第2話 転移した世界について
ふっと体が軽くなった気がした後、強い光に目を細める。ゆっくりと目を開けていくと、光が差し込むステンドグラスが見えた。
叶は、この場所を教会みたいだと思った。地理の授業で見たヨーロッパの教会とゲーム世界の建物を掛け合わせたらちょうどこんな感じの内装になるだろうと考える。
周囲には同じように飛ばされてきたクラスメートたちが座り込んでいる。何人かは、冷静にここがさっき女神様に教えてもらったフォーマルアイランドなる異世界だと理解していた。
教会の端には多くの神官やシスターたちが祈りを捧げていた。その集団の中から好々爺とした老人が歩み出てくる。
「皆様、ようこそおいでくださいました! フォレア様から神託は受けております。わたくし、聖林教会で教皇の座に付いておりますオーウェル=マックナードと申します。以後、お見知りおきを」
そう、穏やかな微笑を浮かべた老人――オーウェルが言った。
◆◆◆◆◆
その後、叶たちはオーウェルたちに連れられて技能の間という部屋に向かっていた。その道中、ザッとではあるがこの世界についての基礎知識や状況を教えてもらう。その内容を要約するとこうだ。
この世界には大きく分けて五つの種族が生きている。人間、亜人、魔獣、魔物、魔人の五種族だ。
世界で一番数が多いのが人間で、動物のような特徴を持っていたり、エルフのように人とは少し異なる姿をしているのが亜人だ。
そして、通常の動物が闇の魔力に汚染されて生まれたのが魔獣、闇の魔力そのものが命を手に入れて誕生したのが魔物だ。この魔物が突然変異や進化をして高い知性を有して人型、もしくはそれに近い形になると魔人と呼ばれるようになる。
人間は、亜人たちと共に魔獣や魔物、魔人を倒して平和な暮らしを送っていた。だが、ある日魔人の中から圧倒的な力を持つ個体が出現して他の闇の存在を従え人間たちに反攻を仕掛けてきたのだという。その者は自らを魔王と名乗り、この世界に三つある大陸のうちの一つである南部大陸を支配した。
魔王に率いられた魔物たちの力は凄まじく、人々の力では徐々に限界を感じるようになっていた。そこで、世界中で女神フォレアに救いを求める祈りが捧げられた結果、神託が下りこうして叶たちが召喚されたというわけだ。
話を一通り聞き終えると、ちょうど技能の間に到着する。この世界に生きる生物には
そこで、叶は緊張しつつも自分の能力に期待してみる。
(ここで多分すべて決まる。お願い、役に立つ能力でありますように……!)
いじめられないほどに強い能力を求める。もう、あんな思いはたくさんだった。
オーウェルが祭壇の前に立ち、集団を見て笑顔で話す。
「それで、イサム様はどなたでしょう?」
「あぁ、俺です」
オーウェルの近くに勇が歩いていく。オーウェルは、そんな彼の頭に手を置くと小声で呪文らしきものを唱え始めた。途端に勇の体が輝き始める。
「今のは?」
「今の魔法ですか? これは、才能看破という魔法ですね。聖女か神の遣いというジョブのレベルをある程度上げることで習得できるのです。この魔法を掛けないと後々鑑定や自己投影に影響するのでね」
「レベル?」
「レベルとはその人物のおおまかな強さの目安を数値化したものです。残酷なことですが、他の命を奪ったり鍛練を重ねたりすることでレベルは上がっていきます。意識すれば、空中に自分の能力を投影することもできますよ」
勇が少し力んだような姿を見せると、体から淡い光の粒子が漏れ出して空中に映像を投影する。
【金剛 勇】
種族〈人間〉 性別〈男〉 総合レベル6 ジョブ〈聖騎士レベル1・勇者レベル1〉
そのステータスを見て教会の人間が驚きの声をあげている。それだけ勇の能力値が高かったのだろう。
「なんと……! まさかジョブを二つ有しているとは……!」
「これが勇者様のお力……!」
感激する教会の人たちは、次々と生徒をオーウェルへと預けていく。他の生徒たちも勇と同じように才能看破を受けてから自分の能力を開示していった。
「す、すごい……! レアなジョブがこんなにも……!」
「それに、普通のジョブでもレベルがすごく高いですわ!」
「これが異世界の勇者様方の力。この力があれば救われる……!」
涙を流して感謝するような人までいた。そして、急に大きな二つの歓声が上がる。
「ミズホ様のジョブは……大魔道師!?」
「セイ様のそれ……実在したのか! まさかスペースなどという聖女の上位互換を拝める日が来ようとは……!」
担任の女教師――
その光景を遠くから叶を黙って見つめる。
「聖……すごいなぁ……」
叶にとって、聖だけが心の救いだった。聖だけは叶へのいじめに加担せず、結局はなにも変わらなかったが教育委員会に匿名で告発状を送ってくれたことも知っている。あの教室で何もしなかったのも、聖の立ち位置を考えると仕方のないことだと叶も分かっていた。
聖がすごい能力に恵まれたことに心で拍手を送りつつ、最後に自分の番だとオーウェルの所に歩いていく。
魔法を掛けてもらい、同じように能力を投影した。
【宮野 叶】
種族〈人間〉 性別〈女〉 総合レベル2 ジョブ〈暗殺者レベル1〉
その能力を見た途端、シスターや神官たちの顔が曇る。
「なんだ……暗殺者ですか……」
「あの卑怯なジョブかぁ……」
「それに、そんなにレベルも高くないし強くも……」
そんな声が小さく聞こえてくる。期待していたような強い力でもなく、卑怯者と揶揄されるようなジョブに当たってしまったことに悲しみを憶える。思わず泣きそうになるが、その前に技能の間に大声が響く。
「やめなさい! なんですかお前たち! カナウ様に失礼でしょうが!」
「はっ、申し訳ありませんオーウェル教皇猊下!」
「謝罪はわたくしではなくカナウ様にしなさい!」
小言を漏らしていた人たちを叱責するオーウェル。そして、穏やかな笑みを浮かべて叶に向き直った。
「大変失礼しました。本当に申し訳ありません」
「いえ。仕方のないことでしょう……?」
先ほどの態度で暗殺者がこの世界でどんな扱いを受けているのか分かった気がする。
叶は、絶望感に似たなにかを感じていた。
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