七章 侍道化と荒海の魔女 その6

 どれくらいの時間が経っただろうか。

「ハァ…ハァ…」

 ルシアは腹を抑えながら、括正を睨んでいた。

「いちいちバウスプリットで絶対風格敗るのやめい! こっちは何回死にかけたと思ってるんだ! いい加減にしろ!」

「やだよ〜。だって僕あんたに踏み潰されるのも握り潰されるのもやっだもーん。」

 括正は返答した。そしてあることを付け足す。

「ってかあんたのその技、的を大きくするうえに防御力下げてるんだぜ。本来のルーちゃんならバウスプリットなんて避けれるか弾けられるはずだよ。」

「……あっ。」

「でしょー?」

括正はそう言うとビシッとルシアを指差した。

「一つ確信した。あんたは神なんちゅう全知全能天下無敵の大それた存在じゃない。ただのたまたま恵まれてお強い人物だ。」

「ハァー⁉︎」

 ルシアは怒りで魔力を荒ぶらせて、後ろの海が小刻みなに波紋に襲われた。

「舐めるのもいい加減にしな! 神々の血を私は…」

「だから目え醒ませって、ルーちゃん! あんたは確かに強い。けど土の器のように脆く、欠けだらけ。もちろん、僕もね。」

「それ以上喋るのをお辞め! 生意気な坊や! お前は奴隷だ! アタシの奴隷だ! 神は与えて、神は奪う! アタシもお前の大切を奪ってやる!」

 ルシアはそう言うと、風と海の魔法を込めた。

暗風の双手ストーム・ワルツ!」

(……不気味な細長い煙でできたような二つの手が彼女の双方に現れた。)

「アハハ、哀れ、あ、わ、れ。この魔法はお前の大切を…奪う!」

 二つの歪な手が括正に向かう。

「……道化乱歩。」

「逃げても無駄よ! ……なんて奴! 回避しつつ砂を舞わせて…視界が…」

(邪ッ狩ル!)

 ゴキッ!

「ぎゃあああ!」

 ルシアは悲鳴をあげる。括正は綺麗に飛び膝蹴りを当てた後に後ろに着地した。

「あんたを直接攻撃したらあの魔法は消えるんだね。」

「ムキーッ! 許さん! こうなったら火力攻めよ!」

ルシアはそう言うと、横に一回転して、両手を広げた。

 ゴゴゴゴゴゴ!

括正は即座に反応した。

(気のせいかな? 体が重くなった気がする。ルーちゃんの周りを紫色の泡のような形の丸いオーラが包み込んでいる…闇がダダ漏れだ。)

 括正は恐る恐る腕を伸ばした。

「……念縛鎖! ……紫雲英咲! …だめだ、効かない。ソレどころか痛みが手を走ったぞ。」

 括正はそう言いながら、手をほぐしてから、再び構える。

「これならどうだい?」

 括正はそう言いながら、まるで重いものを持ち上げるような仕草をした。すると、周りの石ころや木片、船の残骸が何個も上に浮き上がる。

「この物量は耐えれるかな?」

「……。」

「どっこいしょ!」

 一気に多くの物がルシアに向かう。しかし、ルシアの包む“泡”がそれらを全て粉々にした。

「マジかぁ〜。だめか〜。」

 括正はわざとらしく残念がると、冷静に分析した。

(まだ何も仕掛けてこない。恐らく強力な遠距離攻撃……試してみるか。)

括正は決意すると、左手の人差し指と中指を横に重ねて、指先をビッっとルシアの方に向けた。

(大事なのはタイミング、見極める!)

一方ルシアは技の準備をした。最初は両拳を握って、体の左側で右腕を内側の横、左腕は外側の縦にして十字を作る。手に紫のバチバチが唸り始める。続いて右手を腰に引っ込め左手の指を揃えて右の空を勢いよく突く。紫のバチバチが鳴り続ける。後は簡単、両手から標的に放つだけ。

「海の支配者になるアタシのいかづちをその身に受けることを喜びなさい!」

 ルシアはそう言い終えると、技を叫びながら腕を伸ばし、解き放つ。

「念雷破極!」

 ババババババババ!

(速い! デカイ! 避けれない! だが…見切った!)

 括正はルシアの放った雷が指に当たりそうな瞬間、クイッと左腕を右に曲げた。

えんしん!」

 括正は叫んだ。ルシアは焦る。

「なっ、何―っ⁉︎ アタシの念雷破極を指で受け流し、開いた右手に納めて縮小してるー⁉︎」

「念雷破極っていうのかい? 名前のセンスがワンダフォー、っとふざけてる場合じゃない。返すぜ、この技。」

 括正はそう宣言すると右腕を前方に伸ばした。

「奉還!」

「……えっ? ぎゃあああ!」

 ルシアはたちまち黒焦げになって倒れ、そうになった。

「ふーっ、ふーっ!」

「おっ、踏ん張ったね。流石ルーちゃん。僕だったらとっくに死んでるよ。」

「……。」

「念雷破極ってすんごい技だね。動きはさっきルーちゃんの動き見てだいたいわかったけど…僕もできないかな?」

「ふん! 馬鹿なこと言うんじゃないよ! 念雷破極は神々の血を受け継ぐアタシだからこそできる崇高で至高な…」

 バチバチ!

「あっ、できそう。」

 勝手に動きを念力を込めながら赤いバチバチを手に宿した括正がつい口走った。ルシアはしばらく唖然としていた。

「き……き……き……貴様あああ!」

 ルシアは両腕で括正の首を締めんと真っ直ぐに走ってきた。括正は少し慌てながら逃げながら喋る。

「えっ? えっ? 何? 何? その僕、普段女性に好意持たれないから、ってか冷静に考えたら僕みたいな優良物件に好意持たない僕と同世代の女子ってほんとセンスねえわ! けどそうやって自分に関心があってグイグイ迫ってくる女子って緊張でドキドキだけど、ちょっぴり嬉しい〜。……あっ、そうだ。僕たち戦ってたんだ。じゃあ…」

 括正は振り返り、手に溜めてたエネルギーを解き放った。

「念雷破極〜!」

「うぎゃあああ!」

 赤い雷がルシアに直撃して彼女は海に向かってぶっ飛ばされた。

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