Act.8


 港街ポステルへ出発……と行きたいところだが、まずは一度家に帰って準備をしようと思う。村から出て少し進んだ所にある木に隠れ、転移する。

 何となくではあるけど、転移魔法はレアな魔法な感じがしたのであまり人前でホイホイ使うのは良くないと思ったから。あくまでなんとなく、だけどね。


 鉄柵で囲われた範囲内……一応庭っていうのかな? その一角に林檎の種を蒔いておく。水やりも忘れない。

 キャベツとかその他の種はまだ畑を作ってないから蒔けない。適当にばら蒔いても良いけど、それだと上手く成長しない気がする。


 家の中に戻り、いくつか遠出の準備をする。

 まず用意するのはポーション類だろうか。道具屋でポーションという存在を知ったし、多分作れるはず。


 因みにポーションっていうのはファンタジーおなじみのアイテムで、傷とかを癒やすための薬品である。

 飲むタイプや塗るタイプなど有るみたい。塗るタイプは傷口に直接塗る物なので、効くのが早い。飲むタイプは内側から徐々に治していくので、比較的遅い。


 要するに、腹痛とか内蔵とかそういった中? の奴なら飲むタイプ、切り傷や火傷みたいな外傷? には塗るのが一番早く効くって事かな。

 勿論、どっちを使っても傷は治せるので単に効き目の速さの問題だろうか。


 で、そんなポーションには種類があって一般的に良く出回っているのが初級ポーション。そしてそこから順に中級ポーション、上級ポーション、特級ポーションとグレードみたいなものが存在する。

 当然グレードの高い方が効き目も凄く、大怪我とかも治せるのだがお値段が高い。参考価格として初級が300エル、中級が900エル、上級が2500エル、特級が6000エルと言った感じ。

 あくまで参考価格なのであれだが、同じ初級でも品質がよく普通よりも効き目があったりする場合もあるし、値段はやはり場所によって変わってくる。


 ポーション使用の基準としては軽い傷なら初級、そこそこの傷なら中級、大きな怪我なら上級、一部欠損とかいう大重傷だったら特級と言った感じの目安になる。


 話を戻そう。

 道具屋にあったポーションは中級までしか無かったので一本だけサンプルに購入たので、これを元に創造魔法を使って作れないか試したい。


創造クリエイション――<中級ポーション>」


 中級ポーションをイメージして魔法を発動させれば、期待した通り全く同じような中級ポーションが目の前に現れる。

 味の確認もしたいので、サンプルの物と作った物のそれぞれを一口ずつ飲んで見る。

 でだ。中級ポーションの味なんだけど、何というか……凄い微妙な感じだった。苦いとかそういうのではなく、こう何とも言えない味。

 全く一緒に作ったので創造魔法で作った方も同じ味がしてる。ここでちょっと好奇心に駆られ、味を違う物でイメージしてみた。


「りんごジュースみたいな味になったな……」


 りんご味をイメージして中級ポーションを作ってみたのだが、どうやら成功したようで味がついたポーションになった。


「創造魔法……やっぱりやばいな」


 良い意味で、やばい。


 取り敢えず、怪我をした場合を考えて中級ポーションを数本作成してストレージにしまう。

 これは余談だがポーションにはもう1種類あって、そっちの名前はエーテルと呼ばれる物だ。魔力回復を促進する薬なのだが、自分は無限魔力が有るので今回はスルーしてる。

 魔法を主に使う人が買って行く物で、同じようにグレードみたいなのが有る。ポーションっていう時がエーテルに変わるだけで後は一緒だ。上級エーテルとか、ね。


 話が逸れた。

 とにかく、創造魔法は一番チートじみた魔法だと改めて認識する。あまり人前で使わない方が良い……というか、使っちゃダメな気がする。転移魔法よりも多分まずい気がするよ。


 まあ、最初から人前で使うなんてこと考えてなかったけど、何かの拍子でやってしまう可能性もあるので、ここで一度再認識出来たのは良いと思う。


 そんな事を考えながらわたしは、ポステルへ行く準備を進めるのだった。




□□□□□□□□□□




 場所が変わり、現在わたしは街道を歩いていた。家で準備を終えた後、転移魔法でアルタ村からちょっと離れた位置に転移した所で、ギルさんに言われた通り南の方角を進んでいるのだ。

 勿論、せっかく購入した地図も活用してるので大丈夫なはず。村とはいえ、ちゃんと地図に名前が載っている。因みに地図の範囲は見た感じだとこのフロリア王国の地図のようだ。


 方角とかもこれで分かった……と思う。アルタ村からポステルに行くには途中に大きな川があるようで、そこを横断しないとならない。地図を見た感じ、橋があるのかな? 道の線が繋がってるっぽいし。今歩いてるこの道を進めば間違いないはずだ。


 街道とはいえ、地球のようにきちんと整備されている訳でもなく獣道よりはマシという感じ。村の中の道とかは結構綺麗になってるけどね。村の中まで酷かったらなんて反応すれば良いか分からなくなるだろう。


「ふんふん、なるほどね。あそこの森は新緑の森って名前なのか」


 移動中……歩きだけどずっと歩いてばっかりだと流石に気が滅入るので、時々小休憩を挟んでは地図を確認する。それで、わたしが家を建てたあの森の名前が書いてあったので、それを見ただけだ。


 どうも、アルタ村とは反対側に森を抜けると村ではなく街があるみたいだ。

 そういえば、森の中とかに普通に家を建てちゃったけど、あれ良いのかな。多分このフロリア王国の領地? なのかな多分。地球みたいに細かく管理されてるようには見えないけどね。

 そもそも、あの森に人が来ることがあるのか? だけど、使う人は使うのかな。魔物とかとも少し進むと割と遭遇したりするけど……。


 その時はその時って事で。そもそもあの森だって開拓されている様子も見張りみたいなのがいる様子も全然ない。バレたとしても管理されないだろうし、何も言えないとは思う。


「ま、今考えても仕方がないか」


 今の目的はポステルにあるという図書館に行く事だ。そこでこの世界の成り立ちとか、一般常識とか、あと出来れば魔法についても知っておきたい。どのくらいの本があるかは分からないけど、港街なんだし期待しても良いよね。


 そんなこんな考えていると、周りから気配を感じる。


「……まあ、こんな世界だし居るよね」


 何となく、ではあるけど人の気配。しかも友好的なものではなく悪意があるような。そして一人二人ではなく、数人は居るな。


 後ろに右、左、正面からそれぞれ感じる。うん、完全にわたしを囲んでるよねこれ。居るとは思ってたけど、早々に出遭うものなのだろうか。


 あ、そっか。

 今のわたしは武器を持ってないんだった。正確にはストレージの中にしまってあるってだけだが、傍から見れば手ぶらも手ぶら。そりゃあ、良いカモって言われても仕方がない。

 おまけのこの衣装だよ。このアリス風の服は戦闘向けとかには確かに見えない。むしろ、良い所のお嬢さん的な感じだろう。そんなわたしが手ぶらで歩いてればそりゃあね……。


 しばらくして……奴らは姿を現す。こちらを嘗め回すような、気持ち悪い視線を向けて。



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