第2-3話 顧問教師を確保せよー①


 顧問の教師、及び部員の確保は全く進まず、二人で駄弁るだけの日々が続いていた。目的の部活に入る生徒と帰宅部で落ち着く生徒、狙うは後者だがこれが中々上手くいかない。活動内容が内容だけに声をかけることも難しく、あまり声をかけることができていなかった。


 メガネは積極的に動いているが、玉砕を繰り返すうちに”そういう人”のイメージがついてしまっており、時間が経つほど話を聞いてくれる生徒が少なくなっている。先細りの展開というやつだ。



 しかし、今日のメガネはいつもと違っていた。



「ちょっと聞いてくれないか? 面白い話を耳にした」



 いつもの不気味な笑いを隠さず、机を横付けしてくる。誘ったからにはと意気込み玉砕を繰り返すメガネは見ていて心苦しかったが、今の表情にその色はない。どうやら良い話らしい。



「なんだ?入部希望者でも見つかったか?」


「それはもう少し時間が必要だが、教師の方は見つかったかもしれない。いや、ここからの動き方次第なんだがね」



 声を潜めて話す様子を見るに、他人に聞かれたくない話らしい。生徒が多く残っている教室では不向きと判断し、人の寄り付かない自販機まで移動する。メーカーも原材料も分からない代わりに格安のジュースを二本買うと、片方を手渡す。



「おお。これはかたじけない。今度秘蔵のマンガを貸してやろう」


「それはいいんだけど、教師が見つかったってどういうことだ?」



 カシュっと開けて口を付ける。金額に釣られて何度か買っているが、何度買ってもおいしくない。しかし、ポイントはまずくないという点で、気付けば飲んでいることが増えている気がする。何が入ってるんだこれ。



「他の生徒からの情報なんだがな、駅前の本屋の交流ノートに見覚えのある筆跡を見つけたらしい。そして、それがどうもうちの教師のものに酷似していると」



 交流ノートとは、アニメやマンガ好きな人が交流をするためのノートのことを指すらしい。駅前の本屋は個人経営の強みか店長の趣味か、他に比べコアなマンガを置くことで一部では有名らしく、実際にメガネもよく通っている話を耳にしていた。


 店内には交流ノートがあり、来店客が好きなキャラクターや簡単なメッセージを残し、それに違う客が反応することで交流を行っている。常連客はペンネーム付きで残すことが多く、絵が上手い人は人知れず人気になっているとか。



「つまり、その筆跡が本当にうちの先生だったら頼めそうってことか?」


「いや、仮に本当にその教師のものだったとしても、シラを切られる可能性もあれば断られる可能性もある。顧問を受け入れてもらえるように、上手く誘導する必要があるだろう。間違えれば我々の校内での動きが制限されかねん」


「つまり・・・?」


「追い込み漁だな、といってもまずは事実確認が先だ。早速今日から張り込むとしよう。これから放課後はしばらく時間をもらうがいいな?」



 半々といった口ぶりとは対照的に楽しそうな笑みを浮かべ、今日から忙しくなるぞと謎のジュースを一気に飲み干す。確定ではないとはいえ、ようやく進展があったのだ。喜ぶのも無理もない。


 楽しそうなメガネを眺めながら、自分はどうなんだと心の中で自問する。確かに”付き合っている”感覚だったが、今は面白くなりそうだとワクワクしている。素直に思ったその自答は、少しだけくすぐったいものだった。

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