Act.10


 ――港街ポステル。

 ギルさんの話では、この辺では最も活発な交易都市で、海上隣国からの貿易もあって色んなものが集まってるらしい。


 アルタ村から旅立ち、夜は家に戻って寝る。そんな事を3日続けた所でわたしはようやくポステルへ辿り着いた。


「ほえー……」


 その街を外から見た感想は圧巻の一言。

 アルタ村とは違い、街を囲うのは柵とかではなく城壁。そして結構高い。白をベースに作られた城壁は近づいても離れていても目立つ。

 正に思い描いた、ファンタジーの街みたいな感じだったのだ。勿論、アルタ村を悪く言ってるつもりない。村は村、街は街だ。港街でこれってことは、王都とかだとどんなだろう?


 早速、入り口である門の所に向かうのだが……。


「うあ、結構並んでるな」


 数十人くらいは並んでると思う。やっぱり交易都市という事だけあって人の出入りも激しいのかも知れない。大人しく最後尾に並ぶことにする。


「次の方、身分証の提示をお願いします」


 しばらくして、わたしの番がやって来る。

 アルタ村ではなかったが、この街ではあるようで、身分証を求められるようだった。冒険者組合に登録しておいて正解だったようだ。


「これで」

「確認しました。……ようこそ、港街ポステルへ!」


 登録証を見せると、特に何もなくすんなりと中へと入る。そして少し進んだ先で足を止める。


「おお……」


 これはある意味感動する。

 様々な人々が行き交い、あっちこっちから客寄せの声が聞こえる。談笑しているのか、話しながら楽しそうに歩く人や、如何にも冒険者という感じの人、兵士であろう人たち。


 もう少し進めば、今度は交易船だろうか、大きな船がいくつも並んでいるところもある。


「港街と言うだけはあるねー」


 正直感動した。アルタ村にはちょっと申し訳ないんだけど、何というか異世界感をあまり感じれなかった。でもこのポステルは本当に凄いと思った。東京とか目じゃないかもしれない。

 人間だけではなく、他にも獣耳をもってる人たちや、漫画とかでしか見たこと無いけど、あれはドワーフっていうのかな? そんな人たちもいる。


「……うん、凄い!」


 これは素直な感想である。

 よくよく見ると、同じ人は人でも首に輪が付いてる人たちも居る。あれは……多分奴隷なのかな?やっぱりそういうのもあるということかな?

 まあ、明らかに盗賊のあれは違法のように見えるけど、どうなんだろう? やはり圧倒的に知識が足りてないから早めに手に入れたい。


「ママー、あのお姉ちゃん綺麗!」

「本当ねー、でもあまり人をじっと見るものじゃないわよー」

「はーい!」


 いやね? さっきから視線は感じていた。門を抜けて街の中に入ってきてから、ここまでわたしの方を見て来るんだよね……。


「ふふ、ありがとうございます」

「あ、娘がすみません!」

「いえいえ。大丈夫ですよ。これ上げますね?」

「わーい、あめだ!」

「良いんですか?」

「どうぞどうぞ」


 とはいえ、子供に何を言う訳でもなく……ポケットの中で創造魔法を使ってりんご味の飴玉を作り、それを女の子にあげる。

 目をキラキラさせる女の子は可愛く、ついつい撫でてしまう。


「お姉ちゃん、くすぐったい!」

「あ、すみません」

「いえいえ、大丈夫ですよ!」


 いきなり撫でてしまい、はっとする。素早く謝ったけど、お母さんの方は笑いながら許してくれる。

 まあ……綺麗と言われて悪い気分ではない。まあ、わたしの作ったキャラが褒められるのは嬉しいという感じ。わたし自身なんだけどね!!


「お姉ちゃんってお貴族様なの?」

「あ、こら!」


 そんな事を聞いてくる女の子にお母さんのほうが慌てる。


「わたしは旅をしてます。身分は、そうですね、一応冒険者でしょうかね」

「そうなんですか?」

「はい。これが証拠です。なので気にする必要はないですよー」


 登録証を見せれば、お母さんの方は安堵したようだった。ま、仮に貴族だったとしても特に咎めることはしないけどね。


 その後は軽くお話をし、この街の案内というか、図書館と冒険者組合の場所を教えてもらった。出だしは良好じゃなかろうか。

 教えてくれたお礼としてもう一個飴をあげた。今度はお母さんの分も出したよ。




「ここが図書館かー」


 そんな訳で周りからの視線を感じつつ、教えてもらった場所に行くと、そこそこの人の出入りがある大きな建物……本のマークみたいな絵が描かれている建物に辿り着く。

 これでようやく基礎知識とかが手に入るかな? でも、普通にすんなり入れるのかな……やっぱり何か手続きはあると考えたほうが良さそう。


「ポステルの国立支部図書館へ、ようこそ」


 取り敢えず中へと入ると、如何にも司書と言った感じのメガネを掛けた女性がカウンターに立っていた。


「えっと……初めて利用するのですが、本を読みたい場合はどうすれば良いですか?」

「なるほど、そうでしたか。身分証等はありますか?」

「冒険者登録証なら」

「確認しました。はい、問題ありませんよ。……説明は必要でしょうか?」

「あ、お願いします」

「それでは失礼して……まず私はここの司書をしています、アリサと申します。以後お見知り置きを。……本の閲覧ですが、基本的には持ち出しは禁止となります。特例を除いて当図書館内での閲覧のみとなります」


 なるほど。つまり地球で言うレンタルっていうのは出来なくて、その場で見るだけか。あと司書さんの名前はアリサさんと言うらしい。


「そして本の紛失については、こちらに責がない場合は弁償となりますので、扱いには注意して下さい」

「なるほど」

「後は本図書館の営業時間は18時までとなっていますので、時間になりましたら退館をお願いします。以上になりますが、質問等ありますか?」

「いえ大丈夫です、ありがとうございます」

「分かりました。それではどうぞ」


 アリサさんの説明を聞き終え、早速わたしは奥へと入るのだった。





「ふむふむ……」


 場所変わって図書館内の、ある本棚近くにあるイスに座ってわたしは本を読んでいた。


「闇と光の魔法やっぱり若干特殊なのか」


 魔法について知りたかったので魔法関連の本を読んでいるのだが、予想通り闇と光は他の4属性……火・水・風・土よりも使える人が少しだけ少ないようだ。

 光属性は光属性でも高度な回復魔法を使える者は非常に少ないみたい。で、それなりに強力な回復魔法が使える人は教会という所に属してる事が多いみたい。神官ってところかな?


 冒険者にも使える人はいるけど、結構教会から勧誘が来ることがあるみたい。勿論、本人の意志を尊重するらしいけど。


「うーん、教会に勧誘されるのは嫌だなー」


 あまり強力な魔法は人前では使わないようにせねば。わたしの目的はスローライフだけ。今でも創造魔法に頼れば出来なくもないんだけどね。


 それはそうと、やっぱりこの世界には魔法がある。既に何回か使ってるけど、あれほとんど自分の妄想というか想像でしか無かったので、ここに来て確信できた。

 魔法はイメージが本当に一番のキーで、イメージが薄ければどんな簡単な魔法でさえ失敗する可能性が高いみたい。


「属性魔法については分かったけど、精霊魔法、ねえ」


 魔法には大きく分けて2つあり、1つがわたしも使ってる”魔法”。もう1つは”精霊魔法”と呼ばれる物。

 違いとしては”魔法”は自らの魔力を消費して繰り出す物で、”精霊魔法”は精霊より力を借りて行使する力のようだ。


「精霊、か」


 上位精霊なら、人型を取って人々の前に姿を表すことがあるらしい。何となくは想像できるけど、まあ妖精さんみたいな感じだろう。


 その後、わたしは様々な知識を頭にいれるべく、閉館時間ギリギリまであっちこっちの本を読み漁るのだった。



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