第十五話 歓迎会
「今から箱憑きを無事討伐出来た祝勝会と鴉羽くんと八雲くんの歓迎会を行いたいと思いまーす!」
元気よく音頭を取ったのは星乃だった。
あの後、天城と牛嶋も合流し、神堂自警団の6人はレストランのテラスに来ていた。日も沈み、すっかり薄暗くなっており、星の光や、ランタンの灯り、そして、6人が囲む鉄板から覗く火が辺りを照らしていた。彼らはここでバーベキューをしていた。
「先生も来れたら良かったのにねー」
「騎士としての任務があるから仕方ないさ」
天城は神堂が箱憑きの討伐任務で1週間程留守にする事を鴉羽達に伝えていた。レクターの件はついては敢えて話していない。
「でも、神堂先生ってこの学校の教師っすよね?そんなに出張してばっかで大丈夫なんすか?」
「あの人は臨時の科学教師で、この学校でも、どちらかと言うと高位騎士としての役割を求められているからね。ほらこの学校って帝国の中でも最大規模の学校じゃない?最新の設備が揃っているし、研究棟では新薬の開発なんかもやっているらしいし。つけ狙う連中も多いってわけ」
「確かに神堂先生が居れば、そういった連中も手は出せなさそうっすね」
八雲は今日初めて見た神堂の戦いを思い出して、うんうんと頷いていた。実際、神堂が着任してからこの学校内で事件は1つも起きていない。それだけ神堂の実力は帝国中に轟いていた。
「しかし、これで鴉羽と八雲も正式に神堂自警団の一員か。部長として、改めて歓迎するよ」
天城は歓迎の印にと鴉羽と八雲の皿に焼けた肉を大量に乗せた。
お返しに八雲が鉄板に残っていた野菜を天城の皿に大量に乗せる。肉がないからその代わりと言うことだろうが、八雲の厚意に天城は皿を見て複雑そうな顔をしていた。鴉羽は見なかったことにして、肉を食べた。
「ところで光太くん、君って彼女いるの?」
藤崎の突然の発言に鴉羽は思わずむせ返る。何故か星乃までむせ返っていた。
「い、いきなり何ですか…?」
「やっぱり仲間の事って色々知っておきたいじゃない?」
(それにしても、最初に聞く質問か?……)
鴉羽は咳き込みながらも、心の中でツッコんだ。
「え? だったら茜先輩! 何で俺には聞かないんすか?」
藤崎の発言に八雲が物申した。
「ええと…一真くんは聞かなくても何となく……」
「うわ!先輩酷いっす! 確かに鴉羽先輩程イケメンじゃないけど、それでも結構かっこいいとか言われるんすよ!まあ彼女は居ないんですけど…」
落ち込み肉をやけ食いする八雲に藤崎が申し訳なさそうに笑っていた。
「そ、それで鴉羽くんは彼女居るんですか!?」
八雲が割り込み、話が曖昧になっていたのを引き戻したのは何と星乃だった。
「い、いや残念ながら彼女はいないよ。そもそも自分が住んでた村に同世代の人が住んでいなかった」
「本当に…?」
頷く鴉羽を見て、ホッとする星乃。その様子を藤崎がニヤニヤとしながら見ていた。
その後もしばらく楽しいバーベキューで盛り上がり、皆が程よくお腹を満たしたところで終了となった。
そして、天城の提案で、寮の地下にある卓球場に向かうことにした。
「この前の勝負の決着をつけるとするか!鴉羽!」
「あの時は一応決着は着いた筈ですけどね。天城先輩!」
食後の運動がてらに軽く遊ぼうとの事だったが、天城と鴉羽は6人以外誰もいない卓球場で本気の打ち合いをしていた。
「それにしても、ここはいつもガラガラね…」
「まあ僕たち寮生はここにいつも寝泊まりしているからね。わざわざ特別に卓球をしようとはならないんじゃないかな…それに今日は……」
近くの椅子に座って休んでいた藤崎と牛嶋の元にピンポン球が転がってくる。
「3ー8です」
卓球台横で試合を見ていた星乃が宣言する。
「天城先輩ってもしかして卓球苦手っすか?」
同じく横で見ていた八雲がぼろ負けしている天城を煽った。
「ぐう… 球が軽くて力加減が難しいんだよ!」
そう言った矢先、天城の打ち返した球がふわりと打ち上がった。完全に甘い球を、すかさず鴉羽が天城と逆方向にスマッシュを決めた。しかし、気づいた時にはその球は鴉羽のコートにあった。
「4、4ー8です」
逆方向に打たれた事で振り遅れたにも関わらず、確実に点数が入ると思われた球を天城は打ち返したのだった。
「せ、先輩… それはズルじゃないですか?」
鴉羽が呆れたような顔で天城を見る。他の後輩2人も同様だった。
天城の手には右手にラケット、そして左手に伸びた槍があった。槍を真後ろに伸ばし、逆方向の球を柄で打ち返したのだった。
「こ、これが箱人としての戦いだからな……」
やらかした自覚はあるのだろうが、やってしまったものは仕方ないと言わんばかりに、天城は開き直った。箱の力を使い、続く試合も天城が制した。
流石に分が悪いと思ったか、鴉羽も突然箱を出す。
ー来い!『黒鳳蝶』
鴉羽は黒鳳蝶を10体程召喚し、台上を飛び回らせた。
「もう容赦はしませんよ。天城先輩!」
鴉羽の強烈なサーブを何とか打ち返す天城。しかし、球は再びふわりと打ち上がった。先程と同じく鴉羽がスマッシュを打ち、天城は槍を伸ばし対処しようといた。しかし、槍が届く直前、黒鳳蝶が球に重なった。槍が当たり蝶は消滅したが、そこに球はなかった。
コツンコツンという音と共に球は天城のコート中央に転がっていた。鴉羽は黒鳳蝶の空間を繋げて、コート端の球をコート中央にワープさせたのだった。
「なっ…!」
「9ー5です……」
結局、あちこちワープする球に天城は対処出来ず、卓球勝負は5ー11で鴉羽の勝利で戦いの幕を閉じたのだった。
「ええと、天城先輩…何かすみません」
「いいんだ…鴉羽。ズルした挙句、無様に敗北した俺が悪いんだ……」
意気消沈する天城を牛嶋が引きずる形で6人は卓球場を後にしたのだった。その後、鴉羽達はそれぞれお風呂に入った。
既に時計の針は0時を回っているが、鴉羽達は天城の部屋に再び集結していた。
「とうとうこの時が来たな!」
「来たねー」
「来ましたね!」
「来たっすね!」
元気を取り戻した天城に、牛嶋、星乃、八雲が順番に続く。藤崎は眠そうな目をしており、鴉羽は何が何だか分からないという表情だった。
「茜がこういうのに興味無いのは知ってるが、鴉羽も知らないのか!?」
「俺の村は田舎だったので……」
そこには1本のゲームソフトがあり、映し出されたゲーム画面には、『大乱戦 ハコビトブラザーズ』と示されていた。
天城曰く『大乱戦 ハコビトブラザーズ』、通称ハコブラは昨日発売されたばかりの大人気シリーズのゲームで、架空の箱人達を闘わせる対戦ゲームらしく、最大8人まで同時に遊べるそうだ。
「寮の施設を利用している学生が少なかっただろ?あれは皆がこのゲームを引き篭もってやってたからだろう」
そんな馬鹿なと思った鴉羽であったが、確かに、バーベキューをしている時も、卓球の時も、温泉に入った時も、普段より人は少なかった。
唐突に始まった深夜のゲーム大会だったが、6人は任務の疲れを忘れ楽しんでいた。ゲーム慣れしていない藤崎と鴉羽が意外と上手かったり、剣で攻撃する度にトラップが撒かれるキャラが神堂に似てたりと、大いに盛り上がった。
午前2時頃には皆遊び疲れ、それぞれ天城の部屋で雑魚寝する形になっていた。
(たまにはこう言うのも悪くは無いな……)
再び来るであろう戦いに向けて、しばしの息抜きが出来た鴉羽は、既に眠気が限界だった為、その場で眠りについたのだった。
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