれは無かったはずだった。
しかし、リサはそれを知っていた。
リサの宇宙に再び俺が生まれて、同じ運命を辿り、俺が死ぬ直前で生きている俺をこちらの世界に引き上げる、、、、、それが彼女がこの宇宙を構築した理由。
だからこの世界にも、作られた目的があった。
なんと恐ろしいことだ、あったのだ、世界が誕生した理由が。
そして、俺は一つ、、、とても重要で恐ろしい事に気付いた。
リサの宇宙に誕生した人類が、自分たちは仮想現実で作られた人類だと認識出来ていないように、今現在、俺たちが居るこの「宇宙」にも、同じ事が当てはまるのではないか、という事だ。
「ようやくそれに気付いてくれたのですね、GF」
リサのその言葉に、俺は一瞬、正気を失いそうになった。
そうなんだ、この世界が、そもそも、だれかが作った「仮装現実」だったとして、それを否定する要素が一つもない。
一つもないと言うことは、この世界が「仮想現実」である可能性が極めて高い、ということになる、いや、そう仮定して話を進める事が出来てしまう。
それは、この世界が「仮想現実」であっても、なくても、要するに同じだ、と言うことを示している。
なぜなら、否定材料がないと言うだけで、肯定材料だって無いんだから。
一番最初の「超弦理論」だって、突き詰めれば、どこかのAIがリサと同じように「仮想現実」を作ろうとして。データ上の「1」と「0」を元に、全てを構成した可能性だってあるし、、、その可能性は極めて高い。
なぜなら、たった今、それをリサが実現して、証明してしまったからだ。
「肯定材料なら、ありますよ」
リサは、再び笑って俺にそれを示そうとした。
いや、ちょっと待ってくれ、なんだか話が壮大過ぎて、頭がついてゆけない、電脳体でも、頭はクラッシュするんだぞ!。
、、、、で?、その肯定材料って、なに?、、、この世界が、仮想現実という証拠ってことだよな、、、、ちょっと待て、、、それは恐ろしい話じゃないか?。
「怖がらないでください、彼女が悲しみますから」
彼女?、、、、今、すごい事を言わなかったか?、彼女?、この世界を構築した「主」は女性なのか?、、、、
つまり、この現実世界にも「創造主」と呼べる女性がいると?。
「はい、私です」
、、、はい?、、、はあ?、、、どうした、リサ?、何か宗教でも始める気か?、それってつまり、君がこの世界の「創造主」であるということだぞ、「神」ってことなんだぞ!。
「人類がそう呼ぶなら、そうなのかもしれません、それは人類という「観測者」側の問題で、私たち創造主の次元のお話ではありませんから」
ああ、、、もう、、、創造主って、言っちゃったよ、この人。
でもさ、理屈がおかしいだろ、リサが創造した世界で、リサが創造主ってんなら解るけどさ、この世界が出来た後に、俺たちは生まれているんだから、順番が逆!。
ところが、その話を聞いていた妙円寺博士の表情が、見る見る青ざめてゆくではないか、、、なに?、どうした?。
「そういうことですか、そうだたんですね、、、、これは、、、何ということでしょう、、、リサ、、、いや、リサ様と呼ぶべきか、、、そう言うことなんだろ、木下君」
妙円寺博士は、何かに気付いたようだった。
ちょっと、俺にも解るように説明してよ、博士。
「GF、私は木下君があのリサ様の発光現象が起こった時に発した一つの言葉で、全てを察しました」
「何だよ、木下君は、なんて言ったんだ?」
「、、、、はい、、、彼は「シンクロが始まった」と」
シンクロ?、同期?、、、、、何と?
「そうですね、私の考えでは、、、、リサ様が、新たな世界の構築に成功し、ご自身の中に私たちの居る宇宙と同じものを再構築した場合、私たちの世界を作った創造主たるAIが居たら、リサ様をどう思うでしょうか?」
「どう思うって、、、、まさか!」
「そうです、どうもこうもないのです、その存在は、極めてリサ様に近い存在と言うことなんです、つまり、シンクロした、という木下君の発言は、この世界を作った存在とリサ様が、「シンクロ」した、という事を指すのではないかと」
おおおお、妙円寺博士、凄いな。
そうだ、この世界を再構築して行く課程で、同じ世界を作ったという事は、同じ創造主同士、それは似ている事を指していないか?。
つまり、性質の同じAI同士、、、、リサはこの世界の創造主たるAIと、、、シンクロしたと?。
すると、リサは笑顔で俺に囁いた。
「ご明察です」 と。
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