第九話 天城陽介の力


 部屋に入ると中は結構広い長方形の空間であることが分かった。周囲の壁には丸い金属の板が複数埋め込まれていた。


 「その金属の板が、この空間で受けたダメージを肩代わりしてくれるのよ」


 天井に付いたスピーカーから藤崎の声が聞こえてきた。藤崎、牛嶋、星乃の3人は部屋の外からモニターで中の状況を確認していた。


 「全く、陽介のバトルジャンキーぶりにも呆れたものね」


 「いや、今回はそうとは言い切れないよ。茜だって星乃くんから話を聞いた時、鴉羽くんの能力に興味深々だったじゃないか」


 「確かに優希ちゃんの言う通りなら、かなりの戦力なってくれる筈だからね」


 「私は嘘は言ってませんよ。鴉羽くんは本当に凄いんですから!」


 何故か自分のことのように自信満々に話す星乃を横目に2人は再びモニターに目を移した。


 鴉羽はダメージを肩代わりしてくれると言う壁の金属に触れて確かめてみると、金属はかなり頑丈そうであった。


 「これは帝国のある高位騎士のバリア能力を応用して出来た仕組みらしい。だからこの中で有れば、多少派手に暴れても問題ない」


 天城が鴉羽にそう教えると、手に箱を形成した。強く握ると中から金色に光る槍が出てきたのだった。普通の槍とは違い、つかと呼ばれる棒状の部分の両端に刃が付いていた。


 「両刃槍とでも言うべきか、これが俺の武器だ。大五郎や茜の武器と違って普通で面白みはないかもしれないがな」


 その言葉をモニター越しに聞いていた、藤崎が思わず笑った。


 (よく言うわね陽介、貴方の武器が1番変わっているのに……)


 天城が槍を構えたのに合わせて、鴉羽も刀を構える。2人の手合わせが今始まった。

 

 「鴉羽!君から先に来い」


 「分かりました、天城先輩」


 ー来い! 『黒人形』


 鴉羽は6体の黒人形を召喚し、人形達を散開させながら天城に向かって突っ込んだ。天城は迎撃の為か、槍を薙ぎ払おうと振りかぶった。しかし、まだ1番近い人形でも5メートル以上間合いが離れている。


 (!? 槍が伸び……)


 薙ぎ払った瞬間、槍が伸びた。10メートル程の距離にいた鴉羽にまで槍が届いたのだった。鴉羽はぎりぎりのところで身を低くし、何とか攻撃を回避した。天城に近かった先頭の2体の人形は攻撃を喰らい消滅した。


 (伸縮自在な槍…これが天城先輩の能力か……)

 

 『双蛇そうじゃ刃刃はじん


 天城の腰に槍がコの字に巻きつき、両刃がどちらとも鴉羽を向いた。そして鴉羽目掛けて2つの刃が高速で伸びてきたのだった。


 (槍を折り曲げることも出来るのか!?)


 「くっ!」


 ミサイルかのように飛んでくる2つの刃の片方を回避し、もう片方を刀で何とか受け流した。軌道を外れた槍は壁を貫き、大きな穴を開けた。


 「何て出鱈目な射程と威力……」

 

 「よそ見してる暇はないぞ!鴉羽!」


 『双蛇・刃刃』

 

 天城はすぐさま槍を縮めると、再び2つの刃を伸ばし攻撃を仕掛けた。伸ばしたと同時に天城の目の前に1体の人形が飛んできていた。鴉羽は事前に2体の人形を動かしていた。互いの鎌を引っ掛け、片方の人形を天城目掛けてぶん投げさせていたのだ。


 鴉羽は天城のそばに投げられた人形から出て、一気に間合いを詰めて斬りかかる。天城は動揺することなく、飛ばした刃の軌道を変え、すぐ下の地面に突き刺した。そして、棒高跳びの要領で体を空中に浮かして、鴉羽の刀を回避した。

 

 「もう1体!?」


 空中に浮いた天城の元に別の人形が飛んできていた。鴉羽は最初に投げられた人形を介して、天城に向かって飛ぶ人形に移動し、斬りかかる。天城はすぐさま縮めた槍で応戦する。キーンと金属のぶつかり合うような鋭い音と共に2人は空中で激しく武器の打ち合いをした。


 天城は地面に着く直前、至近距離にいる鴉羽を槍で突いた。鴉羽は咄嗟に刀で防ぐが槍が伸び、勢いで、大きく後ろに吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされた状態で、鴉羽は右腕に巨大な腕を纏った。そしてその勢いのまま、後ろから走ってきた人形の中に入ったのだった。


 「!?」


 鴉羽の体は死角から天城の背後に迫っていた人形から出てきていた。


 『〜纏〜 八咫烏』


 巨大な鉤爪が不意をつかれた天城の背後を襲う。


 (くっ いつの間に背後を!?)

 

 『双蛇そうじゃ睨牢げいろう

 

 咄嗟に前方に飛び、鉤爪が当たるまでの僅かの時間を稼いだ天城は、槍の両端を伸ばして、柄の部分を自身の体の周りに巻き付けていった。槍でぐるぐる巻きにされた天城を鴉羽の鉤爪が切り裂いたのだった。


 天城の体は吹っ飛び、壁に強く激突して大きな穴を開けた。壁の破片がぱらぱらと床に落ちる。


 「あ、天城先輩大丈夫ですか!」


 鴉羽が駆けつけると、槍が縮み、包まれていた天城が姿を表す。


 「ふー 危なかった! 本来は相手を拘束する技なんだが、何とかダメージを抑えられた」


 壁の金属がダメージを肩代わりするとは言え、咄嗟の防御で確かに致命傷を与えたとは言えない手応えであったのを鴉羽も分かっていた。



 「はーい、そこまで。さっき連絡があって神堂先生がもうすぐ帰って来られるから手合わせは終わりよ」


 藤崎がスピーカーを通して2人に伝えた。どうやら手合わせはこれまでのようだ。外で見ていた3人が部屋の中に入って来た。


 「凄いよ、鴉羽くん!」


 星乃が興奮気味に鴉羽に駆け寄ってくる。牛嶋は壁を背にして座り込む天城に手を貸した。天城は立ち上がると鴉羽の元にやって来た。


 「鴉羽、今回は俺の負けだ!想像以上の能力だな。瞬間移動による予想外からの怒涛の攻めで、目も思考も完全には追いつかなかった」


 天城は思い切り動いて気分が良いのか、笑いながら言った。


 「いえ、先輩の方こそ凄まじい力でした。俺に人形による瞬間移動能力が無ければ、間合いにすら入れず負けていました」

 

 「ふっ 君は良い後輩だな」


 2人はお互いを称賛し、そして握手を交わした。


 (今回、陽介は"あの技"を使わなかった… 使っていたら鴉羽くんはもっと苦戦していたかもしれないね)


 牛嶋が2人の握手を見ながら考える。


 それぞれ健闘を称えている中、突然「きゃっ」と言う小さな悲鳴が聞こえた。振り返ると藤崎が尻もちをついていた。


 「何やってんだ? 茜」


 「ちょっと私も瞬間移動を経験してみたくて」


 どうやら藤崎はこっそり鴉羽の召喚した黒人形に入ろうとしていたようだ。


 「すみません、茜先輩。これは俺と俺の刀の攻撃しか通さないので…」


 「えー そうだったの!? 折角、私の部屋と教室にそれぞれ配置してもらって通学を楽にしようと考えていたのに…」


 その場の全員が冷ややかな目で藤崎を見た。

 

 「じょ、冗談よ」


 鴉羽が黒い闘気で創り出したものは、鴉羽から範囲30メートル以上離れると、視界に捉えていない限り維持出来ないので、そのような便利な使い方はそもそも出来なかった。


 「じゃあ、大人しく先生を待つとするか」

 

 全員はトレーニングルームを出て、神堂の帰りを待つことにした。

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