第二話 そして転校して来た 2

 

 「ここが職員室だ。担任は山野やまのって先生だ。入って右奥に席がある」


 前田が職員室の前で得意げに言った。


 「すまん、助かった」


 「別に良いって。じゃあ俺は部活あるから。とりあえず明日からもよろしくな」


 前田はそう言うと去って行った。


 鴉羽が職員室に入り、右奥の席の方を見ると、先程歴史の授業を担当していた先生が座っていた。

 

 「おお、鴉羽。こっちだこっち」


 そう呼ばれ、鴉羽は先生の元にすぐさま向かった。


 「担任の山野忠志やまのただしだ。ははっ、しかし転校初日から災難だったな」


 「笑い事ではないのですが」


 楽しそうに笑う先生に鴉羽はツッコミを入れた。


 「すまん、すまん。まあ、とりあえずよく日本学校に来てくれた。どうだお前が居たロシアと比べて」


 「あまり変わりません。自分の住んでた村の近くにこれ程大きな学校は有りませんでしたが」


 鴉羽はパンドラ帝国の都市の1つロシアの小さな村に住んでいた。それが "とある理由" により日本に引っ越し、この日本学校に転校することになった。

  

 「この学校は帝国が運営している学校の中でも最大規模だからな。将来は帝国の要職に就く人間も多い。お前は確か17歳だから残りの約3年間、存分に学校生活を楽しむと良い」


 日本学校は日本で唯一の帝国が運営する学校である。基本は10歳から入学可能で20歳になるまでの10年間勉学に励む。この学校を卒業した者は、箱人で無くとも帝国に仕えることが出来、箱人で有れば騎士として召し抱えられる。言うならばエリート学校である。

 

 「転校して来たからと言って気後れしないようにな。何か困ったことがあったらいつでも相談しに来い」


 「ありがとうございます山野先生」


 「そう言えば神堂しんどう先生には挨拶は済ませたか?」

 

 「実はまだ会えて無くて」


 神堂先生は鴉羽がこの学校に来るきっかけを作ってくれた先生だ。


 「そうか。神堂先生はお前が入学出来るよう学校側に強く推薦してくれていた。勿論お前がテストを受けて実力があったから入学出来た訳だが。一応礼はしておくようにな」


 「ええ、必ず」


 鴉羽は転校して来たばかりで不安であったが、星乃や笹原、前田に山野先生と良い人達に恵まれ、少し安心していた。

 

 (神堂先生には感謝しないとな)

 

 「後は、午前中にやろうと思っていたこの学校の設備の案内だが、遅くなるが今からでもいいか?」


 「はい。よろしくお願いします」


 そうして鴉羽と山野先生は一緒に職員室を出て、学校を見て回ることになった。

 


     ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢




 学校はかなり敷地が広い上に設備が異常な程充実していた。


 ー大きな食堂が10箇所もあったのは流石に驚いたな

 

 「利用するであろう施設の紹介はこれくらいだな。ん? どうした?」


 17時に授業が終わり、17時30分頃に学校を回り始め、現在19時30分を過ぎている。学校のしかも主要な場所だけを見て回るのに2時間もかかかっていた。辺りはすっかり暗くなっており、生徒達の数もかなり少なくなっていた。

 

 「いえ、ここまで凄いとは思って無くて」


 「最初はこの充実っぷりに圧倒されるよな。時期に慣れるさ」


 周りの生徒達は当たり前のように施設を利用していた。鴉羽が同じように利用出来るのは暫く後になるだろう。


 「最後にこれを渡しておこう」


 鴉羽は生徒手帳を渡された。


 「確か今日から寮での生活だろう?その生徒手帳を寮の受付に居る管理人に見せれば、部屋に案内してくれる筈だ。他の学校で使うテキスト等は既に部屋の方に届けて置いた」


 「何から何まですみません」


 「お前の担任なんだしこれくらいは当然のことだ。ちなみに寮は裏門から出ればすぐ分かる。ここからなら裏門まで30分くらいだろう」


 (そこそこ掛かるな)

 

 鴉羽の顔に出ていたのか山野先生は笑った。


 「まあお前くらいの若さなら余裕だろ。授業中に寝て元気も有り余っていることだろうしな」


 鴉羽が授業中寝ていたことに山野先生は気づいていた。


 「申し訳ありませんでした」


 「まあいいさ。色々あって疲れていたと言う事にしておこう。次は容赦しないが」


 山野先生は再び笑った。


 「それじゃあ今日はもう遅いから気をつけて帰れよ」

 

「はい、先生こそ気をつけて。明日から宜しくお願い致します」


 こうして鴉羽の学校生活一日目が終了した。

 

 鴉羽は山野先生と別れ、裏門に向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る