第118話 最終決戦

 未玖と沙苗に作戦を伝えると、二人とも最高の笑顔で賛同してくれる。


「二人の負担がものすごいことになっちゃう。それでも……」

「やるよ。やってみせるよ」

「それで叶ちゃんを救うことができるのなら!」

「……ありがとう」


 お礼の言葉を口にし、三人が陣形を整えた。


『お墓の部屋割りは決まった? じゃあもう殺していいよね』

「殺されるのはそっちよ。お前を殺して、叶を救い出す」

『しつこいなぁ。私自身が宮野叶だって、そう言ってるで……しょ!』


 影が伸びて無数の針が突き出してくる。

 それらを巧みに躱し、未玖が呪文詠唱を始めた。


「無数の光の壁ありて、我らの前に聖なる守護を張り巡らさん。“無限聖壁”!」


 聖と沙苗の前に無数の光の壁が展開され、同時に二人が駆けだした。

 真意を悟った影人形が嘲笑う。


『大層なことを言っていた割には、選んだ手段が特攻とはね。もう少し楽しませてくれるかと思ったのだけど』


 十本の腕が動いた。

 十個の魔法陣が巨大な一つの魔法陣となり、虹色の輝きが中心で煌めいている。


『超次元魔法。“万象崩壊の消失光ラズ・イルーシア・オルトーネピュラス”』


 虹色の輝きが増し、空間が軋んでひしゃげる。


『神々を討ち滅ぼす闇の極技、その身で味わって死んでいけ』


 影人形が魔法陣を殴りつけると、光が波動となって撃ち出された。

 波動は、正面から突っ込んでいった沙苗が纏う防御結界に直撃する。

 一瞬のうちに結界が粉々に砕け、かつてないほどの衝撃を受けながらも沙苗はなおも突き進む。

 結界は次々破壊されるが、未玖からの補充も続く。

 どちらが先に倒れるか、そんな勝負が繰り広げられた。


「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『あははは! 死ね死ね死ね死ねー!』

「沙苗、ちゃん……いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 未玖が残りすべての魔力を振り絞って沙苗を守る防御結界を展開させる。

 それに苛立ちを覚えた影人形は、魔法陣の内側にもう一つ同じ魔法陣を作りだし、空いたもう片方の手で殴りつけた。

 波動が二倍の威力となって沙苗に襲いかかる。


『いい加減に消え失せろ!!!』


 虹色ではなく漆黒に染まった極大の波動が地面を抉りながら迫り、沙苗の防御結界を破壊していく。

 周囲の空間に異常が生じ、不自然にねじ曲がるなどの異質な変化が発生していく。

 それでも沙苗は負けない。剣を構え、前へ前へと歩む意志を曲げない。


「終わらせないっ! 叶ちゃんを救うんだ!」


 あと少しで影人形に届くという位置にまで接近することに成功する。

 剣を強く握りしめ、力強く叫んだ。


「後は任せたよ! 聖ちゃん!」


 直後、沙苗を守る最後の結界が破壊され、波動が沙苗の姿を覆い隠した。


「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 耳を覆いたくなるような沙苗の断末魔が響き渡る。

 人体など跡形も残らないだろう。それだけの威力があの攻撃にはある。

 やがて、波動の方も効力を失い、消失していった。

 完全に消滅した沙苗に、影人形はお腹を抱えて笑う。


『あーっはっはっは! いい気味! 情けない断末魔で笑えてくるわ!』


 最後まで沙苗を侮辱したあと、残った聖と未玖のうち、まず聖から殺してやろうと周囲に視線を巡らせる。

 すると、左側を向いた瞬間に、杖の先端に光の球を作りだしている聖の姿を捉えた。

 既に有効射程内に入っている。これを決められると倒される。

 しかし、影人形は余裕だった。

 攻撃は意味がない。また影を伝って回避すればいいのだから。


「“ジャッジメント――」

『無駄なのにさぁ! 頑張っちゃってバカみたい! すぐに心臓を抉りだして踏み潰してあげる!』


 笑った影人形が移動しようとして……すぐに顔を青ざめさせた。


(うそ……転移できない……!?)


 影を伝った移動ができない。

 震えながら視線を下に向けると、そこには殺したはずの沙苗が自分の両足を切り飛ばしている姿が見えた。


『な――ッ!』

「どうだ邪神! 私だってアカデミー女優だ!」


 やられた、と悟ったときにはもう遅い。

 影との接続を切り離され、転移できなくなった影人形にできることは、攻撃を耐え抜くことができるように祈るだけだった。

 無意味だと分かりつつも手を伸ばす。


『待ってよ聖ちゃん! 私死にたくない! 助けて!』


 それを聞いた聖は。


「叶じゃない! 偽物を倒して、本物を私たちが助ける!」


 聞く耳を持たず、杖の先端が影人形の胸へと叩きつけられた。


「――ピラーレイ”ッ! つ・ら・ぬ・けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 渾身の叫びと共に光の波動が影人形を撃ち抜いた。

 体を構成していた闇が吹き飛ばされ、甲高い悲鳴が轟いて鼓膜を震わせる。

 そして――、


「「叶ちゃん!」」

「叶!」


 闇が吹き飛ばされた残滓から転がり出てきた叶のことを、聖は力強く抱き止めるのだった。

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