第32話 狙撃の痕跡を消すには

 先ほどのドタバタ騒ぎが落ち着いて、ベッドに再び入ったのはいいものの、やはり隣の彼女のことが気になって眠れたものではなかった。

 まあ、そりゃそうだよな。

 なにしろ、19歳の女性が、服を着ているとはいえ、今、俺の隣で寝ているのだから。

 、、、彼女はもう、眠ったのだろうか。

 きっと、成長過程で危険な男性という存在が無かったことから、男性を警戒するという行為自体、概念が無いのだろう。

 寝息をたてて、彼女はすっかり眠っているようだった。

 、、、寝息。


 いや、なんかエロいわ。


 寝息、エロいわ。


 さっきは、あんな偉そうに言ってはみたけどさ、やっぱり男女が同じベッドって、興奮して眠れませんよ。


 部屋の中には、さっきから少し傾いた月の明かりが入り込み、青白く部屋を照らす。

 そして、その先に、彼女のシルエットが目の前に映し出される。


 、、、もう、いっそのこと、、、、責任取っちゃおうかなー。



 いや、ダメだって。

 さっき、俺、彼女を守れるのは自分だけとか、なんとか、考えていたじゃん。 

 さっきまでのかっこいい俺は、どこへ行った。


 アパートの一人暮らしで、布団の中に誰かの温もりなんて、感じたことは無かった。

 大学の友人で、彼女がいたり、中には同棲してたりするやつらみてて、正直、かなり羨ましかった。

 今、その願いが叶ったというのに、目の前に、憧れの女性がいると言うのに。

 

 俺は、さすがに耐え切れず、リビングに向かった。

 時間は、もう5時近かった。

 なんだか変な夜を過ごしたものだ。


 彼女を起こさないよう、リビングの照明は最小限にして、テレビを付けた。

 アメリカの放送のほか、日本の電波も入るようだった。

 早朝なので、ニュースも限定的だと思いながら、画面を見ていると、そこには見慣れた景色が映し出された。


「、、、、、俺の、アパート」


 それは、ニュースに映し出された火災の映像だった。


 、、、、俺のアパートは、勢いよく燃えていたのである。

 どうしてかは解らない。

 しかし、この状況では、このアパートは全焼だろう。

 

「これが、時代の修正力というやつか、、、。」


 俺は少し怖くなった。

 本来であれば、自分の部屋が燃えている映像が出てきて、驚きと衝撃と悲しみが先に来るはずであった。

 しかし、それは、恐怖というものが全面にでてしまい、悲しんでいる余裕はなかった。

 先ほどまで追ってきた敵が襲撃したのだろうか。

 狙撃の痕跡を消すには、いっそ燃やしてしまえばよいと言うことだろうか。


 いずれにせよ、俺はたった今、帰る場所を失ったのだ。


 そして、この状況では、多分大学に戻ることも当面無理なのだろう。

 結局、この一連そ騒動は、どこまで行けば終わるのか、見当もつかない。


 まさか、俺はここで、玲子君から多くを聞きすぎて、管理人によってアパートを消去されたのではないだろうか。

 さすがにそれは怖すぎる。

 それでは、次に、俺を消しに来るんじゃないか?


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