第370話 ニーナ、再び

「ニーナ、ちょっと慌て過ぎよ!」


「何よマチュアこそ!、私の時間は無限ではないのよ!急いでよ!」


 ドットス王都の城下町、ここでは何気ない少女二人の買い物風景があった。 

 しかし、片方の少女は、今や隣国オルコ帝国の新皇帝エレーナであることに、誰も気が付かない。

 もちろん、遠目に彼女の事を見守るドットス警察とオルコ親衛隊による護衛は付いているものの、皇帝となったエレーナにとって、この場所は亡命時代の短い時間を、エド・キニーレイ少佐と過ごした大切な場所である。

 オルコの内戦が終結し、共和制から君主制へ復活すると、彼女は再び退屈な日々を予感していた。

 短いとは言え、フキアエズ王国での冒険や、亡命時代のドットスでの思い出は、日を増すごとに輝きを増して行くのである。

 そして、皇帝エレーナは、一念発起し、ドットスへ赴いたのである、、、、お忍びで。

 今回の武勲により、エド・キニーレイ元大尉は、ドットス国王直々に戦時階級大尉から、正式な少佐への昇進が言い渡された。 

 本人も驚いていたものの、一番驚いたのは両親である。

 出世の速度だけで言えば、それはあのベナル将軍を超えるレベルであった。

 取り急ぎ、ドットス国王の元へ帰還したエドを見送り、再会を誓ったものの、エレーナのその天性の短気は健在であった。

 そして、彼女の直線的な想いは、国王への謁見すら早々に終わらせ、さっさとエド・キニーレイの実家へ向かってしまったのである。


「ニーナ、ところでお兄様にはもうお会いになったの?」


「もちろん未だよ、驚かせてあげようと思って!」


 妹のマチュアは、そりゃ驚くに違いないと思いつつ、兄嫁がこの強引さであるならば、自身の人生はさぞ忙しいことになるな、と、ぼやくのであった。

 ちなみに、皇帝エレーナは、この隠密行動の際には、エドが付けてくれた偽名「ニーナ」を名乗っていた。


「あら、、、あれは、、、ミスズ?、ミスズがいるわ、、、、え、ムスキも、カシラビ?、なんだか小さくなったゼンガも?、一体何で?」


 管理人によって再びエラーサイトに飛ばされた一行は、ドットス王都の城下町で再会を果たすことになる。

 しかし、それはエレーナの目から見ても、明らかにおかしい状況であった。


「ムスキ!、ミスズ、、、一体どうしたの?、こんな所で」


 ムスキが振り返ると、そこには懐かしいエレーナの姿があった、、、、もう何年も会っていないような錯覚に陥りながら、無事に帰還出来た安堵から、思わず膝間づいてしまった。


「これは、エレーナ皇女殿下、お久しゅうございます、、、、」


「何があったのか、説明してくれますね、、、ユウスケの姿が見えないようだけど、、、」


 エレーナのその一言を聞いた時、美鈴玲子がようやく反応を示した、しかし、それはあまり良い反応とは言えなかった。


「雄介様が、、、ああ、なんて事を」


 美鈴玲子は、明らかに憔悴していた。


「これは少々、危うい状況のようね、マチュア、ちょっといいかしら、ここでは目立つわ、キニーレイ男爵にお願いして、この人たちを一時的に保護してもらえないかしら」


 マチュアは、もちろん快諾した、それは恐らく兄から聞いていた、あの戦いで大戦果を挙げたメンバーであろうことは明白だったからだ。

 マチュアが大急ぎで帰路につくと、走って家路を急いだ。

 そして、エレーナはムスキに帰りの道々、質問しながら歩いていた。

 

「一体、何があったの?、まさかと思うけど、、、ユウスケの身に何かあった訳じゃないわよね」


 その一言でまた、美鈴の表情は険しく、そして泣きそうな表情になって行く。

 それを見れば、ユウスケが死んでしまったか、それに近い状況であることは容易に想像できた。


「ユウスケは、ミスズや私達を庇って、一人犠牲になったようなんです」


 そうして、この世界から見て異世界となる、1946年の横須賀で起こった事を、ムスキは語り始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る