2、山本 ましろ(2)

 その日の夜、私はすぐに奏太君に向けて手紙を書いた。自分でも思っていた以上に言葉がスラスラと湧き出てくる。


 頭の中で文字が飛び交う。


 それらを全部紙に写していく。どうすれば最後まで読んでくれるか。どうすれば彼の気持ちを動かすことができるか。ノートを写すのとは全く違う思考で文を綴っていく。

 

 出来上がった文章を読み返して、顔の辺りが熱くなるのを感じた。でもここに書かれているものに嘘偽りは一つとしてなかった、これで彼に私の気持ちが伝わらなかったのだとしたら、それはもう諦めがつく。


 次の日、試験の成績が発表された。私の成績はいつも通り。これに問題はなかった。しかし奏太君の成績は違っていた。柏木君が彼より上の成績になって、その分だけ奏太君の成績が落ちた。二年生になって三位をキープしていたというのに、そこから外れてしまった。それでも十分上位な方だ。でも奏太君が落ち込んでいるのは、火を見るより明らかだった。


 奏太君は放課後普段以上のスピードで帰り支度を済ませて教室を出て行ってしまった。待ってと呼び戻したかったが、彼にそんなことをしても無駄なのはわかっている。私は昨日書いた手紙をカバンの中から出すことがないまま、一人教室を出た。


 下駄箱に来て何となく奏太君の靴に目を向けると、下足がまだ下駄箱の中に入ったままだった。彼がこの校舎内のどこかにまだいることを示していた。私は手紙の横に付箋を貼って、柏木君の下駄箱の中に入れた。


『裏門のところにいます。良ければ来てください』


 手紙を読んで、奏太君が何かを少しでも感じてくれたらきっときてくれるはずだ。そう信じて私は裏門にて待った、しかしなかなか彼は来てくれない。そしてその日、私が奏太君と会うことはなかった。


 奏太君は来なかったが代わりに裏門には柏木君がやって来た。彼は私を見るなり私の髪の毛を掴んで私を校舎の壁に向かってぶん投げた。何も理解できない。私が何をしたというのだ。私はただ奏太君を待っていただけなのに。騒ぎを聞きつけて先生がすぐにやって来た。私には大した怪我はなかったが、怖くて仕方がなかった。

 

 翌日、柏木君は学校に来なかった。

 

 柏木君は停学処分を食らっていた。


 私が柏木君に暴力を振るわれた理由はわかっていない。現在先生がそれを調査中とのことだった。結局私の想いは奏太君には届いていない。


 頭の中で文字が飛び交う。


 飛び交っているだけで、それらは発信されなければ何の意味も持たない。

 

 奏太君。私はあなたのことが大好きです。

 あなたは私のことをどう思っていますか?


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