燃えてヒーロー


 ゴミ収集所にて宇野、麗華、立石、ゴリ松が並んで立つ。その四人を背に、消防士である野火がもう一人の消防士、火災現場であったゴミ収集所で作業する隊員に手を振って声をかける。


「おーい、炎谷!炎谷烈火(えんたにれっか)ちょっといいか?」


 もう冗談だろお前らの名前。宇野、麗華、立石、ゴリ松の思考がシンクロした。


「なんすか?先輩」

「ちょっと、出火の原因となったゴミ袋を見せて欲しいんだけど?」

「あっ、いいっすよ!もう安全は確認できてるんで、こっちです!」


 烈火は軽く言い、みなゴミ収集所へと近づく。


「出火の原因と思われるゴミ袋は三つあるっすね、ちょっと漁ってみるっす」


 そう言い、烈火はトングを用いて袋を触る。半透明の袋は三ついずれも上半分が燃えていたため下半分の袋を残し中身があふれ出ていた。ただ、いずれも黒く焦げて炭化しているため、元が何であったかよく見ないと判断はし辛い。


「とりあえず、袋の一つ目はこれっすね。この紙の形状からして、段ボールじゃないかと思うっす。下の方にも段ボールの切れ端が見えるし・・・他にもガラスか何かの破片っすね。おそらく展示か何かが破損して捨てたんでしょう」

「ガラスは燃えないゴミとして分別しろよ・・・」


 立石が何かお小言を言う。


「次の袋、二つ目はこれっす、この中は・・・なんでしょうかね?食べ物?」


 烈火がトングで上部の黒い塊をカサカサとのけ、かろうじて焼けていない部分を探し出す。それを見て麗華が答える。


「これは・・・かき揚げ?かしらね、玉ねぎ、ニンジン、大葉にゴボウ、が見えるわ。あと子エビね、それらを細かく刻んで、天ぷら粉をまぶして衣でまとめ、そのままカラッと揚げる食べ物よ。いろんな食材がサクサクと歯ごたえよく、とても美味しいの」


 麗華の説明に宇野はなんだか、かき揚げが食べたくなってきた。

 この食べ物の説明の仕方、エミリカによく似ているものだった。なるほど姉妹なんだなと、宇野は実感できた。


「その他は・・・何もついてない天かすがたくさん・・・あと麺が捨ててあるっぽいわね・・・そば?」

「そっすね、きっと天そばでも捨てたんすよ・・・次っす。これで三つめ、袋の中は・・・金属薬品っすね。マグネシウムとかナトリウムとか手軽に買えるものっす。普通、モノって燃えたら真っ黒に焦げてるんすけど、これはどれも真っ白で粉々になってたんで分かったんすわ」


「以前、化学薬品工場の消火活動に行った時、似たような燃えカスがあったな」

「そっすね先輩、それでピンときたんす。けどこれ、文化祭のなんの展示で使ったんでしょうね?」

「たぶん、それは化学部のものだろう」


 理科教師のゴリ松が言う。


「その部の顧問ではないが、理科教師として以前にアドバイスをしたことがある・・・」

「というか、化学部はなんの実験をしたんで?」


 立石が聞き、ゴリ松は答える。


「ああ、火に色を付けて花火を作ろうとしたみたいだ。炎色反応でな」

「炎色反応?なんだっけそれ?」


 麗華が宇野に聞く。


「高校生ですよね?麗華さん・・・炎色反応、特定の金属や塩類を燃やす事で火の色が変わったり、発光したりすることです」

「あぁ~、なんか中学の実験でやったわね」


「花火とかで色が変わるでしょ?あれは炎色反応の応用です」

「なるほどね~」


 さて、これで三つの袋を見たわけであるが、宇野は果たして出火原因が分かったのであろうか?


「・・・ぜんぜん分からん」


 分からなかった。



 ここで宇野は自身の情報を整理する。


 出火原因と思わしきゴミ袋は三つ。



 一つは段ボールとガラスの破片といった破損した展示物。


 もう一つはかき揚げや天かす、そばといった残飯。


 最後に、マグネシウムやナトリウムといった実験用の金属薬品。



 この中で今回の出火を引き起こしたものは・・・

 宇野は黙して考える。そんな彼を置いて、立石が麗華に問う。


「で、どれが出火原因なんだ?」

「さっぱりよッ!」

「なんだそりゃ!」

「ウチはね・・・けど、この何でも屋なら答えに導いてくれるわ」

「何でも屋・・・なぁ」


 立石がチラリと宇野を見る。しかし宇野は手にアゴを置いて黙したままで何も話そうとしない。


「なんだか止まってしまってるんだが?」

「そうねッ!」

「そうね・・・って、はぁ、このままではラチが明かないぞ。というか、どう見ても化学部の金属薬品が怪しいだろ。きっと燃焼しきっていない状態で捨てたに違いない・・・」

「そうねッ!それっぽいわねッ!」


 麗華は指をパチンと鳴らして同意する。しかし、宇野は小さく首を横に振った。

 立石はそんな二人の反応を見て眉をひそめ、ゴリ松に話を振る。


「・・・理科教師であるゴリ松先生はどう思う?」

「ん?ああ、そうだな・・・それもある・・・だが、ガラス片と段ボールも気になるな・・・ガラスが虫眼鏡のように光を収束させて紙である段ボールを焼いた可能性もある・・・収斂発火というやつだ」

「それもきっとあるわねッ!」


 さらに指をパチンパチンと両手で鳴らす麗華。そしてまたも首を横に振る宇野。

 そんな二人の反応に立石はため息を吐く。


「麗華・・・お前、少し黙っていろ」

「そうねッ!」


「それと、宇野、言いたいことあるなら黙ってないで言え」

「・・・・・・」


 麗華は胸を張ったまま堂々と黙り。宇野は終始黙したままである。その姿に消防士二人は苦笑する。


「ははっ、まぁここからは消防士の仕事なんで、後は任せて下さい」

「そっすね、ある程度、出火原因っぽいの見つけたんで、後はその原因を持ってきた生徒に一人一人聞き込みするだけっす」


 ここからはお役御免、と言い渡されたようなものである。

 麗華はここまでか・・・と肩を落としかけた時であった。

 宇野が顔を上げ、とうとう口を開く。


「麗華さん、確認したいことがあるのでとある人物を、二人呼んできてもらっていいですか?」

「え、ええ、分かったの?」


「いえ、全て分かったとはいきませんが、確認したいことがあるのです」

「そうなのねッ!で、誰を呼んで来たらいいの?」


「この・・・出火原因を持ち込んだ人物と、その出火原因を証明できる人物です」

「それは・・・いったい?」

「はい。かき揚げを屋台で出店し、ゴミ出しをした人物・・・それとエミリカを呼んできて下さい!」

「・・・分かったわ!」


 言うが否や、麗華は駆けだす。


「お、おい!勝手な事をっ」

 立石が止めるも疾風のように去る麗華には時すでに遅かった。


 さて、と宇野が教師の立石、ゴリ松、そして消防士の野火、烈火と向き合う。


「ここからは消去法で可能性を導いていきます。この現状でいくつかの可能性を挙げて、少しでも矛盾点があれば取り除き、一番有り得て納得のいく可能性を選出します・・・よろしければお付き合い下さい」



 粛々と言い、そして悠然に振る舞う宇野。彼の年齢とはかけ離れた物言いと物腰にその場の大人たちは飲み込まれつつあった。


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