七章 侍道化と荒海の魔女 その23
「ううう…」
フローレは唸りをあげる。パチっと目を開いた。
「ここは?」
「気がついたかい?」
「……! 括正!」
フローレの目の前には服と帽子を着ていた括正が浮いていた。いや、フローレも浮いてる。
「意地悪ビリビリにぶっ飛ばし、許さないんだから!」
「やめんしゃい、やめんしゃい。ここは暴力も魔法も念術もお互い使えないよ。どうやらお互い死んではいないが気を失ったらしい。」
「どこなの、ここ?」
フローレは辺りを見渡した。
「何もないけど…」
「絆の念界だね。僕は二回目だけど、今回はお互いの魂のみがここに来たようだ。疲れた感じや怪我した感じはしないでしょ?」
「確かに……何で私達が?」
「僕らの衝突も縁を結んだってわけかな? また会いたいなって思ってこんなすぐにスピリチャルに会っちゃうのも、複雑だけど。まあ、ちょうどよかった……」
括正は腕を後ろで結んだ。
「あんたと話がしたかった。…あんたは強くて、特別な賜物がある。誰かのために使う気はないかい?」
「……やだ。自分のためにだけ使う。」
「……君のご先祖は、全員そうしてきたの?」
「……お父様もお母様も自分のためだけに神通力を使って、最後まで私には見向きもしなかった。私が同じようにして何が悪いの?」
「そうか。……君は親に愛されなかったんだね。」
括正は悲しそうな顔をして、話を続ける。
「君は友達はいるの?」
「付き人兼信者や共闘者くらいいるわよ! 馬鹿にしないで!」
「そうじゃないよ。友達だよ。共に笑えて、泣けて、喧嘩して、信頼できる存在だよ。」
「……いない。」
「僕も決して多くはないんだ。だから君とも友達になりたいな。」
括正が笑顔で言うと、フローレは両腕を組んだ。
「侍道化…異名通りの男。」
「ん?」
「あなたは小さな国しか知らない。だけど私にはわかる。あなたの個性は人を振り返らせ、敵意なく話したり接したりするだけで誰もが楽しくなると思う。」
フローレは両腕を下げた状態で両拳をギュウウっと握り締めた。
「思い描いていた理想の自分。すごく悔しいけど、それがあなただったみたい。……私がそんな存在と仲良くしたいと思う⁉︎ お断り! 私は悪の華! 生を受けて何十年経ったのかしら? ようやく自分の生きる目的がわかったみたい! 私はあなたを倒すために生まれたの! 恨みや快楽のためじゃない、私だけの使命! 絶対に寿命死させない! 今回は負けたけど、いつか必ず倒す! 覚悟して! あなたの椅子を壊す!」
フローレは人差し指を括正に向けながらビシッと宣言した。括正はほんの一瞬少し落ち込んだ顔をしたが、すぐに不敵に微笑んだ。
(何だろうな? この子は悪い子だけど嫌いになれないや。)
「僕に手も足も出なかった癖に、口だけは立派な見かけお嬢さんだ。椅子取りゲーム攻略や征服の計画、悪事をせいぜい企んどくんだな。近くにいたら邪魔してやる。」
括正は思いながらそう言うと、親指を立てて、フローレに向けた。
「その因縁、受け取った! 僕はさらに強くなる! 君もせいぜい腕を磨くんだね!」
括正が叫ぶと、二人の視界は白くぼやけて、魂は体へと完全に戻るのであった。
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