七章 侍道化と荒海の魔女 その22
舞台は東武国の草原に戻る。
「もー、なんなの⁉︎」
怪物の中で怪物を操ってるフローレは文句を言ってた。
「全く倒れる気がしないんだけど、このタコ女!」
「アハハ。哀れ、あ、わ、れ。アタシと揉めようとしたのがあんたの間違いさ。」
ルシアは余裕の笑みを浮かべながら語った。
「でも勘違いしないことね。アタシはただ時間稼ぎしてるだけよ。お前を倒すのは侍道化のし、ご、と。」
「フラハハハ! 哀れなのはあなたの方! 侍道化はさっき私のヘリオスの大剣で焼き葬ったのよ!」
フローレは高らかに自慢した。それに対してルシアは一切動揺はしなかった。
「ぷぷ。哀れ、あ、わ、れ。お前念術について全く勉強してないだろ?」
「プンプーン⁉︎」
「あんたは括正を殺してない。それに…」
ルシアは魔法で始動していた砂時計を取り出して確認した。
「もうちょっとで…はい。」
「爆発はないけど、ドカンと括正、再登場!」
「きゃあああ! いやああ! ルシアの横に急に現れたー!」
怪物の中のフローレは突然現れた括正にびびった。括正は横にいたルシアに体を向けた。
「ルシアさん、フローレちゃんの足止めともう一人の奴の討伐をありがとう。」
「好きでやっただけよ。お前のためにやったんじゃない。心の名誉と誇りのためにやったの。礼を言われる筋合いは一切ない。」
「それでも形として、僕の育ったこの国は確かに救われた。本当にありがとう。」
「……頑固な坊や。」
「私を蔑ろにしないで!」
フローレの怪物は
「……結構強くなったねフローレちゃん。なんで?」
「血肉の果実。」
「謎が解けた。」
「括正勝てるん?」
「まあこの状態ならきついかも。でも切り札あるから、大丈夫。」
「そう…じゃあ高みの見物を楽しませてもらうわ。」
ルシアはそう言うと、距離を置いた。括正は怪物の中のフローレを見据えた。
「君はどんな目的でこの国に来た? 一体何が欲しい?」
「……全てよ。」
「いや、あの具体的に言って。だって全てって言っても
「……この国では侍大蛇―宮地 蛇光はどう思われてるの?」
フローレは逆に括正に質問した。括正はアゴ髭をしばらく触ると、答えを口から導き出した。
「一部の人は彼を英雄として視ていた。僕は嫌いだけどね。邪悪な一面はあったが、死しても彼を尊敬している者はいる。彼に救われた命は、確かにあった。陰で国と世界を操りながら、王道を求めていた。」
「私も同意見。だから彼が持ってる幾つもの椅子で一番綺麗で座りやすい東武国の椅子が欲しいの。」
「君が〜⁉︎ 無理だな。」
括正は呆れて曲げた状態で両腕を広げた。
「蛇光は確かに君と似て極悪非道だったが、利のない悪はしなかった。感情的にはなりつつも、計画性があった。敵ながら、立ち回りが上手い男だった。君はどうだい?」
括正はビシッと怪物を差した。
「不必要に大勢の命を己の快楽だけのために奪った。そんな人が侍大蛇の背負ってたもんを、僕も想像できない程の大いなる計画を背負えるのかい?」
「私は神よ! なんでもできる! 殺すも、奪うも、支配するも、私の自由なんだから。」
「……赤ちゃんの命でさえもかい?」
「ええ。もちろん。」
「そうかい、そうかい。そう思うのかい。」
括正は無言で、念術の服脱ぎをした。武器の逆十字刀を後ろに投げた。
「…どうやら君は……僕を……俺を……俺様を怒らせたようだな!」
括正はそう言うと、両腕を曲げた状態で右手をグーにして小指方面をパーにした手の平に載せて胸部近くに置いた。
「歴代の岩本家の数ある岩の中でも、俺様は特にハードでロックな原石さ! その事実に心からの歓喜、感謝!」
括正はそう叫ぶと、両手をくっつけたまま、びゅっと前に突き出し、技名を叫ぶ。
「細胞怪放!」
(……! 気温が少し変わった!)
最も最初に気づいたのはルシアである。一方怪物の中にいたフローレは言葉を失っていた。括正はニヤリと笑う。
「声が出ないフローレちゃんに今の俺様がどう見えるか代わりに説明してやろうではないか!」
括正は話を続けた。
「肌は茶色から桃色になっただろう? そして背中には同じ色のコウモリの翼! 角は少し長くなってない? 歯も尖って、瞳は赤い!」
括正は両手を広げた。
「この形態の名は
「…ちょ、ちょっと怖くなっても、今の私に勝てる訳じゃない!」
怪物から無数の枝とツルが括正に向かっていった。しかし…
「えっ、嘘⁉︎」
(括正に触れる前に枝もツルも発火した! まずい! 本体に火炎が…)
ドーン! プシュウウウ!
フローレは
「あなた、炎を出せるようになったの⁉︎」
フローレは問いかけた。
「私、火は苦手なのに! 酷い! 意地悪!」
(ふふふ、自称神のお花ちゃんが慌てちゃって。アレだけで火を出すって判断しちゃっていいのかな〜?)
ルシアは内心フローレを嘲笑っていた。フローレは次の手を実行したことに括正は気づいた。
(怪物から今度は無数の根っこが? 地面に刺さってる…何かを吸い上げてる。)
「私は火が苦手だけど、今なら火の弱点をこうして補える!」
怪物の口がパカっと開いた。中から大量の攻撃的な水の波動光線が放水された。
「オケアノスの洗礼!」
「はい。デコピン。」
括正は言葉通りのことをした。
シュウウウ!
「えええー!」
フローレは驚いていた。
「水が蒸発した! 何故⁉︎ 炎を出すんじゃなかったの⁉︎」
「何お前、ふざけてんの? 炎は体を温めたり、生活の役には立つが同時に災いや死だって簡単にもたらすことができる。そんな恐ろしいもん、俺様にはとてもとても、扱うのが畏れ多いぜ。」
括正はそう言うと右脚を曲げて、宙に浮かした。
ビュッ!
(括正が消え…)
「
ドッカーン!
怪物の腹に括正の蹄が炸裂して跡ができてしまった。怪物は少し後退りする。
(うう、ただの蹴りなのに気温が上がった?)
フローレは技が決まって、翼のおかげで空を飛んでる括正を睨んだ。
「やっぱ炎使いじゃない! 濡らしてやる〜!」
フローレは再び根を張らせて地面の水を吸収させた。そして怪物の口が再びパカっと開く。
「オケアノスの激流!」
ビュウウ!
(…! 回転が加えられている分、さっきより威力がある! デコピンじゃ無理だな!)
括正は分析して、左手を前に出して、握る仕草をした。
「念縛鎖!」
ズズズ、ピタッ!
「えー⁉︎」
(オケアノスの激流が括正に当たるギリギリで止まった⁉︎)
フローレが驚いていると括正は左手の念で水を抑え続けながら、右拳を構えた。
「
括正は右拳を水に当てた。それを見ていたルシアはニヤけていた。
(不思議…拳が水の中に入った瞬間水が流れるように口の中に引き返してゆく…)
「熱いいいいい!」
一方でフローレは悲鳴をあげていた。びしょびしょだ。
「何これ⁉︎ 私水を放ったのよ! 熱湯じゃない!」
「種を明かそう、明日のため!」
括正は叫んだ。
「
括正は右手で銃のポーズをして、ヘリオスの大剣に向けた。
「バーン!」
キラキラキラ〜。
「ヘリオスの大剣が…消えた⁉︎」
フローレは唖然としていた。括正はふーっと人差し指を吹いた。
「熱を消すのも可能ってわけさ。……あんたの太陽の技を借りる技もできるかもな。なんだっけ? 剣の方……屁こき虫はあきまへん?」
「ヘリオスの大剣だよ!」
「そうそう、変哲な番犬ね。えーと、」
括正は太陽を意識しつつ、両手の親指と人差し指を立て、上に上げた。そしてそこから刀を持つことを意識した両手の仕草をした。
「あっ、できた。」
「えっ?」
「えいっ!」
ズドオオオオオオン! スパッ!
怪物の右側が斬れた。フローレは怒っていた。
「もぉー! この珍獣!」
フローレは残った腕の
「
シュッ!
熱の斬撃が巨大な
「ヒートがビートに乗りまくるぜ!」
括正は怪物に対して何度も
「メロ! メロ! メロ! メロ! メロ! メロ! メロ! メロ! メロ! メロー!」
熱の衝撃に怪物は後ろに倒れていく。
「うううー! 私の創った怪物が…壊れていく!」
怪物と共にフローレも後ろに傾く。それでも彼女は諦めなかった。
(私はまだ、立っている!)
フローレは両足から桜楓を出すことに飛行を可能にして、斜め上空にいる括正に飛んでいった。両手の親指と人差し指を立て、上に上げてから、剣の持ち方を意識した。
「ヘリオスの大剣! うわああ!」
フローレは叫んだ。括正は少し切なそうな顔で手で銃を作りヘリオスの大剣に人差し指を向けた。
「……バン。」
ヘリオスの剣は跡形もなく消えた。フローレは闘志を失わずに叫び続けて向かった。続いて括正は左手を前に伸ばした。
「……念雷破極。」
ババババババババババ!
左手から赤い念の雷が解き放たれる。
(その形態だと、手法なしでできるのね。やるじゃない。)
ルシアは微笑みながら内心感心していた。フローレに念雷が直撃する。
「きゃああああ! いやああああ!」
フローレは悲鳴をあげた。しかし、叫ぶ気力もすぐに失い括正をただただ睨む。括正は真剣な眼差しでいつもの口調に戻った。
「君はすごいね。夢に向かって真っ直ぐに突き進んで。手段や目的がどうあれ、目標を持っている時点で、君は素晴らしく、輝いてるよ。絶望的で負けそうな状況でも、諦めずに僕に立ち向かった君の姿でさえも、きっと誰かを照らせる英雄の素質さ。でもできれば、誰かのために尽くす生き方も覚えて欲しいな。今回は僕が君を悪と判断しちゃったから、残念ながら、僕は君を痛いじゃ済まない深傷を負わせないといけない。今度会うときは、是非一緒にお花畑で浮かれ騒ぎしたいな。…」
括正の右手には紫のオーラが宿った。
「また会いたいな。」
左手の念雷破極を引っ込めて、即座に右手から
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