第3話 夕飯
土曜の午後16時。
午前中のうちに買ってきたものを台所に並べ、準備に取り掛かる。
鶏むね肉の皮を剥いで観音開きにし、その上にラップを敷く。
隣で作業を見つめていた悠太に綿棒を渡す。
「これ、叩いて薄く伸ばしといて」
「はーい」
あれ、叩いて大きくしてたんだ。知らなかった。
そんな事を呟きながら、悠太は容赦無く鶏むね肉を叩きまくる。
その横で、ボウルに生姜、ニンニク、砂糖、カレー粉、醤油、酒、みりんを入れ、混ぜておく。
横目で鶏むね肉を確認するといい感じに伸びていたので、悠太の手を止める。
「じゃあ、この中入れて」
ボウルを差し出すと、悠太は雑に肉を放り込む。
「ちゃんと伸ばして」
「えー」
面倒臭いなぁ。
そう言いながらも悠太は丁寧に形を整え、全体が液に浸るようにした。
その上からラップで落とし蓋をする。
「これで1時間待ちます」
テレビ見よう。
そういえば悠太は冷蔵庫から350mlペットボトルのコーラを2本取り出し、ソファーに座った。
そして、こちらを振り向き、手招きする。
「アマプラ見よ、大阪チャンネル」
「はいはい」
アラームを1時間後にセットし、悠太の隣に腰掛ける。
そうすると、間髪なくコーラを差し出された。
お礼を告げ、それを受け取り、喉を潤す。
テレビには2人のお気に入りの漫才師3組が映っていた。
2人で腹を抱えながらテレビを見ていると、あっという間に1時間を告げるアラームが鳴った。
「次何すればいい?」
俺よりも先に立ち上がり、アラームを止めた悠太はこちらを振り向いて尋ねる。
テレビを止め、隣に並ぶ。
「パットの中に片栗粉と白玉粉入れて混ぜて。混ざったら肉につけて」
「あいよー」
気の抜けた返事をしながら動き始めた悠太を横目に、フライパンにサラダ油を引こうとして一瞬止まる。
どれくらいの量を入れればいいんだろうか。
まぁ、でも、唐揚げだし。揚げ焼きかな。
止めた手を再び動かし、フライパンにいつもより少し多めの油を入れる。
油が十分に温まった所で悠太からずいっと肉と粉の入ったパットとトングを渡される。
「ありがと」
そう言って受け取り、肉を焼く。
火が通るまで数回ひっくり返し、両面が黄金色になったところで油からあげる。
悠太からキッチンペーパーの敷かれた皿を受け取り、その上に載せる。
少し小さいけど、それ以外は昨日テレビで見た通りのザージーパイが出来ていた。
それを机の上に持っていき、ソファーに座る。
俺に続いて悠太は包丁と箸を持ってきて、同じようにソファーに座った。
「これがザージーパイか…」
確かにインスタ映えしそうだよね。人気が出るのも分かるかも。
悠太はうんうんと頷く。
「問題は味と量だけどな」
写真撮る?
撮らない、食べよ。
じゃあ、もう切り分けるわ。
そんなやり取りをしながら、ザージーパイに包丁を入れ、一口大にする。
「じゃあ、頂きます」
「頂きます」
2人で一口大のそれを頬張る。
サクサクとなる衣、解れの良い肉。噛めば噛むほど出る旨味。
2人とも無言で頬張っていく。
空の皿からカランと箸の置かれる軽い音が鳴る。
「めっちゃ美味しかった。案外ペロッといけた」
人気が出るのも分かるわ。
レシピも良かった前提だけど、カレー粉のアレンジと焼き具合も良かったのでは。
自画自賛しながら悠太の方を見ると、何とも言えない顔で空になった皿を見つめていた。
「え、何、足りなかった?」
俺の問いに、悠太は首を振る。
「あのさ」
悠太はそう言って黙り込んだ。
俺はただ言葉の続きを待つ。
長い沈黙の後、悠太は再び口を開いた。
「いつか、浅草行こうよ。浅草にあるらしいよ、お店」
お店のはどんな味なんだろうね。
顔は皿に向けたまま、横目でこちらを見た悠太は下手くそな笑顔を浮かべていた。
「ん、いつかな」
それに気付かぬフリをして、俺は答えた。
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