第2-9話 呼び出し
三守先生から呼び出しがあった。
月代が部員の集まり次第で顧問を請け負ってくださるとお話をいただきました! と嬉しそうに報告してきた翌日、担任経由で呼び出しを受け生徒相談室へと足を運んだ。
初めて訪れた生徒相談室は、悪いことをしていないのに何かをした気分になる魔力を秘めており、きっと職質を受ける人はこんな気分なんだろうなと漠然と思う。なぜかメガネは呼ばれておらず、一人でいると否応なく背筋が伸びてしまう状況を味わうこと数分、ついにその人はやってきた。
「おう、ちゃんと来てるな。見るからに肩肘張ってるがリラックスしろよ。なにも説教しようってんじゃねーんだ。初めましてだよな?」
適度に整えられた髪に鋭い目付き、スーツをバッチリ決めているその姿は教師というには決まりすぎており、見た目だけで判断するなら別の職種の人に見える。
しかし話す声は思ったよりも親しみやすい印象で、力の入る体が少し弛緩するのを感じる。あまり時間がないのか元からの性分なのか、自分の名前と担当教科をパパッと述べると、すぐさま本題へと入った。
「月代から新しく創設する部活の顧問をお願いしたいって言われたまではいいんだが、どうにも裏があるよなー? 匂わせ程度であいつは話すのをやめたが、お前ら俺の趣味の部分掴んでるだろ? 得をしたいなら正直に話してみな」
いきなりの直球に思わず顔がこわばる。するとそれに気付いたのか、先生は悪い悪いと悪びれずに笑い、吸っていいか? と煙草を取り出す。映画のワンシーンのようにスマートに火をつけ、おいしそうに真上へと煙を吐き出しこちらを待つその姿は、やはり教師には見えず誰と話してるんだという気持ちになる。
「実は、漫画研究部や映画研究部とは活動内容が異なるサブカルチャーにスポットを当てた部活を作りたくて、入学時にもらった冊子の条件で人を集めています。そこで駅前の本屋の噂を耳にしまして」
「あーオッケーだ、把握した。つまりあれだろ? マンガやアニメに影響されて高校生活で部活を楽しく作りたいわけだ。そこで顧問の問題になった時に本屋の話をどっかで聞いたか見つけたんだな。くそ、いつかはバレると思ったが」
遮るように話す先生は、呆れたような口調に面倒くささを隠さず理解したような頷きを見せ、どうすっかなーと煙草を灰皿で潰しながら息を吐く。
「ゲーム知ってるか? モンスター捕まえ放題の一番奥に関係者がいて、話しかけると特別なアイテムもらえんの」
唐突な話題に返事ができず、簡単な相槌と共にただ頷く。
「今あんな感じ。仕事だからなーってやつ。月代が噛んでるから迂闊に拒否できないってのもあるがな。まだ数週間しか見てないが、良い性格してるわあいつ」
「えっと、つまりどういう・・・」
話が全く見えない。仕事だから仕方なく引き受けてくれるという話なのだろうか、それとも愚痴を聞かされているのだろうか。話す内容から意図がくみ取れず、ただただ困惑する。
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