第1-3話 幕開け
メガネの言う通り三組に振られていたことを確認すると、一緒に待機する教室まで移動することにした。幸運にもメガネも同じ組で、それを知らせるために俺が来るまで待っていたらしい。
メガネは中学からの付き合いで、学校外でも遊ぶことのある数少ない友人の一人だ。気も回るし性格も良い、いわゆる良いやつなのだが全体的に髪が長く、笑うと顔が隠れることで不気味な笑みになりやすい。
加えてオタクな趣味を隠さないことで敬遠されており、見た目で損をしているのだが本人は全く気にしていない。なんでも、話せる友達には困っていないから構わないという。
だが、その時に見ている作品に感化されて話し方が定期的に変わることだけは、未だに慣れることができずにいる。声変わりを終えていない声での尊大口調は、たまにツボだから困りものだ。
「しかし、待っている間に色んな生徒を見ていたが存外見知った顔が多いものだね。かの有名なバイソンまで見かけたよ。我々も気を付けたいものだ」
「バイソンって、あのバイソンか?」
バイソンは屈強な女子だった。こどもの成長は女の子の方が早いという定説を具現化したような身長とフィジカルを備え、彼女より大きい男子はそれほど多くなかったように思う。
加えて持ち前の運動神経を存分に発揮していた様子から、気付けばバイソンというあだ名がついていた。命名した奴は尻を思いっきり蹴飛ばされ、そのまま保健室に直行した逸話も残る。
「あのバイソンだよ。まあ高校生になったことだ、彼女も落ち着くだろう。そもそも関わらなければ無害なのだしね。さて、ここがこれから過ごす教室になるのかな」
着いた教室はどこにでもありそうな普通の教室だが、掃除をしているであろうにも関わらず、多くの生徒が過ごしてきた年期のようなものを感じた。
黒板に貼られた座席表に従って席に着いてもそれは変わらず、落書きやカンニングの形跡らしき掘り込みが入った机は、これまでの時間の流れを鮮明に物語っていた。
その後メガネと話していると引率役の教師が姿を現し、入学式へと流れた。特に目立った何かはなかったが、新入生代表が清楚なお嬢様みたいだったことだけは印象に残った。山の方に有名な私立校があるのになぜこちらを選んだのだろう、と考えてみるもすぐに飽きて、関係ないかと思考を放棄した。
そしてついに高校生としてのスタートを切るのだが、これからの三年間が忘れられない時間になることを、その時は知る由もなかった。
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