第十一話 "カマキリの箱憑き" 1
鴉羽は朝7時に起床した。今日は土曜日。本来であれば、学校が休みでゆっくり出来るところだが、神堂が課したテストがある。鴉羽は準備を済ませ、朝食をとりにレストランに向かった。偶然にも、同じく朝食を食べに来た天城と牛嶋に出会った。
「よお!鴉羽。よかったら俺たちと飯食わないか?」
「是非、ご一緒させて下さい」
3人はレストランに入り、料理を取って席に座った。牛嶋の皿には溢れんばかりの料理が乗せられている。
「鴉羽。今日の戦い、決して油断はするなよ」
「はい、分かっています」
「俺たちは神堂先生から別の任務を頼まれたんでな。救援には行けない、だから箱憑きを倒した事のあるお前が今回はリーダーとして引っ張ってやってくれ」
天城と牛嶋は神堂の頼みで、これからとある町の調査に出向くことになっていた。その為、天城は仲間の安全を鴉羽に託したのだった。
「もし危険を感じたら、同行する神堂先生にすぐ頼って全部先生に任せるようにね」
黙々と口を動かし、料理を食べていた牛嶋が突然口を挟んだ。
「神堂先生はやはり強いんですか?」
神堂が佇まいからして只者ではないのは分かっているが、鴉羽は率直な質問を2人にぶつけてみた。
「強いも何もあの人は別格だな。当代最強の騎士とも噂されている程だ」
「陽介でも手合わせして、全く歯が立たなかったもんね。鴉羽くんでも流石に厳しいんじゃないかな」
「先生に食い下がれるのはあの2人だけだったからな……」
そう言った天城はどこか遠い目をした。恐らくその2人とは、星乃優希の姉である星乃優美と、自警団から姿を消してしまったというもう1人の事だろう。
(神堂先生がそこまで言われる程凄い人だったとは……)
鴉羽は改めて神堂と出会えた幸運に感謝し、何かあった時は迷わず神堂を頼ろうと思った。
しばらくして3人は食事を済ませ、レストランから出た。
「それじゃあ鴉羽。テスト頑張れよ!」
「有難うございます。先輩方も任務頑張って下さい!」
互いの健闘を祈り、鴉羽は天城達と別れた。そして、一度部屋に戻り、その後自警団の拠点である学校の研究棟へと向かった。
研究棟に到着した鴉羽は、中にあるエレベーターにカードをかざした。昨日の帰りに、神堂から貰った名前も何も記されていない、所謂予備のカードだ。下に降りるとエントランスにはまだ誰も居なかった。神堂や八雲を待とうと、近くのソファーに座った時、奥のトレーニングルームから微かに声が聞こえた気がした。
(誰かいるのか?)
鴉羽は声の主を確かめようとトレーニングルームに向かった。
(集中、集中して……)
トレーニングルームでは星乃が訓練を行っていた。床に3本の矢を刺し、垂直に立て、力を込めていた。矢から水が吹き出し、水は矢を中心に徐々に人間の姿に形作られていった。手は鎌状になっており、それは鴉羽の黒人形と同じ姿であった。
(よし! 形はできたね。 後は動か…)
人形を歩かせようとした途端、水の維持が出来ず、3体の人形は崩れた。
(う〜ん、人間の形はやっぱり難しいな… それに私のは瞬間移動が出来るわけじゃないからあまり実用的ではないかな……)
「何やってるんだ?星乃さん」
「うわああああああ!?」
突然現れた鴉羽に星乃は驚き、思わず大きな声を上げた。その反応に声を掛けた鴉羽まで驚く。
「ご、ごめん…急に入ってきて」
「こ、こっちこそ、大きな声あげちゃってごめんなさい。その…もしかして見た?」
「え? 何を…」
「いや…だ、だったらいいの気にしないで!」
どうやら星乃が何かをしていたようだが。しかし、鴉羽は恥ずかしそうにしている星乃を見て、何となくそれを深掘りするのはやめようと思った。
「朝から元気っすね。先輩方」
2人して妙に慌てていると、スピーカーから八雲の声が聞こえてきた。
「おはよう、2人とも。打ち合わせをしたいからエントランスに戻ってきてもらえるかい?」
どうやら神堂先生もいるようだ。2人は先生の指示に従い、エントランスに戻った。そこには神堂と八雲、そして藤崎も居た。
「あれ? どうして茜先輩まで?」
「神堂先生に言われてね。2人をサポートさせてもらう事になったわ」
全員が集合したので、神堂が今日の任務の説明を行った。
「今回の任務はカマキリの箱憑きの討伐だ。戦闘は、鴉羽、八雲、藤崎の3名に行ってもらう。基本的に私は手を出さない。そして星乃には、私達が万が一現地ではぐれてしまった時の為に、ここに残り地図を使ってナビをしてもらう事になっている」
神堂の段取りをそれぞれが真剣に聞く。
「鴉羽。天城からも推薦があり、君を今回の任務のリーダーに任命する。2人は鴉羽の指示を聞くように。そして、互いの能力については実戦の時に把握してもらう。実戦で互いの能力を知り、連携をとる、君の判断力も見せてもらうよ」
神堂の言葉から鴉羽はのし掛かる責任に、緊張のあまり顔が少し強張った。
「大丈夫。私がついている限り万が一は絶対に起こさせない。自分を信じて強気に行くといい」
「そうっす!先輩がすげえ強いってことは他の先輩から聞きました!俺も頑張りますから!」
「そうね。私も全力でサポートするわ」
「有難うございます。必ず成功させます!」
鴉羽は一度深呼吸をし、心を落ち着け、頼もしい3人に感謝をした。打ち合わせが終わり、全員がエレベーターを使って外に出た。そこには一台の車とサラと名乗る1人の女性が居た。
「サラさんお久しぶりです。もしかして先生の…」
「雑用とでも言いたいのかなー、茜ちゃん?」
「い、いえ。まさかそんなことは…」
サラの圧力に藤崎は尻込みした。どうやら彼女は帝国の騎士で神堂の部下だそうだ。ここには鴉羽達を箱憑きの場所まで送る為に来ていた。
「そろそろ行こうか。サラ、運転を頼んだぞ」
サラは頷くと運転席に乗り、車を動かした。
「鴉羽くん気をつけてね。私はここで皆の無事を祈ってるから」
「有難う、星乃さん。行ってきます」
星乃に見送られ、5人を乗せた車はカマキリの箱憑きの場所へと出発したのだった。
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