第26話 贅尽くす魔王
「こんにちはー!」
「こんにちは~」
オリヴィンのドアが勢いよく開き、双子が入ってきた。
「サフィ、ルビィ、いらっしゃいませ」
「また遊びに来たのか? あいにく今は忙しいのだが」
「ううん今日はまずお昼ご飯!」
「うちのママも忙しそうだったから、食べに来たの~」
そういうことなら、と双子を席に案内する。オリヴィンは金を取らないので子供だけの客もたまに来るのだ。
「2人とも、いつものですか?」
「うん!」
「お願いね~レアちゃん」
レアも手慣れた様子で注文をとった、双子は常連なのだろう。
「かっこつけおって、いつものとはなんだ?」
「来れば分かるよ! それよりさ、シャイちゃん魔法使えるって本当!?」
「なんだ、もう聞きつけおったのか」
「うん、マイカさんが言ってたの~」
例の一件以来、私が魔法が使えるのは隠すこともなくなった。とはいえあえて言うことでもないので、聞かれない限りは黙っているつもりだが。
それに、私は日々の生活で魔法を使う気はなかった。
「ねえねえ! 魔法見せて!」
「魔法があったら、ばびゅ~んって料理運べたりしちゃうのかな~」
「あいにくそうもいかん、私は魔力があるが魔法は不得手だ。単純な魔法しか使えん」
「んん、どういうこと?」
「食材が大量にあったとしても、料理する技術がなければ食えぬだろう。そういうことだ」
「そうなんだ~」
そこに、厨房に注文を通したレアが合流する。
「それにシャイさんには、病気があるんです。あんまり無茶はできません」
「えっそうなの!?」
「だいじょうぶ~?」
「例の発作のことか、あれはほんの数秒苦痛が続くだけだ。魔法との関係は……まあるかもしれんが」
魔女の体が持つ、時折胸が焼けるように熱くなる発作。先日魔法を使ったタイミングで起きたので、レアの中ではその2つが結びついていたのだろう。だが思えば熱くなるのは魔力を貯める器官がある辺りの気もする、あながち無関係ではないのかもしれない。
「シャイちゃん病気なのか!? じゃあうちに来なよ!」
「うんうん、きっとよくなるよ~」
「そういえば、お主らの家は医者だとか聞いていたな」
辺境の村が存続するために、欠かせない医者。双子の家がそうであると、初めて会った時に聞いていた。
「病気って本当なのか? シャイ」
「ん、ああまあな」
厨房にいたルカも、料理をしながら話に混ざる。ちなみにスピネルは奥で水車の点検をしている。
「とはいえたいしたものではないぞ、時折痛むだけだ」
「痛みってのは体の悲鳴だ、理由もなく痛んだりしないし、何かあるのは間違いないんだぞ。医者に診てもらったことはないのか?」
「む? まあ、なかろうな」
魔女はずいぶん幼い頃から魔界にいると聞く、第一あの人間嫌いが医者の世話になったとは考えづらい。未だに完治もしていないわけだしな。
「なら一度診てもらった方がいい、昼の繁忙が終わったら双子といっしょに行きな」
「いや、本当にたいしたものではないのだぞ?」
「それでもだ、私らが心配なんだよ」
「そうですよシャイさん」
ルカ、そしてレアが強く頷いた。なるほどたしかに、私の病気が理由で周囲を心配にさせては、平穏に差支える。
「あいわかった、そうする」
こうして、私は医者に行くことに決まった。
「よしよし、それがいい。ほら、双子の料理もできたから、運んでくれ」
「わかりました」
レアがすぐに厨房に入った。料理ができるタイミングがわかっていたのだろう、手際のいいことだ、見習わねば。
だがそれよりも、私はレアが双子に運んだ料理を見て、思わず目を丸くした。
「な……なんだ、この料理は!?」
一つの皿に乗せられたのは、色とりどりの料理。肉団子、スパゲティ、オムレツ、ついでにサラダ。そしてさらになんと、オムレツには旗が立てられてすらいたのだ。
「ふっふーん! これぞオリヴィン特製ランチ!」
「楽しくておいしいの~、いいでしょ~?」
「ぬう、なんと豪勢な……! これほどの贅が許されてよいのか!?」
「まあ、ひとつひとつは小さいからな。そんなに気にいったなら、シャイもお昼これにするか?」
「ぜひっ!」
大興奮の私は、今からワクワクが止まらなかった。
後に、このランチが正しくは『お子様ランチ』という名であると、それを嬉々として食べる私をレアが楽しそうに眺めていた理由を知ることになるのだが……
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