第371話 ユウスケの安否

「それでは、ユウスケの安否を確認する方法すら無いってこと?」


 皇帝エレーナは、キニーレイ男爵の邸宅に付くや、ムスキに質問を繰り返していた。

 なにしろ、ムスキの話す内容は、次元が高度過ぎて、帰路の道では要領をさっぱり得なかった。

 それは、この世界以外に、異世界があると言うこと自体、普通なら理解の外であるが、このエレーナという少女は、13歳で帝国を制圧、統治してしまうサラブレットであるため、多元宇宙論ですら、この短時間に飲み込めてしまうのである。

 そしてエレーナは考え込んだ、何か妙案は無いものかと。

 

 そのような混迷を極めるキニーレイ男爵家に、あの空気の読めない男、エドが王宮から帰還したのである。


「、、、、、えー、これは皆さん、、、、御揃いで、、、」


 そんな間の抜けた言葉に反応したのはカシラビだけであった。

 相手は将校であるものの、共に旅をした仲間でもあり、カシラビはとても軽い「よう!」という程度の挨拶をした。

 本来であれば、感動の再会となる予定だった皇帝エレーナとエド・キニーレイ少佐の二人は、早速この難問に向き合う必要に迫られたのである。


「ともかく、みなさんお食事も未だでしょ?、まずはディナーを作らせますから、ゆっくりお話しでもしましょう、エレ、、ニーナ、君が好きなプラムも買ってあるから、食事の後に食べましょう」


 エレーナは、この近迫した空気の中で、どうにも空気の読めないエドのことが、たまらなく好きで仕方が無かった。

 それは衝動と言うべきものかもしれないが、こんな時でも食事の事を気にし、自分の好物まで買って来てくれたなんて、それはそれで少女の心を射抜くには十分であった。

 しかし、何でエドは、自分がここに来ている事を知っていたのだろうと、些か不思議に思っていた、これはお忍びのはずなのに。



「それで、ヨコスカという都市ごと、ユウスケは消えて無くなってしまった可能性があるという事?」


「ええ、ヨコスカどころか、彼らの世界ごと、この世から消えてしまった可能性があるの」


 エドとマチュア、そしてその両親は、客人を前に困惑の表情を抑えられないでいた。

 自身の息子が、奇跡の昇進を繰り返し、目の前には隣国の皇帝陛下、それだけでも、食事など喉を通らないレベルであったが、ムスキの話など、まるで意味不明であった。

 その話の内容について、目の前の少女は、さも常識のように付いて行っているのだから、もはや開いた口が塞がらない。

 しかし、そんなやり取りを、温かく見守る息子の豊な表情も、この日の食卓において両親を更に困惑させた、、、空気が読めないだけではない、意味不明なのだ。

 そして、それまで俯いたままだったミスズが、ようやく重い口を開いた。

 

「ユウスケ様は、、、、私達を世界が崩壊しても安全な、この世界に避難させるよう、管理人に依頼をかけたのだと思います。恐らく、ユウスケ様が、、、マーシャンにとどめを刺しているはずです」


 美鈴玲子は、シズを失い、言語の変換にやや訛りが入るようになっていた、今の体内ディバイスはスタンドアローン状態である。


「ねえムスキ、マーシャンって誰なの?」


「、、、それは、、旧共和国軍軍師エムディの別名です、、、、」


 それを聞いたエレーナは、一瞬で逆上したのである。


「いくら探しても捕まらないと思ったら、異世界に逃げ応せていましたか、、、、」


 拳を握り、ワナワナと震える彼女を宥めようにも、何故彼女が怒っているのかも男爵家側には解る人間など皆無であった。


「、、、、わかりました、ユウスケが軍師エムディを追って、世界の崩壊をも恐れぬ勇敢な戦士としての使命を全うしたのであれば、私がすべき事は一つです、、、ミスズ、お辛かったわね、、、私に出来る事は、何でも致します、ユウスケは帝国にとっても恩人よ、必要であれば、私が軍を動かします、エド、、、兄さま、その時は、一緒に来てくださいますわね」


 そして空気の読めない男、エドは、何かは解らないものの、満面の笑みで「もちろんです!」と全開の返事をした。

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