第2-1話 拠点の条件
「つまり、部活を作ろうという訳だよ。協力してくれないか?」
桜も落ちてしまい、ようやく高校生活に慣れてきた頃メガネはそう切り出した。向かいの机で箸を止めこちらの反応を待っているので、話を続けろと合図する。こちらは箸を止めないが。
「いやね、今日まで多くの部活を見学してきたんだ。高校生活において部活動は非常に重要なファクター、欠かすことはできないからね。本当は生徒会も考えたんだが、あそこはハーレムがあって初めて輝く場所。つまり男所帯の現生徒会に理想郷は存在しなかった」
そういえば借りたアニメ系の小説にそんな話があった気がする。恐らく顔面偏差値が高いであろう主人公を囲むように存在する美少女たち、そんな彼女らと共に駆け抜ける学園生活。
現実にそんなものがあるとは思わないが、真面目に追い求めている人間が実際に目の前で力説しているのだ、水を差さないのが吉だろう。
「となれば既存の部活になるのだが、これがどうにもしっくり来ない。上級生が大きくふんぞり返っていたり、逆に全く活動する気がなかったりね。どこに入っても満足に活動できそうにないなら、最早作るしかあるまい?」
自分の求める場所がないなら作ればいいという発想は理に適っている。しかし、それには当然相応の労力が必要になり、その結果が報われるとも限らない。
ガサゴソと机の中を漁り、入学時にもらった部活紹介の冊子を取り出すと該当するページを二人の間に開く。
「んーと? 新規で部活を創設したい場合は顧問教師、部員五名を揃えた上で明確な活動内容を提示し、その内容が適切であると認められる必要がある。らしいぞ?」
「活動内容か。活動内容・・・こう、面白おかしくアニメやマンガを絡めた何かで青春を謳歌したいんだが、上手い表現方法はないものか」
「それ、俺も入ってるんだよな・・・」
今更ながら、メガネの活動に参加するかを真剣に考えてみる。学校の友達がイコールで休日に遊ぶ友達になるかと言われれば決してそうではなく、どこかそういった関係に億劫な自分がいたから、中学時代はある程度でラインを引いていた。
しかし部活に入るとなるとそうも行かず、ましてや新しく作ろうとしているのだ。
様々な理由で休日も共にする機会が増えるだろう。どうしたものか。
「心配そうだな、大丈夫だとも。案ずるな。俺が楽しくしてみせる」
いつものように不気味に笑うのは良いのだが、説得力に欠ける。いや、本当はそんなものいらないのだが、踏み込むためのもうひと押しが欲しい。
「根拠をくれ」
「箱の中の猫はきっと生きてるとも!可能性を信じねば、何も始まるまい?」
根拠とは違う答えが返ってきたが、言いたいことは伝わった。俺だって無色な高校生活を望んでいる訳ではない。かなり早いが、恐らくここが俺の高校生活の分水嶺だ。心の中で覚悟を決める。
「分かったよ。だけど面倒なところは任せるからな?」
「あぁ! 共に青春を謳歌しようじゃないか!」
声の大きさにクラスメイトが数人こちらを振り返り、声を落とせと頭を叩く。悪びれる様子もなく失敬失敬と謝る姿に、これからの時間を思い描く。恐らく大丈夫だろう、こいつだし。
しかし問題はまだまだ解決しておらず、むしろ始まってもいない。先ほどああは言ったものの、自分に出来ることはやろうと密かに気合を入れるのだった。
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