第117話 死はすぐそこに
黒い太陽が頭上で煌めく。
その効力により未玖と沙苗の総合レベルが低下するが、すぐに聖の加護が効力を打ち消した。
沙苗が素早く切り込み、太陽を一つずつ破壊していく。
影人形が闇の針を飛ばそうとしているが、未玖はその動きを見逃さなかった。
「我らを守る光の領域あれ! “聖絶”!」
光の防御結界で影人形の攻撃から沙苗を守った。
「ありがとう未玖ちゃん!」
「気にしないで! それよりも!」
「分かってる! 聖ちゃん! 道を開くから突き進んで!」
「分かった!」
降下しながら斬撃を繰り返し、伸びてくる影人形の腕を次々斬り裂いていく。
失った腕が再生するまでの刹那の時間、切られた場所は攻撃の圧が弱い。そこが接近する最大のチャンスだ。
影人形の闇は凄まじい。下手な攻撃では呆気なく霧散してしまうことだろう。
しかし、零距離から【ジャッジメント・ピラーレイ】か、それに匹敵するほどの光の力を叩きつけてやれば、いくら強力な闇といえどひとたまりもない。
それこそが聖が立てた作戦。死を覚悟した特攻のような無茶ぶりであった。
しかし、案外上手くいきそうで、聖の杖の先端が影人形の腹部へあと数ミリという場所にまで近付き――、
「“ジャッジメント・ピラーレイ”ッ!」
溜めも狙いもなしの一撃を叩き込む。
が、不適に笑った影人形の姿が消えた。
次の瞬間、地面の影を伝って聖の背後を取った影人形が腕を凪いで聖の首を狙う。
『さよーなら。死んじゃいなよ聖ちゃん』
無慈悲な死刑宣告。
だが、降下が間に合った沙苗がギリギリで剣を滑り込ませた。
影と剣がぶつかり合い、衝撃で聖と沙苗が吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
「すっごい威力……! 腕が痺れる……!」
人体に当たっていれば間違いなく即死だ。改めて現実を認識した沙苗の手に汗が滲む。
事前に未玖から強化を受けていたにも関わらずのこの有様だ。もし強化を受けていなければと思うと、体が震える。
聖も、沙苗が生きていることに安堵しつつも冷や汗を流していた。
魔力切れが近い。【ジャッジメント・ピラーレイ】のような大技を何度も放っては体が保たなかった。
せいぜい、あと一発でも撃てば完全に魔力切れを起こしてしまうことだろう。
チャンスはあと一度きり。次を逃せば全員殺される。
それに、影人形は影を伝っての瞬間移動能力まで持っている。動きを封じなければ、どれだけ接近したとしても攻撃を躱される。
しかし、動きを封じる手段が見当もつかない。
相手を拘束する魔法もあるのだが、それを使えばトドメとなる魔法の威力に不安が生じることになる。かといってその役目を沙苗か未玖に任せようと思えば、二人はそれらしい魔法は使えない。
さらに言うと、拘束したとして完全に瞬間移動を防ぐことができるのかはまったくの未知の領域であった。
とりあえず今は、息を整えて次の攻撃に備える。
『鬱陶しいししつこいなぁ。さっさと死んでくれたら楽なのに』
「黙れ! 叶の声でそんなことを話さないで!」
『叶の声も何も……私が自分の声で喋って何が悪いの? おかしなことを言うのね』
嗤った影人形がさらに複数の黒い太陽を顕現させた。
同時に空中にいくつもの目が浮かび上がる。
「魔眼!?」
「何それ!?」
「視線を合わせるだけで様々な効果を発揮する特殊な目のこと! まさか空中に投影できるなんて!?」
『残念。この疑似魔眼にはそれほど強い効果はないよ。でも、こういった芸当ならできる』
影人形が指を鳴らすと、魔眼から赤い熱線が放出されて地面を焼き払った。
触れるだけでも火傷じゃ済まないほどの熱量が込められているのを感じ取り、冷や汗を流しながら魔眼の視線に注目する。
が、次の瞬間未玖の防御結界が発動し、沙苗を死角から襲ってきた小刀から守った。
「あっぶな……ありがとう!」
「魔眼だけに集中するのは危険だよ! 全方位見ないと!」
「これじゃ近付くこともできない……!」
どうすれば倒すことができるのか、それだけを必死になって考える。
影人形に決定打となる一撃を与えることができない。対抗手段が思いつかない。
考えに気を取られ、聖の反応が遅れた。
その隙を見逃さなかった影人形はすべての腕に魔法陣を展開し、爆炎魔法を一斉に起動させる。
『死ね』
「しま――」
「緊急用魔法! “四方拝”!」
未玖が使った魔法で爆炎が結界に衝突し、勢いを失っていく。
どうにか無傷で済んだが、未玖は苦い顔をしていた。
「もう今の魔法は百時間経過するまで使えない。次はないよ!」
「ごめんなさいっ! 気をつける!」
『ほーんとゴキブリ並にしぶといんだから。生き汚いゴミ風情が!』
「黙れ! 叶ちゃんはそんなこと言わない!」
怒った沙苗が地面を強く蹴り込み、滑るようにして斬撃を放った。
影人形は回避するために飛び下がるも、わずかに遅れて足先が沙苗の剣に斬り裂かれる。
着地と同時に足は再生し、無意味だと言いたげな様子で足が振られる。
「くっ!」
「……いや」
その時、聖の頭に作戦が浮かんだ。
これが正直どんな結果になるかは分からない。もしかすると、最後のチャンスを台無しにしてしまうかもしれない。
そう思うが、それでもわずかでも可能性があるのなら試してみようと、決意を固めた目で影人形を睨み付けた。
『なに? 作戦でも見つかった?』
「ええ。これで、お前を倒す」
聖の宣言に、影人形が声を上げて笑い始めた。
(待っててね叶。これで終わらせてあげるから!)
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