第18話 殺意の再会

 夜、町が静かになったタイミングで叶たちが行動を開始した。

 どの建物に誰がいるのか。それは事前にこっそり潜入したイリスからの情報と叶の記憶で把握している。そうでなくても、騎士の配置からどこにクラスメートがいるのか丸わかりだった。

 これから泣き叫ぶであろう対象のことを思い浮かべ、叶の笑みが止まらない。


(梓の取り巻き連中……。あいつはいないけど、いいか。周囲から潰した方が精神的にもキツいものね)


 そう、残虐な思考を浮かべる。

 貴族街の灯りが半分ほど消えたところで作戦を始める。まずはうじゃうじゃとしている護衛たちの大掃除だ。

 レンが抜剣する。闇を纏う悍ましい剣が怪しく揺らめいた。


「“常闇の剣戟・混沌婆娑羅”」


 虚像と実像が入り交じる闇の刃が踊り狂いながら飛んでいく。

 いきなりの奇襲に、なすすべなく騎士たちが教会騎士たちが粉微塵に刻まれていった。切り飛ばされた体や鎧の破片が周囲に飛び散り一瞬で地獄絵図に変貌する。

 大多数の護衛を始末したレンが生き残りの前に出て行く。


「ば、化け物……!」

「魔人だと!? どうしてこんなところに……」

「なんなのこいつ……! こんな……」


 驚愕に目を見開いて後ずさるわずかな生き残りも容赦なく殺していく。白く舗装された地面が朱色に染め変えられていった。

 何か異常が起きていると感じた関係ない貴族たちが私兵を投じて様子を見に来る。が、そのせいで余分な犠牲が次々増えていく。

 イリスがレンに加勢し、その隙に叶が屋敷に突入する。

 屋敷の中は案外すんなりと進むことができた。屋敷内にいたであろう護衛たちも表に出てすでに殺されているだろうことは想像に易い。

 しばらく進むうち、騎士二人が決して動かない扉を見つけた。ここにいると判断して早速廊下の角で飛び出す準備をする。


「“縮地”」


 素早く移動して騎士二人の喉を裂く。

 最後の障害も消し去った叶が扉を押し開いた。その瞬間。


「今よ京也!」

「これでもくらえ! “スマッシュアロー”!!」


 強烈な威力の矢が叶を襲った。真っ正面から直撃を受け、衝撃で埃が舞い上がる。


「やった!」

「ざまぁみろ! 騎士の人たちの仇だ!」


 侵入者を仕留めたと思って喜ぶ一同。だが、昏い笑い声が聞こえてくる。

 埃が晴れると、そこには無傷の叶の姿があった。体の前で展開した闇の力で攻撃を完全に防いでいる。勢いを失った矢が床へと落ちた。


「アーチャーのジョブの技、か。結構修練積んだんだね」

「なっ……!? お前……!」

「久しぶりだね。一花、京也、しずる、奏」


 クラスメートの名前を確かめるように呼んでいく。

 いるはずのない相手に驚きと動揺を隠せていない。四人がわなわなと体を震わせている。

 だが、剣を抜いた少女――一花が素早く臨戦態勢に入る。剣士のジョブを持つ彼女は、スキルの影響で敵意には敏感だった。

 四人が目を光らせる。しかし、直後に首を捻っているから鑑定を使ったことがすぐに分かった。サラの妨害が働いていて情報を覗かれることはない。

 この場合の正しい行動は退却。が、逃げ道を残すほど叶は甘くないし、これまでの経験から一花たちは悪手を選んでしまう。


「へぇ~、生きてたんだ。しぶといね」

「まぁ、ね。力も手に入れてこうして戻ってきた訳よ」

「それはおめでとう。で、何しにここへ? また私たちと遊びたいわけ?」


 一花の言葉にしずるが笑う。この二人は梓と一緒になって叶のお金などを奪っていた。

 京也と奏は特に実害を加えてきたわけではない。が、見て見ぬ振りは加担したも同じなので殺すことにしている。


「まさか。今までのお礼をしに来たの」

「お礼?」

「うん。こんな世界は嫌でしょ? だから、終わらせてあげる。お前たち四人を最初に殺してね」


 一気に殺意を膨れ上がらせる。

 叶が本気だとようやく気がついた。四人の背筋を冷たい感覚が走り抜ける。


 ――こいつは、本気で自分たちを殺すつもりだと。


 即座に京也が矢を構えた。限界まで引き絞り、一花が突進して剣を振るう。後方からしずると奏が魔法の詠唱を行って支援をしようとする。

 突き出された剣を指二本で受け止める。これには一花の表情が驚きで固まった。

 京也の攻撃も顔を逸らして回避する。さっと腕を振って闇を刃として放出し、後方にいた二人の無力化にも成功した。

 一花の腹部に拳をめり込ませ、剣を奪い取り縮地を使って京也に迫る。剣の腹で鳩尾に衝撃を与えると、それだけで立っていることができなくなった。


「な、なによこの力……」

「つよ、い……」

「じゃあ、始めましょうか。楽には殺さないから楽しんで」


 懐からナイフを取り出して歪んだ笑みを見せる叶。

 真の惨劇は、まだまだこれからだった……。

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