七章 侍道化と荒海の魔女 その21

「んん〜ん?」

 括正は不思議な場所にいた。

(さっきまで裸だったのに僕は何故服を着ている?)

 トントン。

(背中を叩かれ…)

「やあ、括正。」

「括正、久しぶり。」

「父上、母上。久しぶり〜。」

「身長すごく伸びたね〜。」

 伸正はそう言うと両手で括正の双方の二の腕を触り始めた。

「筋肉もついたね。おまけに念操者になるとは。頑張ったね。」

「へへ、ありがとう。桃源先生の教えの賜物だよ。……ここは?」

 括正は何もない辺りを見渡した。伸正は笑顔で答えた。

「ここは絆の念界。強い繋がりを持つ者同士が引き寄せ合える空間だ。時間が過ぎるのも遅い。」

「スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナからのフラダンス。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナからのフラダンス。」

「「「……ん?」」」

 岩本の苗字を持つ三人は何故かその発言をしながらその行動をする人物に目を疑った。白髪黒髪ごちゃ混ぜボサボサの髪型、その上には虎っぽい耳,尻尾も生えて服から飛び出てる。シマシマで先っぽが円柱だ。白いカンフーパンツに水色と黄色が合わさった短い袖の中華服,武器は太刀一本背中に、刀が二本腰に。腕は細い人の腕だが、人じゃない。虎型の怪人だ。括正は誰だが気づき、手を振りながら声をかけた。

「ライガー殿〜!」

「ほよよ?」

 その者、即ちライガーは振り向いた。

「ポンポン、ほよよ。ほよよ、ポーン!」

「元気で何より、久しぶり。」

 括正は彼に近寄った。男は首を傾げる。

「お主は誰ぞ、もし?」

「まさかの反応、すってんころりん。だがこけないぜ。ファンファーレ!」

 括正はジェスチャーをしながら反応した。そして帽子を抑えたままお辞儀をする。

「括正だよ。まあ覚えてないか〜。」

「嘘はいかんて〜。」

「ふぇ?」

 括正は予想外の返しに戸惑った。すると、ライガーは太鼓を取り出して叩きながら歌い出す。

「正直〜♪ 孤独な言葉♪ みんな嘘つき〜♪」

 ライガーは歌い終わると、太鼓をしまった。

「嘘をつくこと。それは人を騙すこと。人を傷つけること。罪に溺れること。嘘つきは人食い鬼の始まり。」

「泥棒じゃない? ライガー殿。」

「とにかく嘘をついちゃいかんて〜、もーん! 括正はミディアムフレンドリーだが暗そうな雑魚小僧よ。お主みたいに全力フレンドリーで闘気と念術が練り上げられてる俺より身長が高いマッチョじゃないんよ。ついでにアゴ証拠あるんか?」

「あんた東武国で僕と幸灯に飛びかかって、化け物に威嚇して逃げた。」

「すまんて〜。お主括正だった。にしても強くなりすぎかて〜。後それ秘密にしといて〜。恥の極み。」

 ライガーがお願いすると、括正は少し意地悪そうな顔をした。

「どうちよかなん〜?」

「んもーん〜。頼むて〜。」

「……ってかあんた。」

 括正はあることに気づいた。

「どうやってここ入れたん? 結構ミステリーだよ。」

「ってかここはどこん? ジャンピングしてたらいつの間にか着いちまった寸法よ。」

 ライガーはキョロキョロ辺りを見回すと、括正はアゴ髭を触った。

「ここ半分精神世界なんだけどね。…あっ、穴空いたやん。あんたの出口じゃね?」

「ほんとだ俺がいた場所かも、クローリングしてみるわ。」

「スキッピングでええやないの〜。」

「いんや、ここはホバリングよ。」

「ええやん。それで行こう。レッツ、ウォーキング。」

 括正はそう促すと、ライガーは穴に向かってスキップし始めた。

「ライガー殿!」

 括正は思わず叫ぶと、ライガーは振り返った。

「なんだい、括正どん?」

「……あんたは結構好きだ。」

「ありがとピョン! 俺もお主は好きよ、好きよ、好きの極み。」

「また逢えるかな?」

 括正の問いにライガーはビシッと人差し指を腕を伸ばして、上に向けた。

「星々の輝きを見てみ? 彼らが願いを叶えるために輝き続けてたのなら、大丈夫。また逢えるさ。」

「そうか。…そうだよね。」

「ホウホウ、ボンボンボン! 今はまたね!」

「またね〜!」

 括正の別れの挨拶を確認すると、両親のとこに戻った。節代は口を開く。

「ここは絆の念界。強い繋がりを持つ者同士が引き寄せ合える空間よ。」

「えっ、節代。今までの出来事無視するの?」

「あなたが危険を察知して、父上と一緒にここに引き寄せたの。」

「節代、旦那を無視しないでくれる?」

 伸正はツッコミを入れると、括正の方を向いた。

「今回助けられたのは、特例中の特例だからね。いつも助けられるわけじゃないから、気をつけてね。」

「肝に免じておく。」

「何があったの?」

 節代は括正に問いただした。括正は下を一瞬向いてから、応答する。

「今東武国にものすごく悪い奴が攻めてきてるんだ。」

「……もしかして荒海の魔女かい?」

 伸正は問いただした。括正は淡々と返答する。

「あっ、ルーちゃんのこと?」

「「ルーちゃん?」」

「あの人とは和解したよ。」

「「和解〜⁉︎」」

「まあその前に何発か重傷負わせたけど。」

「「ええ〜⁉︎」」

「けど、今違う敵が来て、共闘してくれるように説得したよ。」

「「説き伏せたの⁉︎」」

「僕の方が体力ないからお姫様抱っこもして運んでくれたんだ。」

「「荒海の魔女がお姫様抱っこ⁉︎」」

「一緒に同じ技もやったよ。」

「連携技⁉︎」

 今度は伸正だけが叫んだ。ふと彼は横を見る。

「節代? …あっ、だめだ。衝撃の連続で意識がほぼないや。」

「なんで?」

「母上は正義感強いのは括正充分知ってるでしょ? 荒海の魔女みたいなわっるーい奴と息子が一緒なんて、耐えられないんだよ。」

「父上…母上の顔に落書きしていい?」

「やめなさい。怒られるの父上だから。」

「ちぇっ。…でもさ、父上。ルーちゃんは世間で言われてる程悪い人じゃないよ。」

「……そうか。括正はそう感じたんだ。だったら括正だけでも、ルシアさんの友達で居続けてあげないとね。善でも悪でも、孤立することは決して良くはないからね。」

 伸正はそう言うと、括正は頷いた。伸正を路線を戻すように話を続ける。

「ところで愛する息子よ。荒海の魔女と和解したってことは、今は違う敵に手こずってるってことかい?」

「まあね。でも勝てるとは思う…ただ…。」

「ただ?」

 伸正は言葉のおうむ返しをすると、括正は少し考えてから、応答する。

「今回は、ただ勝つだけじゃだめな気がする。相手は人を人と見ない極悪非道の存在。それは間違いない。ただ、例えば僕は今は離れても、血は繋がっていなくても、思い出の中で父上と母上が僕のことを愛してくれたことはわかる。もしかして、敵は幼い頃誰からも、もしかして親からも愛されなかったのでは? そう思うと、僕は無念のまま終わる敵を無情に殺すことはできない。」

「括正…。」

 伸正は括正の大きな背中を強く、しかし愛を込めて叩いた。

「それだよ。そうなんだよ。世界は白と黒だけでできてるんじゃない。色んな色がこの世界を輝かせてるんだ。君の善意ある行動も人によっては悪にも視える。己が邪悪と感じた瞬間、悔い改めればいい。即ち、相手を害する悪だって悔い改める可能性もある。そう思うのもいいかもしれない。」

 伸正はそう言うと親指を立てて、括正に向けた。

「勝てると思うなら勝ってみそ。そして心と気持ちをぶつけるんだ。」

「わかったぜ、父上!」

 括正は全力で応答した。

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