ご当知料理部探偵団 事件3日目~昼食前~
終礼の鐘が四時間目の授業の終わりを告げる。
エミリカはカバンから布に包まれた弁当箱を手に、いそいそと廊下へ出る。
向かうは2年4組、宇野一弘のいる教室である。
廊下を歩く途中、渡り廊下へと出る通用口を横目に見る。そこに、宇野らしき人物の影はなく、エミリカはまっすぐ廊下を突き進んだ。
四組に着くと、教室内を見渡す。やはり、そこに彼の姿はなかった。だが、一人の女子がエミリカに気付くと、すぐに寄って来る。
昨日、宇野の行き先を教えてくれた、ありさである。
「よっす、エミリカ。宇野のこと、聞きにきたんだね?」
「ええ、そうよ。ありさ、昨日にメールした通りのことを教えてほしいの」
「うん、まあ、いいけど。オホン、取りあえず、今日の午前中、つまり今までの授業で2年4組に移動教室はないわ」
「そうなのね。それで、午前中に宇野一弘は教室の外に出た?」
「うん、一度は出てるわね。男子の・・・ええと、ふみや君、いるでしょ?あのイケメンの。彼とトイレに行ってすぐに戻ってきたわ。五分もないくらいよ」
「そう・・・それで、他に何かしてなかったかしら?」
「う~ん、特には・・・ないな~。授業もしっかり受けてたし、休み時間は何かノートに書いてるくらいだったよ?何かを持ち出すということも無かった」
「そう・・・なのね。ありがとう、ありさ。この恩は必ず美味しい形で返すわ」
「ふふ、楽しみにしてるからね?あと、なんでこんなこと調べさせたか後で教えなさいよ?」
「ええ、必ず。面白い話ではないかもだけど」
「いいのよ、どんな情報だって、どこかで繋がってるものだから。新聞部として、小さな情報でも集めておきたいの。『情報屋』の後輩としてね」
「そうなのね。それじゃあ、ありさ、先を急ぐから」
「がんばれ~、エミリカ~」
エミリカは小さく手を振って、教室を離れる。
そして、廊下を歩きつつ、スマートフォンを取り出した。
「・・・もしもし、エミリカよ。月、そっちはどう?」
『・・・・・・目標確認・・・宇野一弘・・・その棟の三階にて発見』
通話相手は料理部部員、一年生の月であった。月は屋上にて望遠鏡を手に目標(宇野)の姿を追い続けていた。
「三階ね・・・三年生がいる棟じゃないの・・・これは、グッドマンの予想が当たったかもしれないわね。次に捨てるとしたらどこなのか・・・」
『・・・・・・お弁当を・・・関係者に見つからず・・・捨てられる場所?』
「ええ、そうよ。関係者、というより、我々、かしらね?」
通話しながら歩くエミリカの後ろから声がかかる。
「エミリカ部長!待ってください」
呼び止めたのは一年生のピノであった。ピノは小走りで近付いてくる。
「お待たせしました。ナスビさんとユキユキは廊下から出て一般棟の外です」
「あら、報告ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」
「は、はい!あの、これから、宇野さんを誘いに行くのですよね?」
「ええ、そうよ。ただ、行き先はちょっと変わった場所かもしれないけれど」
「そうなのです?どちらに・・・」
「三階の・・・男子トイレよ、ついてきなさい!」
言うと同時に階段へと入り、一階から三階へ、一段飛ばしで上っていく。
その最中、ピノはエミリカに問う。
「エミリカ部長、宇野さんがこの時間にご自分のお弁当を捨てるというのは本当なのですか?」
「さて、どうかしらね・・・宇野一弘は、今日も弁当を捨てる。というのはグッドマンの予測だけど、それが本当なら、どの時間、どこで捨てるか、それが問題になるわ・・・一昨日の教室に捨てた件は衝動的だったのかもだけれど、昨日は人目のない所を選んでいた・・・とすれば、今日は更に警戒するかもね」
足を止めることなく、重い口調で続ける。
「できれば宇野一弘を見張っておきたいところだけど、ウチらも授業があるし、休憩時間には移動教室がある・・・だからこそ、ありさにお願いしたの。それでも、抜けは出てくると思うわ。だから、今日の朝に宇野一弘と接触を図ったの」
「メールにあった、朝にお弁当を交換したっていう、あの話ですか?」
「ええ、そうよ。その際に感想を聞かせて、って宇野一弘にお願いしたの」
「そうなんですか、それなら食べてくれるかもですね・・・けど、昼休憩までに交換したおかずごと捨ててしまう可能性は?」
「さすがに無いと思うわ。三日連続でそんなことがあれば、怪しまれるのは誰かしら?今日の2年4組は移動教室もないみたいだし、衆目のある中でお弁当箱を出すなんてこと、できないでしょう?」
「早弁の時くらいですね」
「ありさからの情報だと、早弁をしたという情報はなかったわ」
「と、すれば、登校中か、昼休憩の今か・・・」
「登校中の線も無いわ、何故なら一緒に登校してきたもの」
「え、二人で登校ですか!?まるで恋人みたいじゃないですか!」
「ははは」
ピノは顔を真っ赤にして驚くも、エミリカは乾いた笑いでごまかし、話を続ける。
「まぁ、宇野一弘はまっすぐ教室までカバンを持って言ってたわ・・・」
「と、なるとやはり今ですね・・・ですが、ここまで宇野さんがお弁当を捨てた張本人として話を進めていますが、他人という可能性もありますよね?」
「それを今から確認しに行くのよっと・・・三階、到着。さすがに一気に上ると、ちと疲れるわね。月、どう?」
『・・・・・・目標、トイレにて潜伏中・・・動き・・・未だ無し』
「オッケー、やっぱり、男子トイレね」
「やっぱり、というと、エミリカ部長はここまで想定済みだったのですか?」
「ええ、まあね。宇野一弘が警戒する相手といえば、クラスメイトやその他の人物もでしょう。けどピノ、彼が一番、警戒するであろう相手は誰だと思う?」
「そうですね・・・昨日、遭遇したエミリカ部長でしょうね」
「ええ、昨日の焼却炉での遭遇を、偶然と捉えてなければ、宇野一弘はウチや料理部を回避する場所を選ぶと思うの」
「それが、男子トイレなのです?でもなんで?」
「それはね、ピノ、料理部が女子ばかりだからよ!」
「・・・ボクがいますよね?」
ピノは眉間にシワを寄せ、ジトー、とエミリカを見る。と、その時である。通話状態を維持していたエミリカのスマートフォンから月の声がした。
『動き確認・・・手洗い中・・・出てくる!』
「了解!」
返事をすると同時に、宇野一弘が出てくる。それをエミリカは両腕を組んで待ち構え、彼に声をかける。
「あら、また会ったわね、宇野一弘。よければ一緒にお弁当でもどうかしら?」
それを宇野は確認し、一瞬バツの悪そうな顔をするも、直ぐに表情を変え、すまし顔で返事する。
「悪いが今から依頼があってな・・・急用があるんだ」
「そう。じゃあ、その手に持ってるお弁当箱の中身を見せて?」
「言っただろ?今は急いでいるんだと」
「ピノッ!」
「はい!」
言うや否やピノは急いで男子トイレに入り、ものの数秒で出てくる。
「ありました!お弁当のおかずらしき残飯が、ゴミ箱の底に埋もれて!」
ピノの報告を受け、エミリカは表情を厳しくして宇野に目線を送る。
「さて、どういうことか話してもらいましょうか?でなければ、今ここで、お弁当の中身が捨てられている件について、大騒ぎしてもよろしいのだけれど?」
脅しのような文句に、宇野は苦笑いをする。
「フッ・・・その言い回し、それに立ち振る舞い、あんたの姉である麗華さんにそっくりだな」
「そりゃあ、憧れの存在だからね。で、どうなの?お付き合いいただけるのかしら?」
エミリカは静かなトーンで、されど意中の相手を追い詰めんと圧をかける。
本気である、とその場にいれば誰もが分かる真剣な表情・・・宇野は諦めて肩をすくめた。
「分かった・・・ただし、話をするなら場所を移そう。ここでは通行人に迷惑だろう」
「ええ、いいわよ。じゃあ、料理部の部室でどうかしら?」
「また、そこか・・・はぁ、ここで騒がれることを天秤にかければ致し方なしだな・・・いいだろう」
「聞き分けいいわね。それじゃあ、行きましょう」
エミリカを先頭に、宇野、ピノと続く。
部室へ向かう最中、彼女は心の中でグッドマンが残した言葉を思い出す。
『確証がなければ彼は上手くはぐらかすだろう』
『可能性の穴を突いて依頼の解決を得意とするなら、その穴を掻い潜るのも得意なのだよ』
その言葉を念頭に、エミリカは宇野を連れ、まっすぐ部室へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます