そういうこと



 肝試しに行ったら私以外の全員が取り憑かれたとか話してる。よっちゃんもさっちんも佳菜美も全員なんらかの霊障が発生しているらしい。

 夜寝てる時に息が苦しくなったと思ったらおばさんが首を絞めてたとか、廊下でドタバタ足音が聞こえたと思ったら誰もいなかっただとか、路地裏をふと覗いてみたらでっかい顔があって覗き返されたとか、そんなんばっか連日話されてさすがにうざくなってくる。私は霊感ゼロで今まで一度も心霊体験してないし、他人事にしか聞こえないからどうでも良いっちゃ良い。

 そもそもこいつら友達だっけ? という気分にもなってくる。サークルで一緒になっただけの関わりなのにお祓いがどうとか助けてくれだとか言われてもだ。私は別に霊能力者でもないんだけどなあ。そういうのは本職の人に解決してもらってください。

 そういう風に軽くあしらってたらよっちゃんが死ぬ。発見されたときは結構グロくて工場の機械とか使って自分の体をらしい。うわーもう勘弁してよほんともう。

 よっちゃんがそうやって死んじゃったから余計に私は相談(という名のストーカー行為)をされまくる。佳菜美は私のバイトの終了時間を見計らって家に来るようになったし、さっちんは金を払うからなんとかしてくれだの電話しまくってくるから非常に鬱陶しい。

 無理なものは無理だからどうしようもない。とはいえ困ったことになっちゃったし、私は男友達の山根くんに相談する。

「警察行ったら?」

 と正論を言われてしまう。

「うーん行く?」

「だって迷惑してるんでしょ? 警察があれだったら学校側に言ってもいいし。そんぐらいしなきゃダメだよ」

 山根くんは何でもきっぱり言う人だからそういうことを言ってしまう。私は何でも軽く済ませられればいいタイプだし、困っちゃう。うーんと悩んでいるとさっちんから電話がかかってくる。空気を読んでよ空気を。あんたのために色々考えてるんだから、と思って出ないでいると山根くんが私のスマホをすっと持ち、勝手に出てしまう。

「もしもし佐伯さん? ちょっと良い?」

 あーあ。

 ズバズバ言っちゃうのかなあと思っていると

「あああああああ! 実可子ちょっと死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬマジ助けて助けて助けて助けてごめんって! 呪いかけたの謝るからごめんごめんごめんなさい! お願いだから助けて!」

 さっちんがすごい声で叫んでいる。

 山根くんが何か言おうとするとすぐに電話は切れる。

「あー……」

 とさすがに山根くんも微妙な表情をしている。

 というか私、呪いをかけられてたとかそういう感じだったの? さっちん達の霊障って呪い返し的なやつなの? 霊感ゼロだから全然気づかなかったんだけど、そういうことってあるんだ。いや、思い返してみれば肝試しに行く流れとか結構強引だった気がするし、わざとらしい笑顔だった気がするし、そういえばさっちん、昔山根くんのことが好きだとか噂が流れてた気がする……。

 てかそれじゃん。

 翌日にはさっちんが全身に包丁刺して死んでるのが見つかり、翌々日には佳菜美が自分ちの風呂で溺れて死んでるのが見つかる。

 かわいそうに思えなくもないけど、危うく呪い殺されるところだったし、私はそのあとも普通に過ごせているからまあそういうことだ。

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