道草



 友達に岡山ってのがいて、考えなしというか無鉄砲というか要するに馬鹿で、まあそこがそいつの良いとこなんだけど、学校の帰りにそいつと話してたら、なんかノリでじゃんけんで負けた方が草食うことになった。で俺が勝ったから岡山が草食う。今から。

 岡山と俺は草がボーボー生えている道で、スクールバッグを置く。岡山は一ヶ月前まで野球やってて坊主で背が高くて、それなりに迫力がある。

 ニラっぽい形の草が茂っているところがある。岡山はそん中から一本取って、半分に千切って笑う。

「クソ不味そうなんだけど!」

 そりゃそうだろ。草なんだから。

「食いたくねえー」と言いながら岡山はその草を口ん中に放り込む。噛まないで飲み込めばいいのに、わざわざ口をもぐもぐ咀嚼して、涙目になりながら「うえ〜」と言う。笑える。

 で、ごくんと飲み込んで一言。

「不味い」

 鼻からはダラダラ〜っと鼻水が垂れている。すげえアホっぽい顔。

 ははは。

「ほんじゃ帰ろーぜ」と俺は言う。草食ってるところ誰かに見られたらやばいし、つーかまたじゃんけんで草食う方決める、みたいなことになったら嫌だし、岡山が腹いてええええ〜つって救急車呼ぶ展開になるかもしれんし。

「あ、待って」

「は、なに?」

 岡山が二本目の草を持って口の中に入れそうになってる。

「は? また食うの?」

「だってさっき半分しか食ってないし、なんかズルっぽくね」

 わけわからんとこでこだわるやつだなと思ってると、岡山が草を食った。やっぱりめちゃくちゃ不味そうだ。

「で、二回目どうなん? やっぱ変わらんしょ」

「うえええええ……」

 やっぱり鼻水垂らして食ってる。

「ぶっ……ははは! お前すげーわ! あはは!」

「まじい……」

 と言いながら岡山が草を千切る。口に入れる。

「三本目いくんかよ! いやいや頑張りすぎだろ!」

「クソ不味い……あーまず……」岡山の顔色が青っぽくなってる。

「そりゃそうだろ、はは!」

「死ぬほどまじい……」

 岡山は手を止めない。四本目を咀嚼し飲みくだすと、スルスルと五、六、七、本と口に詰め込んでいく。

「うー……クッソ不味いわ……クソ」

 さすがに俺もおかしいと思って言う。

「いや、お前何やってんだよ。やめればいいじゃん」

「いや不味いんだけど、癖になるっていうか」

「は? 意味わからん」

「あーまず」

 岡山が膝を落として草に顔を近づける。不味い不味い言いながら草をぶちぶちと千切っていく。

「お前何やってんだよ!」

「いや……癖っていうかむしろ美味いっていうか……」と言って、しまいには這いつくばった姿勢となって、手も使わないで口で直に食っている。犬みたいに。

「おい!」

「あ、美味いわっこれうまっ」何かに気づいたみたいに岡山が言う。

「おい! 大丈夫かよ!」

「うまっこれすごいうまっ! おおー! これ美味い!」じゅるじゅるよだれを飛ばしながら岡山は草を食う。

「やばいって! やめろよ! 岡山!」

「お前も食えよ! これ美味いぞ!」俺の方を見向きもしないで岡山が言う。

「どうしたんだよ岡山! 絶対やばいって!」

「あああ! 美味い!」

「岡山! やめてくれよ!」

「美味すぎる! こんなの食ったことねえ!」 

 そう言いながら岡山は一心不乱に草を食った。

 岡山の目と鼻と耳から青い液体が流れているのを見て、俺は立ち尽くした。

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