第66話 意外なリゾート

 馬車に乗ったのは初めてだった。

 多分、2000年前からあまり変化していないのだろう、ポンペオの遺跡にも、こんな馬車が走っていたんだろうな。

 そう言えば、ポンペオもリゾート地だったよな、2000年も昔に、あれほどの文明があったんだから、この世界のリゾートも案外凄いんだろう。

 そして、随所にこの時代の文明とは噛み合わないほどの妙に高度な部分もあるんだよな。

 さっきまでいた宿にもあったシャワーや水道って、普通に現世でも通用するレベルだったし。

 

「雄介様、ケシャの港が見えてきましたわ」


 俺たちが向かっていたのは、さっきの村からほど近いリゾート地である港町ケシャだった。

 ここにはマキュウェルの家が保有している別荘があるらしく、今回はみんなでお世話になる予定だった。

 しっかし、別荘持っているくらいの金持ちが、なんだってパーティ組んで冒険なんてしているんだ?

 この間のドラゴン退治だって、あれ危なかったぞ。

 

「ムスキ、マキュウェルの家って、お金持ちなのか?」


「、、、ええ、そうですね、この辺りでは一番のお金持ちと言えるかもしれませんね」


「、、、一番?、マキュウェルって、何者なんだ?」


「そうですね、、、恐らく別荘に到着すればお気づきになりますわ」


 彼女は、何とも歯切れの悪い言い方をしていた。

 これはもう、何かあるとしか思えないよな。

 

「見えてきました」


 ムスキが指を指した先には、別荘なんて見えなかった、見えたのは立派な城があるだけで、それもタマネギみたいな屋根が5つくらいはあるであろう、見事な城。

 、、、、いや、まさかね。


『シズ、この道の先に別荘はあるか?」


『、、、いえ、ありません、あるのはあのお城だけです。」


 馬車は、その城にだんだん近づいてくる。

 城の棟の最頂部には、これまた立派な赤い旗がなびいていいる。

 

『あの旗が見えるか?シズのデータベースにで識別できるか?」


『はい、この世界の情報は少ないですが、情報部のデータで判別出来ると思います、、、あ、判明しました、、、ちょっとこれは、、」


 なんだよ、もったいぶらずに言っちゃえよ。

 

『SIZ、何かあるの?このまま行くと、あのお城に行くことになるわよ」


『、、そうね、美鈴、このまま行くと、あのお城にしか着かないわ。つまりあそこが目的地で、この世界の目標はここで間違いなさそうね、マキュウェルは、、いやマキュウェル様は、この国の王の娘よ!」


 !、


 なんとなく予感はしていたが、、、もしかして、あの規模の城が別荘?

 じゃあ、彼女の実家は、どんだけデカいんだよ。

 しかし、なんだってお姫様が、あんな僻地でドラゴン退治なんてやってたんだ?


「おいリラル、この馬車はあの城に向かっているってことで合ってるか?」


「ええ、あのお城はマキュウェル、、様の別荘ですわ」


 ああ、マキュウェル様って言っちゃってるよ、あのじゃじゃ馬娘は、正真正銘のお姫様か。

 俺、マキュウェルに失礼なことしていないよな。


『GF、気をつけてください、あの城の周囲から、かなりの数の軍勢の気配がしています」


 軍勢?、、ああ、どうやら台風の目はマキュウェルで間違いなさそうだな。

 よりにもよって、敵か味方かも解らない軍勢に包囲された城にリゾートに来るなんて、さっきまでの浮ついた気分がすっかり冷めたよ。


「玲子君」


「、、はい、解っています」


 俺たちは、いつものように臨戦態勢に入った。

 





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