勝負に勝って、試合に負ける!
事件現場(教室)の外、宇野はエミリカとナスビ二人に向かって対峙していた。
恨めしい顔で・・・
「・・・あんたら、最初からこのつもりだっただろ?」
「えぇ~?なんのことかしら?」
「せやせや、なんのことかしらん♪」
エミリカとナスビは頬に人差し指を当て、とぼける。
エミリカの反対の手には、謎を解き明かした賞品として、『くまの松っさん』キーホルダーが握られていた。
くまの松っさんとは、くまのように見える大きなおっさんである。
それを宇野は恨めしく見る。エミリカはその顔に、苦笑いをした。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ちょっとしたジョーダンよ、おちゃっぴぃってヤツ。そんなにくまの松っさんが欲しかったのね?あげるわよ、はい」
「いらねーよっ!誰だよ松っさんって!?ただのおっさんキーホルダーなんか欲しくないよっ!推理勝負に妨害なんてありかよっ!」
宇野は激しく怒りをあらわにした。しかしナスビは、
「妨害の有無なんてルール決めてないしな~。それに、そっちは推理もんに分があるからニ体一のハンデを受け入れたんやろ?」
「物理的なハンデなんて思いもしねえよっ!」
「もう、女々しいわね。勝利条件も『高らかに真相を明けた者が勝利』って決めてたじゃない。ね?ナスビ~」
「な?エミリン~」
「なっ!・・・やっぱり初めから妨害するつもりだったのか・・・」
宇野は怒りを通り越して、呆れかえってしまう。
確かに、宇野は女子が力ずくで妨害を実行する等と露ほども思っていなかった。というか推理勝負で物理的な妨害なんて誰が予測できようか。
知性の勝負に物理を差し込む相手に、宇野はこれ以上の討論は無駄だと判断。
「・・・こんな勝負、無効だ。こっちは負けたつもりはないし、料理部の見学には行かないからな」
そう言い残し、肩を落として、その場を去ろうとする。
その背中をエミリカとナスビは慌てて止める。
「わ~!だから、ジョーダンだってばさ!」
「そない拗ねんといて~なっ!女子のお茶目な戯れやんけ~」
宇野は肩越しに二人をジロリと見る。
「・・・じゃあ、食券は?」
「ちゃんとあげるわよ~。『どちらかが先に謎を解く』って時点でウチらの完敗だもの」
「・・・そうかっ!」
「なんやじぶん、しおれた花がパッと咲いたような変わりっぷりやな?そんな食券が欲しいんかいな?」
「それは家計が・・・」
「家計?」
「いや、なんでもない。ここの食堂は学食にしては美味いからな・・・冷えた弁当なんかより、温かくて美味いのを食べようと思ったら食堂が一番なんだよ」
「せやったら料理部に来ればええやん?乙女の手作り料理に勝るごちそうはないで?」
「・・・勧誘か?部費のためにだろ」
「あら、さすがは何でも屋、察しがええなぁ~」
「前にそんな話を聞いていたからな」
「・・・ウチは、それだけじゃないんだけどなぁ・・・特典としてみんなで作った手料理をほぼ毎日食べることができるわよ?」
「毎日・・・いや、残念ながら必要ない。依頼をこなせば食券が手に入るしな」
「いやいや、一度料理してみ~な?また違った美味しさってのがあるねんて」
「あんたたちの中ではそうなんだろう。それより、食券を『返して』もらおうか?」
二人の話を流す宇野。エミリカは頬を膨らませて言う。
「返すわよっ!けど、ここにないのっ!」
「じゃあ、どこに?」
「料理部が調理をしている調理室にあるわっ!」
「は?・・・それって・・・まさかっ!」
「ということで料理部に直行や~」
「なっ、おいっ!」
宇野の両手はエミリカとナスビに力強く握りしめられ、引っ張られる。
「ほら、両手に花よっ、喜んでエスコートされなさいっ!」
「おい、こら、離せっ!アイダダダダァッ、なにこの力!?特にナスビっ!これ、人間の力か!?」
「誰がゴリラやねんっ!」
「ヤメロッ!引っ張りつつ、腕をぞうきんみたいに絞るなっ!イダァーッ、ゴリラパワー、禁ジラレタ・チカラッ!」
こうして、宇野は可憐な二人の乙女に手を引かれ、料理部へと誘われたのである。
完
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