第十四話 不穏な兆し

〜箱人、技紹介のコーナー 〜


神堂邦彦しんどうくにひこ 箱:???の太刀


とどまる斬撃ざんげき

 その名の通り、斬撃をその場にとどめる技。神堂の刀での攻撃全てに止まる斬撃は発生する。光が僅かに反射するような透明な斬撃で視界で簡単に捉える事が出来ない。当然、それに触れると斬られる。神堂が能力を解除するか、より強力な攻撃を斬撃にぶつける事が出来れば、止まる斬撃は消える。


壱ノ型いちのかた 連牙れんが

 相手の上段、中段、下段に目にも止まらぬ3連撃を加える技。傍から見ると、刀の一振りで3箇所が同時に切れたように錯覚する。切った3箇所には止まる斬撃も発生する。

 

弍ノ型にのかた 飛燕翔ひえんしょう

 灰色の斬撃を飛ばす技。主に遠距離の相手に対して使う技で、斬撃は素早く真っ直ぐに飛ぶ。軌道を変える事は出来ないが、斬撃を途中でその場に静止させ、止まる斬撃へと変える事が可能である。


はい五月雨さみだれ

 『弍ノ型 飛燕翔』の派生技。飛ばした斬撃を止まる斬撃に当てる事で、細かく斬り、弾けさせる。細かく斬られた斬撃は相手に雨のように降り注ぐ。降り注いだ雨のような斬撃も止まる斬撃となるが、細かい為に強度はあまりなく、擦り傷をつける程度である。


伍ノ型ごのかた 無迅一閃むじんいっせん

 高速で相手に接近し、抜刀する居合い技。そのスピードは凄まじく、斬られた相手がいつ斬られたのか分からない程である。また、威力も凄まじく、神堂曰く、この技で斬れないものはない。



本編


 鴉羽達が学校の自警団拠点に戻ってきた頃にはすっかり日も暮れ始めていた。


 箱憑きを倒した後、先生はすぐに何処かに連絡を入れた。しばらくすると、帝国の騎士達が廃坑内に駆けつけてきて、神堂はその騎士達にその場を託したのだった。疲労した3人と息が全く切れていない神堂はサラの待つ車まで戻り、行きと同様にサラの運転で学校まで戻ってきたのだった。


 「あんまり、気を落としちゃ駄目よ。貴方達はよくやったわ。この人がおかしいだけよ!」


 「サラ、上司に向かってその言い草はないでしょ……」


 サラは3人に慰めの言葉をかけた後、箱憑き討伐の事後処理がある為、一足先に帰っていった。鴉羽達はサラに別れを告げ、拠点の中へと入る。


 「おかえりなさい!」


 中に居た星乃が笑顔で出迎えてくれた。


 「ただいま。星乃、留守番有難う」


 鴉羽達はエントランスのソファーに座り、ようやく一息つくことが出来たのだった。


 

 「……そんなことが…」


 星乃が神堂から戦いの概要を聞かされ、複雑な表情をした。星乃自身、カエルの箱憑きとの戦いで鴉羽に危ない所を救われていたので、他人事ではなかった。


 「でも…本当に無事で良かった…」


 「その通りだ。無事である事が重要だ。もし私が居なかったら等考える必要はない」


 星乃に続き、神堂が3人に向かって言った。そして、神堂は鴉羽と八雲にそれぞれカードを渡した。それは各々の自警団での身分証明を表すカードだった。神堂はやはり最初から2人を自警団に迎えるつもりだったようだ。


 「これから君達が戦っていくのは、常識の通用しない相手ばかりだ。使えるものは私であろうとも全て使い、経験は全て己の糧にするんだ!そうやって次から強くなっていけば良い…」


 「はい…有難うございます…!」


 神堂の叱咤激励に鴉羽達は感謝し、もっと強くなろうと心に誓ったのだった。


 「それじゃあ、お前達は疲れていることだし早めの解散としよう。祝勝会がてら、みんなで美味いものでも食べてくると良い。2人にもカードは渡したからタダなんだしな」


 「先生… 折角良いこと言ってくれたのに台無しです…」


 先生のタダ飯発言に若干呆れたが、お言葉に甘えて、鴉羽達は先に寮に帰ることにしたのだった。



 しばらくして、神堂のみとなった拠点に2人の人間が入ってきた。


 「やあ、天城達おかえり」


 そこにやってきたのは天城と牛嶋だった。天城達は先生からの連絡で鴉羽達の任務が無事達成された事は知っていたが、その表情は非常に暗かった。


 「その顔を見るに、悪い予感が当たってしまったかな?」


 「ええ、先生の想像通りです。調査した結果、レクターがこの付近に潜伏したのは間違いなさそうです」


 「…そうか……」


 レクターはパンドラ帝国に凶悪犯として指名手配されていた箱人だった。19人を殺害した殺人鬼で顔は割れているが、その能力については不明だった。殺された遺体が全て鈍器のようなもので潰されていた事以外に手がかりはなかった。


 「さらに協力者が居る可能性があります…」


 「なんだと…」


 天城達は、手配書を元に神堂が目星をつけていた町で聞き込みを行っていた。そこで、レクターによく似た人物と3人の青年達が一緒に行動している目撃情報を得たのだった。


 「どう思いますか? 先生…」


 「危険人物であるレクターと組むメリットがありそうなのは同じ凶悪犯ぐらいだが、青年のそれも3人もの凶悪犯がいるとの情報は騎士の方でも入ってない。もしかしたら、脅されて協力させられているかもしれない…」


 「確かにその可能性は高そうです」


 「しかし困った事になったね…私はSランクの箱憑きの討伐を任されていて、これからアメリカに向かわなくてはならない。恐らく1週間は帰ってこれないだろう…」


 神堂はソファーに背をもたせかけてため息をついた。


 「先生、だったら俺たちが……」


 「いや駄目だ、危険すぎる!この事は日本にいる騎士達に任せておけ。接触するにしても私が帰ってからでないと絶対に駄目だ!」


 神堂は天城の言葉を遮り、強く言った。


 「単純なパワーで言えば箱憑きの方が上だろうが、より賢く、より狡猾に能力を使えるのが箱人であり、人間だ。それに相手は殺人鬼、こちらも殺す覚悟が無ければ勝つ事は出来ない。お前達は人を殺す覚悟なんて持ち合わせていないし、持つ必要もない」


 神堂の言葉に、天城は自分や仲間が人を殺す事を想像し、ゾッとした感情を抱いた。


 「分かりました…」

 

 「有難う。別にお前達の力を疑っている訳ではない… ただ今回は流石に相手が悪いのでな…」


 「いえ、こちらこそ生意気言ってすみませんでした」


 天城は神堂の言葉に従い、戦闘を避ける事に了承した。


 「それじゃあ、お前達もそろそろ帰るといい。少し前に他の者達が帰っていったから合流すると良いだろう。私が出掛ける事も伝えておいてくれ」


 「分かりました、先生お疲れ様でした」


 天城と牛嶋は神堂に別れを告げ、寮に帰るのだった。


 (さてその通りになればいいが……)


 神堂の予想では、1週間の間、レクターが潜伏したまま行動しない可能性は限りなく薄かった。


 (打てる手は打っておくか……)


 神堂は何処かに電話を掛け要件を伝えた後に、拠点を出たのだった。



 

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