七章 侍道化と荒海の魔女 その16


 昼なのに暗い東武国の岩場をルシアは一人で歩いていた。

「そこだね。」

 ルシアは勘づくと右腕を曲げた状態で上にあげた。

海神からの受難ロード・デリュージュ!」

そう言いながら腕をくいっと前に向けると、魔法陣が展開され、大量の海水が放出された。

「グハッ!」

 その大きな者は海の重撃に直撃した。

「くくくく、とてもとても痛い。常人なら死んでる。おまけに身体が重くなった。流石は荒海の魔女、ルシア・シーキング。」

「へぇ〜、アタシを知ってるとはね〜。苗字は伏せていた時代が長いんだけど、なんで知ってるんだい?」

 ルシアは不気味な笑顔で問いただした。その者は痛みに耐えながらもにやけていた。

「くくくく、ワシは闇に通じる技を持つ者は大抵知っている。もちろん、侍道化も然り。」

 その者はバッっと両手を広げた。

「強い力を持つのなら、闇の力を手に入れるがいい! 歯向かう奴はやっつけて、踏み潰せ! ワシは闇男爵! 世界を暗くする男!」

「あら、少しは気が合うじゃない!」

 ルシアは笑顔で応答した。

「アタシは生きる答えも、運命も、私だけのハッピーエンドも闇の中でしか見つけられないって信じてるの!」

「くくくく、気が合いますな〜。」

「それに、アタシは地獄を創る秀才なの。」

「ほぉ〜? ワシの闇とどちらが強力かな?」

 闇男爵は人差し指と親指で、闇の輪っかを作り出した。

黒輪参クロワッサン!」

 闇男爵はフリズビーのようにそれを投げると、闇の輪っかはギザギザができて拡大した。

 バチン!

「ほう、ルシア殿。触手で打ち消すとは…。」

 闇男爵は観察した。

「だが、生憎この技は威力の割に魔力消費量が少ない! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン! 黒輪参クロワッサン!」

  砂埃が舞い、大爆発が起きた。

「くくく、荒海の魔女、敵に非ず。」

「アタシの首を獲れる者からは程遠いわね。」

 ルシアは左手で軽く砂埃を払った。闇男爵は後退りをする。

「むむむむ、無傷ー⁉︎」

「一個一個は先程私が戦った男の子の斬撃より軽い、軽い〜! ……アタシから行くわよ。」

 ルシアは闇男爵に急接近した。

(速い! 拳に闇を宿してる? くくくく、ちょうどいい。ワシにとっては闇の力は無力…)

 闇男爵がそう考えてる間、ルシアの拳は唸った。

「墨突き!」

 ぼこおおおお!

「があああああ!」

 闇男爵は悲鳴をあげた。ぶっ飛ばされながら思考が回る。

(ワシの体に触れた瞬間、闇は消えた。間違いなくな! まさかあの女、筋肉だけでこの心臓が破裂するようなダメージ量を⁉︎ 血筋だけじゃない! 一体どんな修行をしてきたんだ⁉︎)

 闇男爵は勢いをどうにか押し殺し、大きな鎌を手元に召喚した。ルシアにやけていた。

「あなたは死神? そうだとしても怖くない。アタシは地獄を創る俊才だからよ。」

 ルシアはそう言うと海竜殺しの黄金暗黒魔剣シー・レイジ・ブレードを手元に召喚した。闇男爵はニヤけていた。

「ほう〜、それが海の秘宝の一つ〜。海竜殺しの黄金暗黒魔剣シー・レイジ・ブレード。あなたを倒して、伝説の剣、ゲットだぜい!」

 カーン!

 鎌と剣が空にてぶつかり合った。

「闇男爵とやら、いい殺意ね。」

 ルシアはニヤけていた。闇男爵はあることに気づいた。

(ワシは両手、奴は片手しかも左手! まずい、もしかして…)

 闇男爵が慌ててる間、ルシアは右拳を構えた。

「でも、不届き。」

 ボコオオオオン!

「ふぎゃあああ!」

 闇男爵の顔面にルシアの拳が炸裂した。ドコオオンと今度は地面にぶつかる。

「これ以上自尊心を奪われたくないなら、質問に答えとくんだね。ここに来る途中何十人の人が魂抜かれたみたいに倒れていたけど、アレはお前の仕業?」

「ゲホッ、グハッ!」

 闇男爵は血反吐を何回か吐いてしまった。

「くくくく、ワシの特技はあらゆる生き物の夢と希望を失くすこと。特技を活かして何が悪い。」

「悪さなら負けないわよ。」

 ルシアは自信を露わにすると、変化した闇男爵の特徴に気づく。

「ゴッめんなさい、闇男爵。あなたの眼鏡壊しちゃったみたい。……あなたの正体がわかった……その赤い眼に闇の力、いにしえの黒吸血鬼なのね。普通の人間よりも妙に大きいのも納得ね。」

「くくくく。」

 闇男爵は笑っていた。

「脳筋女と思わせといて、とんだ名探偵ときたもんだ。困った困った。正体はなるべくばらしたくなかったが、バレたからにはあなたも殺さなくてはならない。」

「アタシはこう見えてしぶといの、あなた程度の攻撃でアタシを冥府に送れるのかしら?」

 ルシアが挑発すると、闇男爵は青筋を立てた。そして再び、鎌を構える。

「パワーはあるが、スピードはどうだ!」

 ビュッ!

(消えた…後ろ!)

 ルシアは迷わず後ろに振り向いた。

 カンカンカンカンカン!

(神速の連続斬撃! 反応が遅かったらやられてた!)

 ルシアが後退りしながら攻撃を防いでると、闇男爵は嘲笑う。

「くくくく! どうしました、ルシア殿⁉︎ 防戦一方でございますなー!」

「……慣れちった。」

「あぁ⁉︎」

「無駄のない動きが参考になるわね。真似させてもらうわ。」

 今まで片手だったルシアが両腕で剣を構えた。

「くくくく! 傑作ですぞ、ルシア殿〜! そのようなユーモアも併せ持つとは…」

 カカカカカカカカカカカカ!

「何ーっ⁉︎」

(ワシより速い! 数秒でワシの動きに慣れたというのか⁉︎)

 カーン!

(鎌を弾かれた! まず…)

 ルシアは容赦なかった。

「捕食者の対処法くらいアタシに掛かればお手のもの。」

 ビュッ!っとルシアは高速移動した。

(消えた!)

「鮫肌斬り!」

(後ろから声が…)

 シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパ!

「ぎゃあああああ!」

 八つの斬撃が闇男爵を襲う。ルシアは振り向いて剣を向けた。

「言ったでしょお? アタシは地獄を創る秀才よ。」

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