第2-5話 顧問教師を確保せよー③


「確か聞いた日付は約一か月前で、ライトオンのファルサを描いていたらしく・・・おっ。恐らくこれだな。見事なものだ」



 ノートを捲り始めて少し進んだページに、随分と上手いイラストと共に達筆なコメントが並んでいた。知らないキャラクターではあったものの、素人目でもその上手さは目を引くものでマンガ連載とかできるんじゃないのか? とさえ思えるものだった。


 コメントにはいつもお世話になっているとお礼が添えられており、日頃から文字を書いている人間に見られる流すような文字が刻まれていた。綺麗というよりかっこいい、書道で目にするような文字だった。行書体といったか。



 「絵も字も上手いな。けど見覚えはないし、少なくとも俺らが授業を受けている先生ではないんだろうなこれ。メガネは誰だか目星ついてるのか?」


「いや、それが分からないんだ。同じ教室で授業を受けている以上、持っている情報は同じだからな。だから」


「あら、三守先生の文字ですねこれ。先生方の中でも特に達筆な方ですから、これでは目立っちゃいますね~」



 メガネはギョッと振り返り、俺はまさかな、と振り返った。しかしそこにいるのはそのまさか。メガネと同じデザインの袋をぶら下げた、月代雫がそこに立っていた。その表情は面白そうだと言わんばかりの笑顔で、どこかいたずらっぽく目を光らせている。



「ななななな、なんで代表がここにいる!? おかしいではないか!?」



 明らかな狼狽を見せるメガネ。メガネは趣味を隠さないものの、自分の趣味が周囲からどういった評価を受けているかを理解している人間だった。だから同じ趣味の人間とは積極的に話を共有するが、それ以外の人間へは絶対にその話題を持ち出さない。だからこそ、今の状況は良くないものなのだろう。


 だがそんなメガネの心情を理解しているのか、月代は前回見せたマイペースを崩さずに、袋を指さしながら微笑む。



「ちょっと探し物をしに来たんですよ、ここならあるかなと思ったので。すると知っている方がいるじゃないですか。このお店で知っている方に会うなんて珍しいもので、気にしてたらちょっと面白そうなお話も。ふふ、何をされていたんですか?」



 知っている方と言われ、メガネが驚きの表情でこちらを見る。そりゃ先日少し話はしたが・・・と事情を説明すると眼鏡を外しふーっと一息入れ、少し待ってくれと月代に牽制しグッと体を寄せてくる。話す声は、聞かれないように極力絞られている。



 「貴様、いつの間にフラグを立てた・・・しかも相手が代表のお嬢様とはいただけんぞ。あの手のタイプはもう少し先で登場と相場が決まってるんだ。部活もできていないこんな序盤で出てきては失速が約束されたようなものじゃないか」



 あ、やっぱりお嬢様ってイメージだったんだ、とくだらないことに感心しつつも相場? 失速? と言っている意味は分からない。どうやら怒っているらしいが、困る状態ならごまかしてお帰り願えばいいじゃないかと提案する。しかし、その表情は渋い。

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