第1-2話 見知った顔
これから通う学び舎は、見慣れた景色の一つだった。
着いたその高校は、商店街から少し離れた場所に位置し生徒数もそこそこ。しかし常に活気があり、どこか楽しそうな雰囲気を持っていた。目を引くのは敷地内で半円状に伸びる駐輪場で、何百台という自転車が並んでいるのを壮観だと感じたことは記憶に新しい。
秋の文化祭では出店が多く並び、地元の住民がこぞって遊びに来る。もちろん自分もその一人で、友達と毎年のように遊びに来ていた。内緒だからな? と焼きそばを増量してくれた坊主の兄ちゃんが、次の客にも同じことを話し結局ずっと大盛りを提供していたのが昨年の話だ。
懐かしみながら門を抜けると、一気に心が高揚するのが分かった。これまでのお客さんではない、自分が主役になる感覚に思わず制服を見直し乱れがないか確認する。すると隣で突如シャッター音が鳴り、カメラが面白そうにこちらを見ている。
「バッチリ決まってるから大丈夫よ。クラス分けもう出てるみたいだから行ってきたら? 保護者は別で受付があるから、また後でね」
カメラがくいっと指した方向には新生徒だけが集まっており、歓声や悲鳴が混じり合いながら響いていた。あそこで最初のクラスが決まるのか、と目を戻すとそこにもう姿はなく、受付の方に歩いていく背中だけが残っていた。
こうなると動く他なく、クラス分けの方へ歩みを進める。顔も知らない同級生が多いと思えば見たことある顔もチラホラ混ざっていて、それなりにやっていけそうな気分になる。実際は話したことがないので、やっていけないのだが。
見える位置まで来たのはいいが、確認するクラス分けは意外に多く最初のクラスに自分の名前は見当たらなかった。掲示板の前には同じような生徒が多くいるため移動するのも一苦労で、一度離脱しようかと考えていると
「おやおやお困りのご様子で。ふむ、私の計算では三組の確率が最も高いと出ていますがどうですかね...?」
声だけで眼鏡がクイッと上がるのが分かる。話し方に妙に癖があり、それでいて芝居がかっている。しかし声は変わらずいつも通りで、どこか力が抜けるのを感じた。
「なんだ、メガネもここだったのか」
おやおやそれはご挨拶ですね、と使いたいだけのセリフで返事をするそいつは、鋭く怪しく、そして面倒くさい光を眼鏡から放っていた。
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