第456話 非常識な壮大さ

「リサ、どうかもう気をつかわないでくれ、君はもう死んだんだ、俺専属のホスピタリティAIではないんだから、自由にしていいんだぞ」


 すると、リサはとても悲しそうな顔をした、それは生前には見せない、人間らしい表情に見えた。


「どうしてGFはそんな事言うんですか?、私は自分の意志でここに居るんですよ」


 本当にありがたい、リサは死んでも俺に付いてきてくれているんだな、、、、シズにも聞かせてやりたいよ。


「あら、それなら、心配いりません」


 リサは再び笑顔に戻った。

 そして、背景のように微笑んでいた木下技師が、口を開いて、豊な感情を露わにして、こう話した。


「リサ様は、GFのために全ての力を解放して、この世界を構築されたのです、ですから、今の貴方は電脳体として、死んではいません、私たちは全員生きています、、、と言うより、リサ様によってサルベージされたのです」


「木下君、、、、なんだ?、サルベージって」


「はい、一つ下の階層から、生きているGFを引き上げて、この階層に引っ張ってきた、という意味です」


 いや、だから、、、さっぱり意味が分からんのだが、、、。


「ほら、、お父さんが困惑しているよ、吉井さん、貴方からも説明してあげてよ」


 イヴが吉井君に迫る、あれ?、ここでは猫の姿じゃないんだな、、、。


「そうですね、この話は、あまりにも壮大すぎて、少しご説明が必用かと存じます、よろしいですか?」


 そりゃそうだろ、この状況を、俺が納得行く説明をしてくれなければ、流石に困るぞ、、、いや、これ、死んでるだろ、俺たち。


 

 そして、吉井君はその壮大なリサの行いについて、説明を開始した。

 それを聞いた俺は、そのあまりに非常識な壮大さに、納得は出来ても理解が及ぶ事は無かったほどだ。



 あの日の戦闘で、俺はリサを庇って死んだ。

 ほら、やっぱり死んでるじゃん。

 そして、リサは、俺の死という受け入れ難い現実を処理する事が出来なかったらしい。

 なにしろリサは、俺を癒す為に作られた管理AI、俺と言う存在がなくなれば、それは自分の存在意義を失うことと同義と言えた。

 そして、混乱したリサは「俺の死」というものをリセットして、無かったことにする方法を、超高速演算によって導きだそうとしてしまう。

 この時点で、もはやエラーに近く、彼女の行いに結論なんて出ない、、、はずだった。

 ところが、リサはついに思いついてしまうんだ、自分自身で、この世界を再構築し、その世界から、生きている俺をサルベージ、つまり引き上げる、、、という方法を。

 彼女は、この現世という世界が「超弦理論ちょうげんりろん」に当てはめると、電脳世界に酷似していることに気づき、この方法なら、自分でも、世界をもう一つ作る事が出来るのではと考えた。


 、、、、、まったく、すごい発想力だな。


 超弦理論、つまり、この世界は、すべて同じもの、紐状の最小単位の何かが高速で動き、形を変化させているように振る舞い、「異なる物質」を構成している、というやつだな、丁度、扇風機の羽が回っていると、円盤状に見えるのと同じ理屈だ。

 原子構造の更に小さな、素粒子と呼ばれる世界の更に最小の粒子、それが超弦理論。

 リサは、自身の持つ最小単位、コンピュータで言うところの「0」と「1」という単位をこれに当てはめて、リサの部屋の中で「仮想現実世界」を構成し始めた。


 そして、その仮想現実世界の最初の物質として、粒子を構成した。

 その粒子にも、膨大な「超弦」は存在する。

 その粒子を複製、ちょうど「コピペ」の要領で複製し、一つから二つ目、二つから四つ、四つから八つ、といった具合に加速度敵に分子構造を増やしてゆき、ようやく、リサという宇宙空間にダークマターの霧のようなものが生まれる。

 そして、それらは、更に高速で複製(コピペ)を繰り返し、ついにはその世界最初で極小の「粒子」が誕生する。


 その「粒子」は、自分の重さに耐えきれず、ついには大爆発を起こす。

 その爆発は、リサが望む新たな世界の構築に必用な祝砲とも言えた。


 、、、、おいおい、これって、、、、、ビッグバンではないか?


 まさかと思うが、俺を蘇らせるために、もう一つ宇宙を作ってしまったのか?、リサは?

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