第3話 強くなるための訓練

 召喚されてから数日。叶たちは場所を変えて訓練に励んでいた。

 叶たちが召喚された場所は、聖林教会の中枢であるランドゲルツ神聖王国という国の中央教会だった。そこで、オーウェルはランドゲルツ国王に事情を話すと国王は喜んで叶たちを受け入れたというわけだ。

 そして今、叶たちは王城の訓練場で王国の騎士団と教会の騎士たちによって訓練してもらっているのだ。

 訓練場の中央で、王国騎士団長が勇に指導を行っている。その勇はもう他の騎士たちと実戦形式の訓練に移っており、騎士団長はそんな勇のマイナスに働く癖を見つけて修正するようにしていた。とはいえ、勇の成長は凄まじく、騎士団長が口出しすることもほとんどないまま騎士たちと互角以上に渡り合っていた。逆に新入りの騎士たちが勇にいいようにやられるので、騎士団長は勇に指摘するよりも新入りの騎士を注意することが多かった。

 そして、そこから少し離れた射撃訓練場では魔法や弓の扱いに関するジョブを得た者たちが王国の人たちに技を教わっていた。ちなみに、水穂はすぐに魔法を理解したようで、今では生徒たちを指導する側になっている。

 そしてまたそこから離れたところでは回復系の技が使える者たちが教会のシスターたちから回復魔法の心得を教わる。相手を思いやる気持ちを育み、適切な魔力量を身につける訓練を行っていた。

 そして、そんな風に各々が訓練している中、訓練場の端の方では複数人が集まっていた。

 三人の男女に囲まれている叶。今、叶は強くなるために特訓してあげるなどという名目のリンチを受けていた。


「ほら! やる気あるの? 早く立ちなさいよ!」


 日本でも叶をいじめていたグループの主犯格の女子が叶の腹部に強烈なパンチをめり込ませる。彼女のジョブは武闘家。打撃系の攻撃の威力に補正がかかっているので、今の彼女の一撃は日本の時より何倍も痛い。

 腹部への衝撃に耐えきれずに叶が蹲る。込み上げてくる嘔吐感も限界を迎え、耐えきれずに胃の中身を吐きだしてしまう。叶が痙攣しているが、それでも容赦なく女子は叶の後頭部を踏みつけた。吐瀉物の上に顔を押しつけさせる。


「うーわきったな。それに臭いし最悪だしキモい……」

「女の子のゲロとかめっちゃ興奮するんですけど~」

「……ここにもキモいやつがいた」


 リンチに加わっている男子の発言にドン引きしながら女子が叶の顎を蹴り上げる。脳が揺れるような感覚に襲われて視界が明滅した。まともに立っていることもできなくなる。

 ふらつく叶に二人の男子が迫る。


「おい。暗殺者って素早いらしいじゃねぇか。なら俺の練習に付き合えよ。ハンマーが武器だから遅い敵にしか当たらなさそうで怖いからな」


 そう言って男子生徒が躊躇なく重いハンマーを振り回して叶を殴る。先ほどまで女子から暴行を受け続けていた叶にそれを避ける体力などもう残っているはずもなく、全身に鈍く重い衝撃が連続して走る。内臓にもダメージがあるのか、脇腹を殴られた際に吐血して地面に倒された。

 立ち上がろうとする叶の首を、先ほどキモいと言われた男子が締め上げる。彼の右手には不気味な魔法陣が浮かび上がっており、紫の光が叶を蝕む。


「ほーら、段々良い感じに効いてくるよ~。苦しくて苦しくて壊れちゃうと思うから、遠慮なく僕に涎とか諸々の体液くれていいからねぇ~」

「「……きっしょ」」


 ハンマーの男子と武闘家の女子が同じ事を言ったとき、彼の力が発動。首を絞められている叶が突如として暴れ出す。


「いやあぁぁぁぁぁ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「呪術師のジョブ怖いわぁ……何したの?」

「過去のトラウマを何倍にも増幅して一度に無限に等しい時間襲わせた。精神が破壊されるかもしれない強さだけど、まぁ、そのほうが僕的にはご褒美だし」

「うわきもっ!」


 そんな会話を交わしているが、叶の耳にそれは届かない。焦点の合わない目でひたすら謝罪を続け、脳に異常が起きているせいで体の制御が上手くいかず失禁までしている。

 そろそろ窒息死してしまうという頃合いで叶と男子を引き剥がす存在がいた。


「何やってるの! 離れなさい早く!」


 聖が割り込んできて慌てて叶に回復と精神汚染解除の魔法を使い始める。その様子になにを思ったのか、三人が散っていった。

 頭を抱えて苦しんでいた叶だったが、聖の魔法が効いてきて落ち着きを取り戻し始める。


「よかった……叶ちゃん大丈夫!?」

「もう……いやだ……」


 初めてはっきりと誰かに弱音を漏らす。ここでのいじめは魔法や身体能力強化もある分余計に辛い。もうとっくに限界だった。

 震える叶を聖が抱きしめる。何もしてあげられない自分と、いじめの矛先が自分に向くことを恐れて今一歩踏み出せない気持ちに苛立ち、血が出るほどに唇を噛む。

 その後は、叶を守るように聖がずっと近くで目を光らせていた。

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