第2-6話 顧問教師を確保せよー④
「彼女に見られたという時点ですでに選択肢は少ない。彼女は男所帯に割って入った新入生でも唯一の生徒会役員だぞ? 最終的に認可を得る相手に本当の目的が知られるのは非常にまずい。だがここで変に対応しても後に懸念を残すことになる・・・」
適切である活動内容が認められる必要がある、これは部活を立ち上げるに当たり避けられないミッションであり、一番の悩みの種だ。本音がアニメやマンガで盛り上がりたい! となれば漫研や映研辺りに行ってくれと一蹴されるのは明らかで、まず認可されることはないだろう。
だがこうして待たせすぎても怪しまれるのは変わらない。そう考えたときに、一つの疑問が浮かんだ。彼女は”ここに”何を探しに来た?
「そういえば月代、今日は何を探しに来たんだ?」
いきなりの質問に軽く首をかしげると、特に躊躇う様子もなく袋にガサッと手を入れ一冊の本を取り出す。動作に合わせて、水色の髪留めが振り子のように揺れている。
「これなんです。他の本屋さんには置いてなくて諦めかけたんですけど、最後にここならと思いまして」
「そ、それは!君はそれが好きなのかね!?」
月代が説明するよりも早くメガネが興奮気味に食いついた。怪獣とヒーローが表紙のマンガに見えるのだが、随分と分厚い。なにか別についているようで、付録つきのマンガらしい。
「ライオットの特装版! 初回分だけドラマCDがついているファンは入手必達の最新刊だ! いや、お目が高いな!」
「あら、もしかして貴方も好きなんですか? 話せる女の子中々いないんですよこれ。面白いと思うんですけどね~」
そう話すやいなや二人はいかに素晴らしい作品か、どこが良いか誰が好きかという話で盛り上がり、完全に取り残される形になった。少し待っても終わる気配がないので過去のノートを眺めること二冊目、ようやくひと段落したようだ。
「いやー人は見かけによらないというが、いや失礼。他意はないんだ。だが持っていたイメージと大きく異なっていてね。この作品を君が知っているとは思わなかったよ」
「ファンは存外どこにでもいるものですよ。因みに私は月代雫と申しますので、月代とでもお呼びください」
「うむ! 俺はメガネでいいぞ! 親しい奴はみなそう呼ぶ!」
「あら親しいだなんて。ですが、遠慮なくメガネさんとお呼びしますね」
すっかり打ち解けた様子だったが、時計の針はほどよい時間を示していた。この時間から先生が来るとは思えないし、今日はここらが潮時だろう。月代に関しては門限も気になる。
「そろそろ帰ろうぜ。腹も減ったしさ」
「うむ、そうするか。月代も帰った方が良いだろう。女子が一人でうろつくには少し危ない時間なのでな」
「確かにそんな時間ですね、ではそうしましょうか。またお話しましょうね」
喜んでというように大きく頷くメガネと月代と店を出る。すっかり暗くなっている駅前は田舎ながらも帰宅途中のスーツ姿が多く闊歩し、本日最後の喧噪を生み出している。
それではまたな! と自転車で駆けだしたメガネに続こうと盗難防止のチェーンを外していると、月代が後部の荷台に乗ってきた。体重が軽いのだろう、乗っても車体はほとんど動かない。
乗って帰る訳ないよな・・・と出方を待っていると、その目がスッと細くなる。先日見た、あの探るような瞳だ。メガネは意気投合したことで忘れていたようだが、問題はなにも解決していない。思い出すと共に、若干の緊張が走る。
「それほど遠くないので、家まで送ってくださいませんか? まだ、話していないことがおありですよね? あなたも、私も」
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