3rd day

幕間――アンジェリカ=エリウス=エールリンク

 夜。アンジェラは表情にこそ出さなかったものの、内心では辟易していた。








 場所は教会の内部にある小さな談話室だった。








 室内には使い古されたソファーとテーブル、あとは子どもたちの情操教育用にとなけなしの資金で購入した数冊の絵本が並べられた書棚しか置いていない。








 仮にも世界有数の観光都市の教会としてはあまりにも貧相な光景ではあったが、アンジェラにとって、そのことにさしたる問題などなかった。








 清貧を尊ぶ彼女には豪華な調度品も過剰な金銭も必要ない。彼女は日々を生きるための糧と子どもたちの笑顔さえあれば、それで充分だった。








 故に、目下アンジェラを悩ませているのは別のこと。テーブルを挟んだ向い側に座る一人の男のことだった。








「――シスター・アンジェラ。どうあっても考え直しては頂けませんか?」








 同じやりとりの繰り返しに、アンジェラはうんざりと溜息をつきたくなった。








 男の年齢は二十代後半から三十代前半といったところだろうか。




 黒を基調としたカソック。長い髪を後ろで一つにまとめており、右耳には剣十字のイヤリングをつけている。




 身長は高く、肉付きの良い体形だが、細い目とこけた頬が見る者に枯れた老人のような印象を与えていた。








「『聖十字騎士団』エミリオ=カルヴァ―シュ様。先ほどから申し上げているとおり、その要求は受け入れられません。どうか、ご容赦を」








 アンジェラは静かに頭を下げる。












 ―――聖十字騎士団。








 世界最大の宗教団体である聖天教が独自に保有する戦力。




 修道騎士とも呼ばれる彼らは聖天教の教義に従い、異端と定められた者たちを討つ神の盾にして剣。




 厳しい戒律の中、修錬を重ねてきた彼らの力は世界最高峰と言われる聖王国の王立騎士団にも匹敵し、教会内においても強い発言権を持つ。








 そんな修道騎士の一人を前に一介のシスターに過ぎないアンジェラが毅然と対応する姿は、事情を知らない者が見れば一種、異様なことと映るだろう。








「……理解に苦しみますな。このような場所でのうのうと生き、それほどの力をただ無駄にするおつもりですか? 『十天』にまで登り詰めた貴女ほどの方が」








 エミリオは責めたてるようにその細い目をさらに眇めた。








 かつてアンジェラは聖十字騎士団に所属していた。








 並みの魔術士を遥かに凌駕する力を持つ聖十字騎士団。




 その頂点である十人の修道騎士を『十天』と呼び、その者らをして聖天教最大の切り札とされている。




 精鋭中の精鋭である『十天』はその全員が〝銘持ち〟であり、特にアンジェラは女の身でありながら位階第六位にまで昇りつめた女傑。




 エミリオのような下位位階の修道騎士や一般の信徒にとって、アンジェラはまさに英雄なのだ。








 たとえ彼女が、どのような思惑で聖十字騎士団に所属していたとしても。








「――ええ、そのとおりです」








 アンジェラは揺るがず、胸元に提げられた十字架に手を当て、穏やかな声音で答えた。








「貴方の言うのうのうとしたこの生活こそが今の私の望みなのです。かつての銘は既に教会に返上し、残ったものはこの十字架と血に塗れた手のみ。本来ならば私にこのような穏やかな生活を送る資格などないのかもしれません。けれど、今の私には命に代えても守らねばならないモノがあります。それを差し置いて、修道騎士に戻るつもりはありません」








「シスター・アンジェラ……」








「――それに」








 透きとおるような美声が、なおも言い募ろうとするエミリオの言葉を遮る。








「貴方は全てを語ってはいないでしょう。何故それほどまでに私に修道騎士に戻ることを求めるのですか? わざわざ聖都からこのような場所にまで訪ねてきたのです。かつて『十天』であった私がこのような生活を送っていることに憤っているから、という理由だけではないのでしょう?」








 エミリオの要求。




 それはアンジェラの修道騎士への復職。




 一介のシスターではなく、修道騎士として再び共に戦ってほしいということ。








 そして先ほどから語るその理由とは、








「……理由など。私はただ苦しむ民を想い、争いのない時代をつくるため、より多くの力を必要としているだけです。貴女はそれを、」








「本心を語る気がないのなら話はこれで終わりです。どうか、お引き取りを」








 にべもないアンジェラにエミリオが口をつぐむ。








 アンジェラはこれまで修道騎士として多くの部下を持ち、多くの者と接してきた。それゆえに解る。エミリオの言う「苦しむ民のために」という台詞はとても耳障りが良い。しかし、それだけなのだ。








 目の前の男の言葉はまるで聖書の美しい言葉をただ諳んじているだけで何の実感も伴っていない。








 故に彼の語る言葉は軽く、何一つアンジェラの心に響かない。








 エミリオはアンジェラを睨みつけ、彼女はそんなエミリオの視線を泰然と受け止める。やがてエミリオは嘆息し、静かに口を開いた。








「シスター・アンジェラ。貴女は今のこの世界をどう思っている? この世界は完全で、美しく、素晴らしいものだと思っているのですか?」




「……何が言いたいのですか?」








 アンジェラは訝しげに尋ねる。しかし、エミリオはアンジェラの質問には答えず、言葉を続けた。








「私は決してそうは思わない。人魔大戦が終わり、人類は束の間の平和を手に入れた。しかし、それも一時のこと。今や人類は失われた土地と利権を求めて同じ人間同士で相争うばかり。愚かしいとは思いませんか? 我ら人類には魔獣の他にも『異能者』という斃すべき悪が存在するというのに……っ!」












 ―――異能者。












 それは、生まれながらに特異な能力を持った者たちの総称だ。




 端的に言ってしまえば、魔術とは魔力を用いた体術であり、すなわち技術だ。才能の有無はあれど、努力さえ積めば誰でも習得することはできる。








 しかし異能は違う。








 異能者が持つそれぞれ固有の能力は魔術では不可能な現象をいとも容易く引き起こす。




 それは時に嵐を呼び、雨を降らせ、未来を見通すことさえも可能とする。




 異能者たちのその力は人魔大戦において人類の勝利に大いに貢献した。








 けれど、人間とは本質的に己とは違う存在を受け入れることができないもの。








 自分たちの理解を超えた強大な力を振るう異能者たちを人々は怖れ、〝聖王〟カイラードの治世以前は異能者たちは悪魔の種族として迫害され続けてきた。








 その迫害を行ってきた代表格こそが聖天教の過激宗派である『スレイン派』であり、彼らの手によって多くの罪なき異能者が殺されてきた。












(……つまりはこの男もまた『スレイン派』の一員というわけですか)












 でなければ、このような発言は出てこないだろう。








 こちらを見つめるエミリオの瞳は狂気を孕んでいた。その瞳は、かつてアンジェラが幾度となく見てきた狂信者のそれと同じだった。








「貴方は異能者を根絶すれば、争いが終わり、世界が平和になるとでも?」








「少なくとも世界の混乱は減少するでしょう。かの大戦で人類が一つになることができたのは、ひとえに魔獣という人類共通の敵が存在していたからだ。そして人類は今、異能者という敵を前に再び一つになることができる。それにも拘わらず、人類が未だに一つになることが出来ないのは『異能者への差別撤廃及びその人権保障』などという下らぬ法案が可決されてしまったからに他ならない!」








 ダンッ! とエミリオは自身の怒りを表すように、テーブルを拳で激しく殴りつけた。








「私は〝聖王〟カイラード陛下を心より御尊敬申し上げている。かの御方の偉業も大いに認めるところではあります。しかし、この法案に関してだけは愚策であったと言わざるを得ません」








「口を慎みなさい、カルヴァ―シュ騎士。その言はこの世界を救った偉大な英雄への侮辱です」








 アンジェラが不快そうに眉を顰める。しかしエミリオの言葉は止まらない。








「いいえ、愚策ですよ。たとえ異能者共を徴兵するための宣伝プロパガンダだったとしても、この法案だけは可決されるべきではなかった。異能者は人間でなく悪魔の末裔だ。故に、悪魔を保護する法などあってはならない。私が貴女の下を訪ねたのは、この想いを共有できると考えたからです。








 瞬間、空気が一気に張りつめた。








 今の言葉はアンジェラの数少ない逆鱗の一つに触れていた。




 しかし、アンジェラは自身の中に渦巻いた激情を撒き散らすことはせず、静かに言葉を紡ぐ。








「……良くご存知ですね」








「調べるのは容易かった。何しろ貴女は有名でしたから」








 ニヤリと、エミリオの口角が三日月状に吊り上がる。




 今まで見えてこなかったアンジェラの感情の変化に、エミリオは確かな手応えを感じた。








「異能者に家族を殺され、仇を討つために修道騎士となった復讐鬼。それが貴女だ、アンジェリカ=ヴィルヘルム=エールリンク。恨んでいるのでしょう? 家族を殺した異能者を。憎んでいるのでしょう? 貴女の平穏を壊したあの悪魔どもを」








 アンジェリカ=ヴィルヘルム=エールリンク。






 復讐を誓ったあの日、故郷に置いてきた彼女の本当の名。






 エミリオはアンジェラに向かって手を差しのべる。








「今一度言います、アンジェリカ殿。我らと共に征きましょう。今度こそ、あの悪魔の種族を根絶やしにするために」








 差し出された復讐の手と狂気の瞳。








 まるで歪な鏡像のようだとアンジェラは思った。








 エミリオを見ていると、かつての自分を思い出す。




 復讐に心を囚われ、ただ仇を追うためだけに戦い続けたあの虚しい日々を。












(……けれど、私は見つけた。誰かを殺すのではなく、誰かを生かす道を。あの子たちを守り、未来へと送り出す幸福に満ちた生き方を)












 アンジェラは毅然としてエミリオの手を拒絶する。








「お断りします。今の私はあの子たちの保護者なのです。あの子たちを見捨て、修道騎士に戻るつもりはありません」








「子供たちのことなら心配はいりません。今以上の生活を約束しますし、しかるべき里親も探しましょう……もっとも、








 エミリオの不穏な発言にアンジェラは双眸を眇める。








「……どういう意味ですか?」








「悪魔どもは狡猾、ということですよ、アンジェリカ殿。彼奴らの最も厄介な点は、その強大な能力ではなく、人間に近しいが故に人間の感情を読み取ることに長けているという点です。孤児を装い、教会の中に異能者どもが紛れ込んでいる可能性もゼロではない。貴女を疑っているわけではありませんが、あの子供たちが人間であるとの確証は得ていないのでしょう? 万が一、彼らの中に異能者がいるのであれば早急に発見し、処分を――――」
















「――二度目だ。『』」
















 突如、エミリオは時間が停止したような錯覚に陥った。
















「カッ…ハ……ッ⁉︎」








 喉が引き攣り、呼吸は塞き止められ、身体中が金縛りにあったように硬直する。








(これ、は……ッ⁉︎)








 『天声』








 声に魔力を乗せて発することによって相手の言動を強制的に縛りつける魔術。








 アンジェラの『天声』に完全に囚われてしまったエミリオは混乱した頭で己の現状を必死に理解しようとする。








(馬鹿な⁉︎ 声どころか呼吸まで止められた⁉︎ 魔術を使えない一般人ならともかく、修道騎士である私にこれほどの縛りを⁉︎)








 人間や魔獣のように高度な知性を持つ生物は外部からの精神干渉に対する抵抗力が非常に強い。








 ゆえに、『天声』による縛りを成立させるためには相手の虚を衝くか、互いの魔力量に余程の差がなければならない。




 アンジェラのそれは、エミリオの魔力の壁を容易く突き破り、縛り上げる練達の業だった。








(彼女の力を決して侮っていたわけではないが、まさかこれ程とは……っ⁉︎)








 戦慄する。








 たった一度の魔術行使で彼我の力量差を完全に理解させられてしまった。実戦を離れ、年月を経ても尚この力。








 目の前の女がかつて聖天教最大の切り札だったという事実をまざまざと見せつけられたような気分だった。












「――貴方は思い違いをしている」












 アンジェラの底冷えのする声音で放たれた一言によって、エミリオの全身は総毛立ち、『天声』を解こうと高めていた魔力は一瞬で霧散する。








 ギシリッ、と、何かが軋む音が聞こえた。








 アンジェラがソファーからゆっくりと立ち上がる音だった。








 エミリオにはそれが、まるで巨大な肉食獣が起き上がったかのように思えた。








「一つ。かつて私がスレイン派に身を寄せていたのはそれが私の復讐を果たすのに最も効率的だと考えたからです。ゆえに、仇を討った今、私に異能者を憎む気持ちはありません。そしてもう一つ。こちらの方が致命的ですね――








 瞬間、アンジェラの身体から白銀の魔力が立ち昇る。








 自身のそれとは比べるべくもない膨大な魔力が嵐の如く吹き荒れ、その暴圧に耐えかねた空間が軋みを上げる。












「――――――ッッッッ⁉︎」












「あの子たちが異能者であろうがなかろうが、私にとってはどうでもいい」








 アンジェラが一歩、こちらに向かって足を踏み出す。








 人のカタチをした底知れぬ怪物が近づいてくる。








「家族を亡くし、居場所を失ったあの子たちを、私は守ると誓った」








 二歩、怪物が進んでくる。








 恐怖で身体が竦む。




 歯がカチカチと鳴り、全身から汗が噴き出す。




 魔力の嵐は収まらず、その強大な魔力はアンジェラを中心に今なお渦巻いている。








「それはもしかしたら贖罪のつもりなのかもしれない。罪深いこの身を濯ぐための代償行為なのかもしれない……それでも構わない。たとえ、この気持ちが何であろうと、この誓いは、








 三歩、怪物は歩みを止めない。








 目を逸らせない。




 その魔力が、魂までも凍えさせる絶対零度の殺意が、怪物から目を逸らすことを許さない。








「だからカルヴァ―シュ。貴方がもし、貴方の手前勝手な理屈と正義で、あの子たちを傷つけるようなことがあったなら――――」








 四歩、先ほどまでの魔力の嵐が嘘のように立ち消えた。








 怪物はそっとエミリオの肩に手を置き、耳元に口を寄せ、囁くように、
















「私がどうやって家族の仇を殺したのか、?」
















 エミリオの心に、深く、深く、楔を打ち込んだ。
























 エミリオが去った後、一人になった談話室の中でアンジェラはソファーに背を預け、溜息をついた。








「……面倒なことになりました」








 思わず一人ごちる。








 異能者を殺すことに執着する『スレイン派』の修道騎士。








 ひとまずエミリオに関しては、あれだけ脅してお願いしておけば、当面のところは問題ないだろう。








 だが、油断は出来ない。




 仮にエミリオがこのまま諦めたとしても、いずれ第二、第三の『スレイン派』がこの教会に来る可能性は否めない。一時的に脅して引き下がらせたところで根本的な解決にはならないのだ。








「それにしても、復讐鬼……ですか。なるほど、確かにその通りですね」








 聖王の治世以前は聖天教の最大宗派だった『スレイン派』。








 かつてアンジェラはその先鋒として教会の命に従い、異端の烙印を押された者たちを容赦なく処断してきた。








 老いも若いも、男も女も関係なく、ただ無感情に力を振るい、異端の者どもの首を落としてきた。








 すべては家族の仇に辿りつくために。そのために多くの罪なき異能者たちを殺してきた。








 そうして、自らの手を血で汚し、いくつもの死山を築きあげた頃、いつしか彼女は修道騎士の頂点たる『十天』へと登りつめ、『スレイン派』の筆頭騎士として目されるようになっていた。








「……どうして、こんなことになってしまったのでしょうか」








 疲れたようにソファーへともたれかかり、天井を仰ぎ見る。








 富にも名声にも興味は無い。己の武を誇る気もない。








 今の自分が望むことはただ一つ。








 あの子たちと共に穏やかに過ごすことだけ。








「なんて、私にそんなこと許されるはずがありませんよね」








 ふ、と自嘲の笑みを浮かべる。








 かつて自分が殺してきた異能者たちにも家族がいただろう。友人がいただろう。恋人がいただろう。








 それを理解していながら、アンジェラは己の目的を優先し、その命を奪ってきた。








 ならば己が赦される道理は無く、自らがそうしてきたように、いつか誰かがこの胸に復讐の刃を突き立てるだろう。








「それでも、今はまだ殺されるわけにはいかない。せめて、あの子たちを任せられる後任が見つかるまでは―――」








 アンジェラが密かに決意を固めていると、背後からガチャッと扉の開く音が響いた。








「シスター……?」




「カレン?」








 振り返ると、そこには扉から顔を出す小さな少女の姿があった。




 アンジェラはソファーから立ち上がり、少女の方へと歩みよる。








「どうかしましたか、カレン? 眠れないのですか?」








 子供たちに不安を与えるわけにはいかない。




 アンジェラは先ほどまでの暗い雰囲気を消して、微笑みを浮かべながら少女に問いかける。








 しかし、少女はその問いかけに答えず、アンエジェラに駆け寄り、その身体にしがみついた。








「……カレン?」








 衣服を通して伝わる自分よりも高い体温と微かな震え。




 アンジェラは困惑しつつも、カレンを彼女の髪を優しく撫でつける。




 それで多少は落ち着いたのか、やがてカレンがポツリと口を開いた。








「………こえが、聞こえたの」




「……声?」








 カレンの震えが一層大きくなる。




 不安に耐えるようにカレンは力の限りアンジェラの身体にしがみつく。








「あいつが来てから、ずっと聞こえてたの……異能者はころせ、異能者はあくまだって、つめたくて、くらいこえで………ずっと、ずっと、頭のなかでひびいているのっ……!」








 カレンは耳を押さえて、悲痛な叫びを上げる。




 それに対し、ある推測がアンジェラの脳裏を過った。








「カレン、貴女まさか―――」








 子供達には決して談話室に来ないよう強く言い含めていたし、実際にこの部屋に子どもたちが近づく気配はなかった。先ほどのエミリオとの会話が聞こえていたはずがない。




 ならば、カレンが聞いた声というのは―――








「やだよう、シスター………お兄ちゃんに会いたいようっ」




「……ごめんなさい、カレン。怖い思いをさせてしまいましたね」








 カレンの瞳からポロポロと大粒の涙が零れ始める。




 アンジェラは脳裏の推測を打ち消し、カレンの小さな身体を抱き締め、その背中をあやすように叩いてやった。








「大丈夫です。貴女たちは私が必ず守ります。ソラにだって直ぐに会えますからね」








 エミリオへの恐怖。




 ソラと離れ離れになってしまったことへの不安。




 それらの想いが胸中でない交ぜとなり、カレンの涙腺はアンジェラのその一言で容易く決壊した。
















「うあ、ああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
















 声を上げて泣き叫ぶカレンをアンジェラは抱きしめ続ける。




 そして瞳を閉じ、祈りを捧げた。








(――主よ。この子たちはこれまで、たくさんのつらい思いをしてきました。なればこそ、この哀れな子供たちにどうか祝福を。多くの傷を背負ってしまったこの子たちに幸多き未来を――どうか、どうか、お与えください)








 穢れた自分の祈りが届くことはないのかもしれない。それでも、祈らずにはいられなかった。
















 カレンが泣き疲れて眠るまでずっと、アンジェラは少女の身体を抱き締め、祈り続けた。




















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