第3-2話 図書室の奥ー②


「むむむ・・・本当は会って決めるだとか、とりあえず保留だとか言いたいのだが、その上級生を部活に引き入れるのが”条件”になっていると?」


「恐らくそうだと思います。私が交渉した時にはそのようなことは仰られていませんでしたから、顧問のお願いに対して色々考えてのことではないかと」



 顧問を引き受ける代わりに難のある生徒の部活動参加を促す。こちらは目標人数に近づくし、先生は生徒の成長を期待できWIN―WINというわけだ。


 だが実際にこちらのWINは確定していない。その先輩がどんな人なのか次第では大きくマイナスになるだろうし、下手をすれば全ての話が無しになる。だが、三守先生のあの感じを見るとそこまで構えなくていい気もする。どちらにしても、引く選択肢は見えない。



「たぶん大丈夫だろ。とりあえず会う方向で進めよう」


「うむ。部員はともかく顧問の教師を再び探し始めるのは厳しいからな。我らの活動内容を理解した上で引き受けると言ってくれてるんだ。条件くらい突破せねばならんだろう」


「ではその方にコンタクトを取るということですね。ところで、誰が交渉に行きますか? 三人で行っては威圧感を与えてしまうと思うのですが」



 人がほとんど出入りしないであろう準備室で多くの時間を過ごしている時点で、人付き合いが得意ではないのは見てとれる。そうなると月代の言う通り多人数で接触するのは避けるべきだし、実行できない。


 しかし適任は誰になるのか。個人的には同性で校内でも高い評価を常に受けている月代を推したいが、二人はどう思っているのだろうか。



「本当は私が行きたいのですが、すみません。今回はお役に立てそうにありません」


「俺も無理だな! 単純に警戒されるだろう! 見た目も評判もな!」



 いきなり自分だけになってしまったが、これは流石に予想していない。


 俺が行くことになるのは構わないが、それでも納得できる理由は欲しい。メガネはもうそのままだが月代に関しては何か事情があるようだし、それを聞いてからでも結論は遅くない。



「まず最初に、私は恐らくその方とは初対面ではありません。というのも生徒会の雑用で準備室に立ち入ったことがあるからなのですが、その時のやりとりを考えるとあまり良い印象を持たれているとは思えません。そうであれば、初対面の方がまだ良いと思いまして」



 三守先生の話からすぐに結びついたのはそれが理由だったのか、と納得する。


 生徒会に属する関係で多くの場所に顔を出すというのは、それだけ認知度が高くなることを意味する。そこには良い意味も含まれれば悪い意味も含まれ、今回の話は悪い方が出てしまった形なのだろう。


 いつも通り振る舞って、失礼のないように意識してもそれが相手の何かに触れることは残念ながら存在し、絶対に好かれる人付き合いはありえない。相手の気持ちを知ることができないのだから、それは事故のようなものだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る