中一女子でも恋がしたい!
柳田からの恋の悩み&謎を、意気揚々で自信満々に請け負った我らが料理部部長エミリカ。
しかし他の部員はあまり乗り気ではない。
そこで、ピノはこの話題をさっさと終わらせたいので、要点をまとめることにした。
「ええと、とりあえず今の話を整理すると、柳田さんと彼氏さんは食事の前日に通話でお話をしました。で、その時、彼氏さんから『明日は柳田さんの誕生日だから、イタリアンレストランに連れて行ってあげる』と言って予約を取り付けてもらった。でも誕生日当日、連れていかれたお店は中華料理だった・・・ということでいいかな?」
「ええ、端的に言えばそうなるの・・・かな?」
「曖昧な返事だね。どこかに訂正するところがあるのかな?」
「ええと・・・翔太は『イタリアンレストラン』じゃなく、イタリアのご飯、略して『イタ飯』に連れて行ってくれるって言ったの」
「ああ、そう・・・」
どうでもいい訂正にピノは肩を落とす。
そこでエミリカは『ハッ』としたような顔をする。
「もしかしたら、イタリアンの料理も出してくれる中華屋さんってことはないかしら?だって、メニューにカレーがある中華屋さんって結構あるでしょ?その流れでイタリアンみたいなパスタやらピザやらあってもおかしくないわ!」
「さすが、お姉さま!お寿司屋さんにだって、ハンバーグやパフェがありますもんね!」
「でしょう?きっとそうよ!どう?ウチの推理は?」
エミリカは自信あり気に言う。しかし柳田、再びスマホを出して、とある画像を表示する。それは中華店で、柳田と彼氏の翔太が仲睦まじくご飯を『あ~ん』させあってるシーンだった。
「あ、違った。これじゃない」
あわてて柳田はスマホの画面を指でスワイプさせ、別の画像をだす。
内容は中華店のメニューであった。
エミリカとユキユキ、そしてピノはメニューを覗き見る。
「・・・イタリアンっぽいメニューは無いわね」
「でもケーキとかはあるですよ?パフェだってありますぅ」
「デザートはまあ、置いてる店は割とあるよ・・・けど、イタリアンはないね」
「ですよね?なので謎なんですよ・・・なんで翔太は急にお店を変えたのか・・・」
「謎ねぇ」「謎ですぅ」「謎だね」「謎ですよね」
エミリカ、ユキユキ、ピノ、柳田はそろって首を傾げる。
「ねえ、ちなみに柳田さん。彼氏さんの頼んだメニューはなんだったのかしら?」
「え?翔太のですか?ええと・・・マーボーカレーと、ホイコーロー、それと肉団子の甘酢あんかけ・・・あとチャーハンとゴマ団子です」
「あら、結構しっかりガッツリ食べるのね?彼氏さん」
「ええ、サッカー部なもので、それにキャプテンで、フォワードで、エースで、人一倍動くので、しっかり食べるんです!なので太らず、筋肉になって、とてもがっしりしてるんですよ!抱きつくと、胸板が厚くって~」
「まあ!まあまあまあ!そうなのね!でっ、でっ?匂いとかどうなの?あと、感触とか詳しく!」
「お姉さま!?はしたないですよっ!それに匂うならユキユキの柔肌に抱き着いた方が絶対良い匂いしますからッ!」
「はいはい、話を戻しますね。で、彼氏さんのメニューを聞くもイタリアンの一文字もかすってないですね・・・というか、マーボーカレーにチャーハンって・・・飯モノが二つもあるじゃないですか・・・すごい食欲だ・・・ボクならもどしちゃいそう・・・」
「ええ、私も見てて不安になったわ・・・けど、翔太ってば、すごく美味しそうに食べていたの。特にチャーハンの評判がすごく良いみたいで・・・」
「そういえば、柳田さんの頼んだメニューってラーメンと餃子とチャーハンだったよね?」
「ええ、翔太があまりにチャーハンを勧めてくるものだから、セットで頼んでみたの。私はラーメンと餃子だけでよかったけれど」
「で、味はどうだったのかしら?柳田さん。ウチ、なんだかそのチャーハンに興味が出てきたわ!」
料理のメニューとなると、恋バナと同等に気になるエミリカ。
「ええ、評判通りに美味しい味でした。柔らかな味・・・というか、シンプルなんですけど、あまり油っこくないんです。なのに、お米はパラッとしてて、それでいて香ばしいネギとチャーシューが食欲をそそるんです。適度に卵が混ざっているのも良かったですね」
「へぇ、聞けば普通のチャーハンのようだけど・・・評判になるくらいだもの・・・何か秘訣がありそうね!」
エミリカの目がギラリと光る。もはや興味は料理に逸れていた。
「ええ!おススメです。ぜひ行って見て下さい。彼氏の翔太もおススメしてました!何より、『ここのお店のチャーハンを私に勧めたかった』みたいなんです!」
「へぇ~、そうなのね~」
「ブフォッ!」
突如聞こえた異質な声。エミリカとユキユキ、ピノと柳田は声のした方を向く。
そこには宇野一弘がいた。彼はこちらに背を向け、出来立てのチンジャオロースを皿に移していた。何事もなかったかのうように・・・
それを怪しみ、料理部の女子三人は宇野に近付き、彼の顔を横から覗き見る・・・そして気付く。
「あ、宇野一弘・・・この顔は」
「何か分かった時の顔ですぅ~」
「ほんと、顔に出やすいですね」
三人に言われ、宇野は頬を赤く染めた。
「さて、な・・・それより、料理ができたぞ?これでいいのか?」
「あら、良い色合いじゃない。おいしそう・・・って話を反らさないでもらえるかしら?」
「そうですよぅ~、さっきの変な声は変態の笑い声ですよねぇ?きったない笑い声ね。本当、笑い声まで変態ね」
「あの、宇野さん・・・笑った拍子に・・・唾とか飛んでないですよね?」
「・・・それを防ごうとして腕で口を覆ったら変な声になったんだ・・・料理は無事だ・・・安心しろ」
料理部のやり取りの輪に、柳田が割って入る。
「あ、あの。本当に分かったんですか?翔太がなんでイタリア料理から中華料理のお店に変更したのか・・・その理由を!?」
待ち焦がれた答えを教えてくれるものだと柳田は目を輝かせる。それに対し、宇野は澄まして言う。
「ああ、分かった。というか、ちょっと頭を捻れば分かると思うが?ヒントは彼氏が何を目的に中華店に行ったかだ」
答えを出さず、ヒントを出すという。宇野のやや斜に構えた態度に、エミリカは少しムッとして、宇野の脇腹を肘で小突く。
「もう、柳田さんは心底不安で相談に来たのだから、そういう答え方はどうかと思うわよ?」
「そうですぅ、お姉さまの言う通り。分かったならさっさと答えを教えなさい!この変態!」
二人に詰め寄られ、宇野はやれやれと首を振る。
「あのなぁ・・・柳田は彼氏の考えていることが分からなくて、それが心配で相談に来ているんだろう?だったら、いきなり答えに着かせるんじゃなく、彼氏の考えを追ってたどり着かせるのが大事だと思うのだが?彼氏のこと、何でも分かるっていう自負があるんだろ?」
「は、はい!そうですよね・・・彼氏の、翔太の気持ちを少しでも理解しないと・・・ですよね!お願いします!」
真面目に鞭撻を頼む柳田。それにエミリカは感動する。
「そ、そうだったのね・・・全ては悩める乙女の為に・・・さすが宇野一弘・・・破天荒生徒四天王の『何でも屋』だわ・・・ウチが見込んだ男ね!」
「ふ、ふん。少しは変態のこと、見直してあげてもいいんだからねッ!」
二人の手の平返しに、宇野は胸を張って、鼻を鳴らす。
それを見たピノは思った。宇野さんはこの状況をただ楽しんでいるだけだと。
この中でピノだけが的を射ているのだった。
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