第44話 撤退
新しく黒煉の果実を取り出し、フォレアに削られた叶の闇を修複するアルマ。
切り分けられた果実を食べ、叶はゆっくりとだが力を取り戻していた。光の矢で抉られた傷も瞬時に癒えていく。
その光景を聖が震えながら見ていた。
(なにあいつ……!? 何なのこの気配……!)
叶から感じるものよりも数段上の絶望的な闇の力を感じる。
アルマが本質的に危険すぎる存在だということは、光が強いジョブを持つ者なら誰でも感じ取れた。聖戦士と勇者のジョブを持つ勇とエリザベートも足が小刻みに震えている。
アルマは、そんな聖たちに目もくれずに叶と視線を合わせ続けている。
「いやー、悪かった悪かった。さすがにフォレアの我慢強さのなさを侮っていたわ。まさかこんなに早く来るとは俺もビックリしたぜ」
「そう。で、アルマ様。どうするつもりですか?」
「んー? ここは撤退をオススメするぜ。厄介なスペースのジョブを持つ小娘はここで叩いておきたかったが、こちらの戦力が足りてねぇからな。レンは天使共をあらかた切り刻んだから向こうも同じ事が言えるが」
アルマの言葉を聞き、叶が目を細めた。少しだが殺気を向ける。
「助けてくれたことには感謝してます。けど、聖に手を出したら私は……」
「おっと失敬。あのスペースの少女が叶が言っていた例外か。なら、別の平和的手段を模索することにするわ」
ケタケタとアルマが笑う。
その背後にフォレアが回り込んだ。最大まで弦を引き、無数の光の矢を現出させている。
「アルマぁぁぁぁぁぁ!!」
「ったく。うるせぇな。これだから口うるさい女神はあまり好みじゃないんだ」
フォレアが光の矢を撃ち放つ。
矢はアルマに向けて殺到するが、ニヤリと笑ったアルマは振り返ると体の前で黒い球体を作り出した。
「あ、それ……」
叶を襲ったイビルハムスターを惨殺したあの球体。
矢は球体に吸い込まれるように集まると、内部に取り込まれた。光と闇が入り交じる不可思議な明滅が起きている。
「ッ!?」
「な……」
「いい機会だ叶。実はな、この球体単に生物を取り込んで殺すものじゃないんだわ。球体の本当の力……爆魔槍の使い方と女神殺しのやり方をレクチャーしてやる」
アルマが球体を掲げる。すると、一度大きく膨れた球体は形を変えて禍々しい形状の槍へと変化した。
「ははっ! 受け取れ! 心のこもった贈り物だ!」
笑いながらアルマが槍をフォレアに投げつける。
すぐにフォレアが飛び去って逃げるが、槍は神速でピッタリ追跡する。
逃げ切るのは不可能だと判断したフォレアが再び無数の矢を出現させて槍に撃つが、勢いは全く衰えない。それどころか一瞬でも足を止めたせいで槍との距離が縮まってしまうだけに終わった。
せめてもの防御のつもりでフォレアが顔の前で手を交差させる。直後、槍はフォレアに直撃して極大の大爆発を引き起こした。
衝撃波で周囲の建物は吹き飛び、一部では地面が大きく破砕される。不気味な赤紫の太陽が出現したと勘違いするほど熱量と光量も凄まじかった。
「た~まや~。……で、合ってるか? 地球の文化とかあまり詳しくないんだよ」
どこまでもふざけた様子のアルマの眼下に、ボロボロになったフォレアが落ちてくる。
「げほっ……おの、れ……」
「ざまぁねぇわ。俺の大事な娘に手を出した報いだわな」
嘲笑いながらフォレアの頭を踏みにじると、腹部を蹴って屋敷へと飛ばす。
血を吐きながら飛ばされ、苦しげにフォレアが呻いた。聖が悲鳴に近い声をあげる。
「フォレア様!」
「はっはっは! お前、もしかしてここで殺せるんじゃね? 女神の実力も程度が知れるわ」
アルマがついには指を差して笑い始める。
叶もさっきのお返しとばかりに短剣を作り出して投げようとするが、そこはアルマが止めた。
「悪いな。それより、今は退こうぜ。な?」
「……分かりました」
キルキャットを二体呼び出してイリスとレンに撤退の指示を伝えてもらう。
アルマの姿が朧気に消え始めた。
「お前、いい感じに遊べるおもちゃになりそうだわ。もっと徹底的にいたぶってから消滅させてやるから、楽しみに待ってろ」
そう言い残すと、アルマの姿が完全に消えた。
恐怖で動けない聖たちを前に、叶も背中に闇で作った翼を生やす。
「じゃあ、ここは一度退くけどね」
「叶……」
「聖。私は、絶対に諦めないよ。今度会うときは良い返事を聞かせてね」
そして、視線を勇に向ける。
「次会うときはたっぷり時間をかけて殺してやる。梓と、それから先生にも伝えておいてね。どこに逃げようと追い詰めて、たとえ死のうが忘れることができないほどの恐怖と苦痛を与えてやるって」
叶の圧に勇がその場に座り込んで失禁してしまう。
ゴミを見る目で勇を眺めると、叶は大空へと羽ばたいてアルカンレティアから飛びだした。
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