七章 侍道化と荒海の魔女 その15
離れた町にて凪子は杖を振るっていた。
「さあ、さあ! 植物の怪人―プラントリアン達よ! フローレ様のために旧国民を始末しろー!」
「プラララ〜!」
様々な形をプラントリアン達は指示通りに町を襲った。
「ぎゃあああ!」
「化け物おお! こいつら腕が伸びて殴った、刺したり、巻きつくぞ!」
「銃が効かねえぞ!」
「斬撃もすぐに再生する!」
戦い敗れたり、逃げまとう人々にお構いなしにプラントリアン達が進軍する。そんな時だった。
スルルル〜!
「プララ? ラ〜⁉︎」
一体のプラントリアンが桃色の布帯に巻きつかれ、隠れている布帯の主の元に引き寄せられた。
「サンライト、分析です。」
「了解です、幸灯様。」
サンライトはピピっと即座に分析した。
「どうやら、本体はメイド服の女が持ってるようです。」
「何体倒しても無駄ということですか?」
「左様でございます。」
「この子達は何に弱いの?」
「燃焼か冷却が妥当かと。」
「……一応確認なのですが、これって私じゃなくても対処できる人って本当に近くにいないんですか? 逃げたくてしょうがないんですけど。」
「私は幸灯様の従者であり、主人ではございません。ですが、ここであなたが逃げればの被害予想はご報告できます。」
「うう〜、サンライトの意地悪。……今の私じゃ火の魔法も貧弱だし、雷音花吹雪も強力ですがあくまで目的は杖を奪うこと……じゃあアレでやりましょうか?」
「さすが幸灯様。今回の戦いに最適なコーデでございます。」
幸灯は覚悟を決めると大通りに出た。すぐに凪子は彼女に気づいた。
「桃色の髪に華奢な体型…フローレ様より背が低い。萌えええええ!」
「ねえ! あなたはなんでこんなことしてるの⁉︎ 答えなさい!」
幸灯は勇気を振り絞って、問いただした。一方で凪子の思考は高速回転していた。
(えっ、まさかフローレ様のプラントリアン達に立ち向かうつもり? え? よく見たらブルブル震えてらっしゃる! 健気でかわゆす〜! ああ、傷つけたくない! けど同時に、さらに怯える姿も悲鳴も是非視聴したい! 推しにするか否かの瀬戸際。でも私にはフローレ様が〜。アレ、私そういえば質問されたよね? 答えなきゃ悪の名折れ。)
「私は凪子! フローレ様一の下僕! お前とこの国に地獄を見せた後、フローレ様のユートピアにしてやる〜! アッハッハッハッハッハッハッハ!」
(恐ろしいほど良く決まった。推しのために尽くす人生、最高が過ぎる!)
凪子は優越感に浸っていた。幸灯は震えながら指を差した。
「なっ、何ですか、あなた達⁉︎ よ、弱い者いじめして恥ずかしくないんですか⁉︎」
幸灯は震えながら指を差した。
「あなた達なんか全然怖くないんですから!」
「プラララー!」
ドン!
「きゃああ! あっ!」
幸灯は一体のプラントリアンの攻撃を喰らって少しぶっ飛ばされた。
(ちょ、お前ら心ってもんがないんかー⁉︎ ……あっ、あるわけないか。)
凪子はそう思っている間、幸灯は体を横にな状態で頭を抱えていた。
「ひーっ! ごめんなさい! 調子に乗ってました! あなた方の全てが怖いです〜!」
「いや、打たれ弱っ!」
(でもそこも萌ええー! かわゆす〜!)
凪子はツッコミを入れながら、内心興奮していた。サンライトは心の中で幸灯に話しかけた。
(あの、失礼ながら幸灯様。ヘタレが過ぎます。)
「うう〜。だって怖いんだもん。」
(……これから幸灯様はたくさんの仲間に恵まれるでしょう。既に素敵な出会いをいくつかしてらっしゃいます。ですが今は物理的には一人で立ち向かわなければなりません。こういう時の唯一の友達は愛と勇気だけになります。)
幸灯はサンライトの言葉を心に刻むと、自分を奮い立たせて立ち上がった。そして腕でエックスを作り、脚を内股で曲げた状態で魔力を高めた。
「ドレスアップ! コード: 雪女!」
幸灯はそう言うとバッっと両手をやや下に広げて、脚は真っ直ぐ、足先の向きは斜めで足を交差させた。光が彼女を包み込む。
(えええ! まさかのお着替え⁉︎ しかも眩しいから裸が全く見えない! 少し残念! だがそこも健全でファンタスティック!)
凪子は脳内で葛藤していると、幸灯の新たな姿が露わになった。
(はう〜! もうこれ以上萌え死にさせんといて〜! 何その清楚系コーデチョイス! 水色の着物に青い帯白いふわふわマフラー! 髪もさらに長くなって桃色の中にちょくちょく白髪が混じっているセンス!)
「プラントリアン達、やっておしまい!」
『プララララー!』
植物怪人達は一気に幸灯に向かって走り出した。幸灯は神経を尖らせて集中する。
「……視えました、突破口。」
ビュッ!
「プラ?」
「消えた⁉︎」
(魂のないあなた方は、私の冷気に触れただけで、)
「詰みです!」
「プ、」っと次々にプラントリアン達は幸灯がそっと触れただけで固まってしまった。
「あわわわわ〜!」
凪子は慌てていた。
「こうなったら、プラントリアンをさらに増やして、」
「させませんよ。」
「はひー!」
いつの間にか既にいたプラントリアン達は全滅しており、幸灯は凪子の目の前にいた。
(ひーっ! よく見たらこの子目が赤い! 絶対吸血鬼じゃん! ああ、でもこの子に噛まれて血を吸われるの私的にご褒美かも! ってちがーう! 私にはフローレ様というお方がいながら! 凪子の浮気者〜! でもこの子近くで見たらまじでちっちゃくて可愛い! お持ち帰りしたいレベル! って酔っ払ったおっさんか私は⁉︎ いや落ち着け、落ち着け! 喧嘩腰の何か言わなきゃ!)
「私は凪子と言います。あなたのお名前なんて言うの?」
(いや何日常会話はじめとんじゃ、私ー⁉︎)
「私幸灯と申します。凪子さんって言うんですか? 素敵な名前ですね〜。」
(そして答えてくれたー⁉︎ いい子過ぎる〜! 戦闘モードが切り替わった愛らしい笑顔と上目遣いの二段攻撃があきまへん! もおオタクであるお姉さんは堪りません!)
「あなたは何をしでかすかわからないので、ちょっとお仕置きさせてもらいますね。つまりおねんねです。もちろん本気ではやらないのでご安心を。」
(まさかのサディスティックな発言⁉︎ と思わせての優しさ⁉︎ やばい! 尊すぎる!)
凪子が内心興奮していると幸灯は右と左の四本の指を揃えて相手に手の甲を見せた状態で、それぞれの小指と薬指同士をくっつけて、そこに冷気を溜めた。
「雪女の投げキス。」
幸灯はそう言うと、唇に指を添えた。
「チュッ。」
その音とともに幸灯の口から軽めの冷風がヒューっと放出された。
「うっ、冷たっ!」
(かっ、かわいいい! しかもめっちゃいい匂い! って言ってる場合じゃねえ! い…意識が…)
「お…し…が……増…え…た。…うっ、ガクッ!」
凪子はそのままその場に倒れた。幸灯は凪子の手元にあった緑色の杖を拾った。
「これは研究のしがいがありそうですね。サンライト、保管です。」
幸灯は指示をすると杖は手元から姿を消した。ふと気絶した凪子を見つめる。
「……
幸灯は細い布帯を出して気絶した凪子の両手首を彼女の胸元で交差するように置いて十字結びをした。
「
幸灯は続いて凪子の胴体を包み込む大きさの毛布を創り出して、彼女にそっと優しく掛けた。
「サンライト、筆と紙を用意してくださる。公務関連の方に置き手紙です。」
「お疲れ様でした、幸灯様。このサンライト、誠に勝手ながら、既に一筆書かせてもらいました。」
幸灯の前にそれが現れた。
「さすがですね〜、サンライト。」
「恐縮でございます、幸灯様。」
幸灯は置き手紙を毛布の上に置くと、宙に浮いて、辺りを見渡した。
「まだ昼にもなってませんよね? あそこだけ、妙に暗くないですか?」
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