~ギリギリchop~
「とりあえず、明日の午後までは黙っていてくれ」
ゴリ松にそう口止めされた宇野、エミリカ、ユキユキはかき氷屋を後にした。
様々な衣装を着た生徒や父兄が行き交う賑やかな廊下を三人は歩いていた。
「さて、それじゃあ、さっそく料理部に来てもらおうかしら?」
生き生きとした目で言うエミリカ。それにユキユキは不満そうな目をする。
宇野は一つため息をして、
「今日行くとは言っていないが?」
と、とぼける。
「なによそれっ!」
今度はエミリカが不満あふれる顔をし、ユキユキが目を輝かせる。
「ウチは、料理部の出し物を見て欲しいのよ!」
エミリカは宇野に顔を近づける。しかし宇野は首を傾げる。
「今日とは聞いていない。それにこっちは忙しい身なんでな、先約があるんだ。じゃあな、気が向いたら行くとするよ、いつか」
言って、宇野は手をひらひら振り、エミリカとユキユキに背を向けた。
「むぅ~」
エミリカは大きく両頬を膨らませ、宇野の背を睨みつけていた。
「なんでっ・・・!?」
宇野は目を見張った。
生徒会長室に入り、その会長が座るはずの椅子にはエミリカが座っていたからだ。
「待っていたわよ、宇野一弘」
少し声を落とし、気取って言うエミリカ。
「・・・どういうことだ?グッドマン生徒会長」
宇野は来客用の椅子に座るT=グッドマンを見る。
「いや、なに。色々と聞かせてもらったよ?フンバルンバ宇野」
グッドマンはメガネを指先で整え、立ち上がる。
「陸上部は白だった。レシートの矛盾は生徒の皆に驚いてもらう為に仕組んだトリックだった。それを黙っていたのは、種がバレるのを極力抑えたかったからだそうな・・・それと向こうにはもう一つ狙いがあったようでね」
ため息を一つ付いて、グッドマンは続ける。
「さっき、ゴリ松から連絡があったんだ。どうやら生徒会がちゃんと仕事をしてるか図るためでもあったようだ。見事、仕事を果たしてくれたね、何でも屋。おかげで会長として体裁を保つことができたよ」
慰労の言葉の後に食券を四枚取り出すグッドマン。しかしメガネの内にあるその目は怪しく光っていた。
「だが聞けば、今回の活躍はほとんどがエミリカ君のものだというじゃないか」
グッドマンは何か面白いモノを見つけたかのように、含みを持たせた言い回しをする。それに宇野はイヤな予感を覚える。付き合いの長さから分かる勘だ。
「まぁ・・・助かった部分は・・・ある・・・」
言葉を選ぼうとする慎重さからか、歯切れの悪い宇野。
「うむ、そこで、エミリカ君から打診されてな。報酬はエミリカ君にも渡す権利があるべきだと」
「へ、へぇ~、そうですねぇ・・・追加で・・・何枚か?」
「いや折半」
「そんなっ!」
悲痛な声を上げる宇野。そこにエミリカの高らかな笑い声が差し込む。
「お~っほっほっほ。当然の権利よねぇ~」
宇野はエミリカを睨む。
「・・・・・・なにが狙いだ!?」
気付けばエミリカはすでに二枚の食券を指先でつまんで、得意げにヒラヒラと振る。
「残念ね、宇野一弘!食券のZランチ、これは淡路産の玉ねぎをふんだんに使ったコロッケに、名古屋コーチンを使った鶏肉の磯辺揚げ贅沢セット・・・」
そして立ち上がり、ツカツカと宇野へ近付く。
「でも、祭中の今なら料理部でこれ以上に美味しいものが食べられるわよ?」
満面の笑みのエミリカ、対して苦悶の表情をする宇野。額には多量の発汗。
「・・・意趣返しのつもりか?」
辛く苦し気に言う宇野。
「あら、ウチの働きへの正当な報酬よ?」
「なに?そもそもそれを依頼されたのは・・・ア、痛っ、イタダァッ!」
そして突如、腹を抑える宇野ッ!それは腹痛ゥッ!下り龍ゥッ!
「うおおおおおおぉぉぉぉッ!」
雄叫びのような悲鳴を上げ、生徒会室を急ぎ出ていく宇野ォッ!
今にも『こんにちは』しそうな龍をケツの括約筋で抑え、全速力で走るに劣らない速さの競歩で進む宇野ォッ!
向かうはモチロン便所ォッ!当然ッ、洋式ィッ!
「うおおおおおおぉぉぉぉッ!」
吠える宇野ォッ!唸りを挙げる下腹部ゥッ!
原因はモチロンかき氷の食べ過ぎであるッ!
こうして、宇野は文化祭一日目の残り時間をトイレにて過ごし、『フンバルンバ宇野』という二つ名を不動のものとしたのである。
完!
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