12 証言
12
もっとも、オズワルドが明確に嘘をついているというのを知っているのはアクロだけだ。その嘘も彼女のためであるので、アクロは口を挟まず静観している。レルドも――「違うだろう」と言いたげだったがなにも言わなかった。
そんなふたりの態度を知ってか知らずか、オズワルドはイジーリアに尋ねる。
「ルアナ女史、お聞きしたいことがあります」
「はいパニッシュラ様。可能な限りお答えしましょう」
イジーリアを連れて来た憲兵はレルドに耳打ちする。
「態度が全然違います……。最低限のことしか話してくれなくて……」
「こういうとき役に立つなあいつ」
さらりとひどいことを言いながらレルドはオズワルドに目配せをする。意図を読み取ったオズワルドは何事もなかったように話に戻る。
「まず、そこの
「ええ。私はここの近くで返却本を棚に戻していました。ほとんど終わったころに、お嬢さんが『人が倒れている』と私の元へ駆けてきたんです。それで一緒に見に行くと館長が死んでいました。なので憲兵隊へ連絡して、今に至ります」
「なるほど」
視界の端でかすかにアクロが頷く。一致しているらしい。
「あなたが最後に見たときの館長のご様子は?」
「変わりなく、普通でした」
「普通とは?」
「いつも通りいばっていました。ろくに仕事もしないのですよ、あの方。勤めている司書の大半が嫌っているでしょうね」
「そうなのですね。最近トラブルが起きていたなどは聞いていますか?」
「どうでしょう。噂に敏感な人なら知っているとは思いますが、私はなにも把握していません」
オズワルドはレルドを見やった。「他の司書や利用者にも聞いている途中だそうだ」と返される。
「ところで、先ほど『聖剣の伝説』を取り出そうとしたらこのようにばら撒いてしまいました。申し訳ありません」
「……あら。大丈夫ですよ。古い本なので糸で縫ってあるタイプなのです。劣化して切れてしまたのでしょう」
「この中の一ページが館長の背中に挟まった状態で発見されました。死の直前に『聖剣の伝説』に触れていたのでしょうか? 館長が、この本を気にしていたといったことは――」
「あり得ません」
食い気味に、硬い声でイジーリアは否定した。
注目する一同の中でアクロだけが図書館の天窓を眺めている。強い風が吹いているのか、葉が待っていた。
オズワルドは教え子の態度にわずかに眉をひそめるも会話を続けた。
「断定するんですね」
「ご存知でしょう? 勇者様が嫌いだと公言していた方ですよ。このあたりの本だって、閉架書庫に送るか処分するなんて言っていましたから」
「なぜ?」
「同じような内容の嘘っぱちな童話が並んでいるのが嫌だとか」
まあ確かに同じ内容だよな、とオズワルドは口の中で呟く。館長を庇うわけではないが。
彼の元には「モデルにしたから」と頼んでもいないのに献本が届くことがあるのだ。生来の真面目さゆえに一度は目を通すが、だいたい似たり寄ったりなものだ。読み終わったものはクラリスの経営する孤児院に送り付けている。
「では、『聖剣の伝説』単体は探しに来なくともこの辺りのスペースに訪れることはあると」
「日に何度か職員の勤怠チェックでまわるので、目的としてではなくルートの一つとして通ることはあるでしょうね」
思ったより息苦しい職場らしい。オズワルドは自由にやらせてもらっているので少し同情する。
上司がちょくちょく見回ってきたら我慢できないかもしれないので。
「その間に襲われた可能性は?」
「あるかもしれないですね」
そうなると第一発見者のアクロが怪しくなってきてしまう。
現在そこまで強く疑われていないのは、殺害方法が判明していないからだ。単純な殺し方であればもっと厳しい追及をされていただろう。
オズワルドは落ちてきた眼鏡を押し上げながら考えるうちに、さきほどアクロが発した疑問を思い出す。
「……どうやって作られた傷だ?」
独り言を溢した時だった。
「おれがやりましたっ!」
ひとりの男が、オズワルドたちの元へ飛び込んできたのだ。
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