Act.17
「アリスさん、本当にありがとうございました」
そうお礼を言ってくるのはエリシアちゃん。昨日、クルトさんの遺体を発見し、何やかんやあって遺体をこの家の庭に運び、火葬を行った。
わたしは火属性の魔法が使えない。どうやって火葬したかと言えば、エリシアちゃんである。エリシアちゃんは光と火の属性に適正を持ってるので、その火の魔法で火葬したのだ。
自分の手でクルトさんを火葬し、この地に埋葬した所で昨日の出来事は終わる。エリシアちゃんはクルトさんの遺体を埋めた後も、しばらくその場所から動かないでいた。
「気にしないで。エリシアちゃんは大丈夫? もう落ち着いた?」
「はい。まだ整理出来てませんけど、大分落ち着いたと思います」
そして現在。
エリシアちゃんも結構落ち着けたみたいで、わたしも少し安堵する。これで彼女のお願いは達成した訳だけど、これからどうするのか。
「エリシアちゃんはさ、これからどうするの? 宛とかはあるの?」
わたしがそう問いかけると、エリシアちゃんは静かに頭を横に振る。うん、分かってはいた。物心ついた頃には既に奴隷だった訳だし、両親の事も分からないのだ。
「奴隷からは解放されましたので、最低限の生活の保証も受けれなくなります。なので、何処かで働いて稼ごうかなと思ってます」
「……でも、エリシアちゃんの年齢だと」
「そうですね……私はまだ12歳ですし、成人もしてません。雇ってくれる人は居ないでしょうね」
エリシアちゃんの年齢は12歳。この世界の成人は15歳なので、わたしはギリギリ成人しているという事になる。
地球でも言えることだが、この世界でも未成年が働くのは結構難しい。冒険者なら制限とかは特に無いから誰でもなれるけど、最低限の自衛の心得が無いとすぐに命を落としてしまうだろう。
「冒険者も、私は一応火と光の魔法が使えますが、魔力量がそこまで多くないのでちょっと私にはきついかなと思ってます」
何でもエリシアちゃんは光属性の適性はあるけど<ヒール>しか使えないそうだ。火属性の場合でも初級の攻撃魔法である<ファイアボール>や<ファイアアロー>しか使えないみたい。
そして魔力量もそこまで多くなく、普通に連発してれば直ぐに魔力枯渇を起こしてしまうそうだ。
必死に逃げていた時も、そういう魔法でなんとか凌いでいたようだ。勿論、自身の魔力量と相談をして。
あの時、倒れていたエリシアちゃんを襲おうとしていたあのサーベルタイガーみたいな魔物は追いかけてたやつではなく、偶然あそこに出てきただけのようだ。
エリシアちゃんにその魔物の死骸を見せたけど、違うって言ってたし。
「まあ、この身を売れば当面の資金は稼げるかなとは思ってます」
「それはダメ」
「え?」
「自分の身は大事にしないと」
「でも……」
「でももだってもないよ。よし、決めた。エリシアちゃん、うちの子になりなさい」
「え!?」
わたしの言葉に驚きを隠せないエリシアちゃん。まあ、いきなりうちの子になりなさいなんて言ったらそりゃあそうか。
偶々とはいえ、治療もしたし少しの間ではあるけど一緒にも居た。もうエリシアちゃんは赤の他人じゃない。知り合いが体を売るなんて言ったら誰でも止める、と思う。思うよね!?
幸いこの家はまだまだ拡張の余地があるし、何なら創造魔法で一から作り直すのも良い。ま、二人くらいなら余裕で暮らせるだろう。
「宛もない女の子を放り出すなんて流石に、出来ないよ。それにもうわたしたちは知り合いだからね」
「そんな! ここまでお世話になってるのに、これ以上迷惑はかけられません!」
「迷惑だとは思ってないって言ったでしょ。この家はまだ余裕があるし、一人増えたくらいじゃ何も変わらないよ」
「でも……」
「これはもう決めたことなので、拒否権はありません!」
「そんな!?」
「わたしと暮らすのは嫌?」
「そ、それは……」
ちょっと意地悪な質問をしてみる。別に邪なことを考えてる訳じゃなくて、放っておけないっていう思いからの行動だよ、本当だよ!?
まあ……同情っていうのもあるんだけども。
「それに、ここにはクルトさんのお墓も作った訳でしょ?」
「それはそうですけど……」
「気にしないでいいよ。だからここで暮らそう?」
「分かりました……アリスさん、本当に何から何までありがとうございます」
「良いってことよ」
こんな女の子に援交なんてさせられるかってんだ! これもまあ一つの理由だけど、他にもちょっと寂しいっていうのもある。ここ森の中だから静かだし……。
因みにベッドだけど、エリシアちゃんに使わせている。わたしは正直、何処でも寝れる自信はあるから。ま、エリシアちゃんの方が遠慮しまくりだったけど。
一緒に暮らすということになったので(したのは自分だが)ベッドと部屋を増設するべきだな。
そうなると、エリシアちゃんにはわたしの魔法については少し知って貰ったほうが良いかも知れない。勿論、言い触らさないようにと約束はさせるつもりだけども。
後は、未だに付いているエリシアちゃんの隷属の首輪かな? 効力はもう失ってるから簡単に外せるとは思うからそこは大丈夫かな?
この首輪の特徴は付けられた本人は解錠できない。これも仕組みは良く分からないけど……他の人にやって貰う必要があるらしい。特に誰しかできないとか、そんな事は無く第三者なら誰でも良い。
ただし、これは奴隷契約が成されてない場合のみとなる。契約されてる場合は首輪も効力を持つ訳で、主人かその時に立ち会った奴隷商しか解錠はできない。
前にも言ったけど、他者の奴隷を奪うことは犯罪である。奴隷というのは扱いとしては所有物となるので、日本でいうなら窃盗罪となる。
まあ、言いたい事はエリシアちゃんの首輪は既にクルトさんによって契約破棄が成されているので、普通に誰でも解錠ができる状態にあるという事、それだけだ。
「じゃあ、エリシアちゃんの首輪外そうか」
「いえ、これはこのままで良いです」
「え?」
「一応クルトさんとの思い出でもありますし……」
「そっか。でも、それなら外した物を持っていても同じじゃない? それに、付けたままだとわたしの奴隷っていうう風に見られるよ?」
「それも良いかもしれませんね」
「へ?」
「いえ、何でもありません。大丈夫ですよ……それにアリスさんとの思い出になりますしね」
「ごめん、最後聞き取れなかったんだけど……」
最後の方が聞き取れなかったので、聞いてみるが「何でもありません」とはぐらかされてしまった。まあ、エリシアちゃんがそれで良いなら無理に外しはしないけどさ。でも、何というか……首輪のついた女の子と暮らすって犯罪臭しかないし、罪悪感が酷いんだけど。
「えっと、アリスさん。改めてこれからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」
エリシアちゃんが頭をペコリと下げながら言ってきたので、わたしもその言葉に返したのだった。
■■■■□□□□□□
「……あそこか」
夜空に浮かぶ月を背に、一つの人影が空を舞う。向かう先は森の中にある、いくつかのテントが展開されている広い場所だ。
数名の者が見張りをしているが、こちらに気付いた気配はない。それもそのはずだ。黒いローブを羽織っていて、夜闇に溶け込んでしまっている。
更に言えば闇の属性に属する<ハイド>という魔法を使用し、姿を消している。光か闇属性に高い適性がなければ、見破る事は叶わない。
見張りのいるところを堂々と抜けていく、人影にまだ誰も気づかない……いや気付けない。そしてその影はテント内にも侵入しているのに、それでも気付いた気配もない。
「誰だ!? 誰かいるのか?!」
「……」
一つだけ少し豪華なテント内に侵入した所で、何かが居ると言う事を感じたのか声を荒げる男が一人。その男の近くには数名の女性が倒れていて一部はぐったりとしていた。
女性たちの首にはそれぞれ黒い首輪がつけられており、契約も成されている様で若干魔力を放っていた。
侵入した人影は、その場で何をしていたのかを瞬時に察する。
「下衆」
たった一言、それだけを呟く。その声は女性のものではあるが、非常に低く、そして怒気が含まれていた。男には未だに彼女の姿が見えていないのだろう、周辺を怯えるように見まくっている。
「こんな奴らに一人の人生が狂わされたのか……もういいや。<ディープスリープ>」
情状酌量の余地があるかもしれないと、彼女は思ったがそんな事は無かった。ここにいる奴らは全員どうしようもない下衆だと判断し、一つの魔法をこの辺一帯を範囲に発動させる。
目の前の男も、外にいたと男たち、他のテントに居た男たち全員がその魔法を発動させた瞬間深い深い眠りについてその場に倒れる。
魔法の範囲はこの辺り一帯であるため、男たち以外にも捕まっていた女性たちもまた深い眠りに落ちてしまう。あくまで深く眠らす魔法の為、死にはしない。
「……<
一か所に集めた女性たちに向けて彼女はある魔法をかける。これだけではまだ不十分と判断し、そこから更に記憶を改ざんする魔法を使用し、この場で合ったことを都合の良い物に変える。
「<イージス>」
女性たちに結界魔法<イージス>を使って5人を布の上に寝させる。男たちは少し離れた場所できつく縛り付け、頑丈な檻を作り、その中に閉じ込めたところで作業を終わらす。
「あとは……」
最後に丸い筒状の何かを複数設置し、それぞれに火を付けたところで彼女は転移によってその場を去ったのだった。
その後、
即刻冒険者パーティーは街にある組合へ報告し、男たち……この辺で良く出没する有名な盗賊たちだと分かりそのまま連行。
離れた場所で気を失っていた女性たちは無事保護されて一件落着となったが、これをやった本人は分からないまま、謎の事件をとして街だけではなく、国全体でも話題となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます